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国道128号線
行合隧道


千葉県勝浦市
平成21年12月13日 来訪



崩れ行く静かの切り通しの向こうから
微かに潮気混じりの風が頬にそよぐ。
今や文明から乖離したかのような山の中。
しかし、確かに此処が外房の交流を繋ぐ最も文明的な場所であったのだ。

いや、外房をと言う一地方越えて、
全国的に見てもかなり重要な遺構とすら思われる隧道が
殆んどの人に知られる事もなく封印されていたのだ。


















瓦礫の向こうをせろーさんが覗き込む。

苔生し周りの岩盤と同化しつつも、人口的に並べられた切り石がアーチを描く。


自分がこの隧道の存在を知る切欠となったのは、まきき氏運営のサイト『 トンネルコレクション 』である。
まきき氏は今までも千葉県内の貴重な隧道を紹介してきたが、この『 行合隧道 』の発見には本当に度肝を抜かされた。

なにせ、千葉の古隧道において石材を使った物件は本当にごく稀、唯一例外的に内房の明鐘隧道北側坑口に使われているぐらいかと思われていたからだ。

だが、房総を越えて全国的にみても貴重な極上のレア物件である事を思い知らされる。



















まず目を引くのがこの異形の坑口
必要最低限の石材のみを使ったポータル。

石川県の戸谷隧道北側坑口と似てるかな?、と思ったが改めて見返すとやっぱり似てない。(戸谷はレンガ、こっちは石だし)
周りが固い岩盤で覆われているのでとり合えず最小限の資材だけを使ったのであろうか?
ただ、それならばワザワザなんで石で外壁を覆ったのであろう?。
基本、千葉の隧道は素彫りがデフォルトだ。
天城山や伊勢神など石材を使う隧道の背景には、必ずといって良いほど地盤の悪さが上げられる。
隧道が彫りやすい言われる房総の地質でも、此処は割合崩れやすい箇所だったのか。

坑口だけ見ても様々の憶測が頭を駆け巡るが、内部は更に驚きの内容であった。











驚きのオール石材隧道。
加工の手間がかかる石材を使っての隧道は全国的に見ても数が少ない。

現役隧道で残されているのは伊豆の天城山隧道、愛知の伊勢神隧道のみ(と言うコトになっている)。
その他、廃隧道をあわせても正直数えられる程しかないのだ。
周知の事実のように前述の2つの隧道は土木遺産に認定されており、天城山に至っては国の重要文化財として扱われている(ただ、建造物としてより名作の舞台になった事実がでかいが)。

上記を踏まえて本来であれば、この隧道はもっと評価されるべきなのである。


















びっちり敷き詰められた石材。
几帳面に整えられた石材で巻かれた坑内は北陸の旧R8「阿曽隧道」を思いだささせた。
まあ、偶然で技術的関連性は無いと思われるが。

かつて房総を代表する山『鋸山』では石材の採掘が行なわれており、房総石として全国出荷されていた。
此処で使われている石材も鋸山産の物ではないだろうか?
鋸山が迫り出す明鐘岬にも北側坑口に石材を使用した旧「明鐘隧道」があるが、こっちはフルに石巻と言うゴ−ジャス使用である。

かなり房総の隧道としては例外中例外的な行合隧道だが、一つだけ房総らしい特徴を持ち合わせている。

それは天井の高さ。

横は何とか一車線といった幅員だが、高さだけは大型車も余裕に通せる。
自動車交通以前にも関わらず、ただ歩行者だけが通るにはオーバースペックな高さを持つ古隧道が房総には多いのである。
岩富隧道のレポで既に述べているが、これは採光の為に坑口を高く取っているのである。
現在、坑口の両側がかなり埋まってしまい坑内が暗くなってしまっているが、現役時は日が出てる時間ならば坑内に十分な明りが取れていたに違いない。

























南側坑口。
90%近く閉塞。
体をよじって何とか出れるぐらいの隙間しか残っていない。



















南側坑口。
ホント、わずかな隙間が残っているだけ。
ちょっと変わった部分としてアーチ頂上の要石が三つあることである。
特殊な部分が多い行合隧道だが、これまた珍しい特徴である。
おそらく上部からの圧力が強く、帯石をこの『三連要石』で支えるような形にする事でアーチ頂点部分を強固な物にしているのではないか?

じつはもう一つこのような隧道が九州の大分にもあるようだ。
九人ヶ塔隧道という大正2年に開通した隧道である。
此方も同じく総石材隧道だ。
何となくどちらも背後にある設計的思想に共通したものを感じる。
べつに設計者が同じ人物だったとかではなく、開鑿の条件が共通していて「そうせざる得なかった」と言う物だ。
だがもしかしたら九人ヶ塔隧道を開鑿する際に、行合隧道が参考にされたと言う可能性も無くは無い。





















数歩下がるともう殆んど坑口は見えない。
前述のとおり隧道の天井は5m近くあり、けして低いものではない。
その殆んどを埋め尽くす土砂は何処から来ているかと言うと、次の画像を見て頂きたい。



























深い切りたった断崖の谷間・・・ではなくこれが行合隧道南側出口の掘割なのである。
掘割両脇から崩れ落ちてきた岩や土砂によって隧道は埋められてしまったのだ。
此方側から来たら隧道に気付けたかどうか。
しかし両脇とも土砂で埋まってしまったりすると、雨水などが坑内に溜まってしまい水没してしまう隧道も多いのだが行合隧道内部は乾いていた。
水没する隧道としない隧道の基準でなんなのだろう?
ともかく遠い将来はわからないが現時点では行合隧道の通りぬけ可能(推奨できるものではないが)。

折角なので南側の新旧分岐まで歩いていってみる。

































南側旧道の様子。
断崖掘割もアレだが、こちらもかなりアレな状況。
もはや道の体をなしてない。































うえっぷ。







































笹の激籔を泳ぐ様に進んでいると、脇に崩壊したバラック小屋が。
火災で焼け落ちたようだが、生活家具も紛れたままの所を見ると人が住んでいた様だ。

撤去もされずそのまま放置されているのが一際寂しい。























よーやく現道R128が見えてきた。
が、分岐間際まで濃密な籔が続いているのにクラクラしてくる。
12月でコレだからホント房総の廃道は恐ろしい。
絶対夏場には近づきたくない。
























現道へとたどり着くが結構な段差。
飛び降りたいがカーブと藪で見通しが悪く、車が来そうで怖い。
何台かの車をやりすごす。
この時のドライバーは段差上の籔から顔を覗きだして辺りを窺う泥だらけの男にきっと恐怖しただろう。
耳を澄ましてようやく車が来る気配が無い事を察してジャンプ。
意外に高さがあがって、着地時に結構な衝撃。
足が痺れてよろけそうだが車が何時来るか解らないのでさっさと歩道へ脱出。



















歩道より国道南方を見る。
眼前に見える隧道は『浜行川隧道』、その右手に見える谷積み法面の段差が先ほどまでいた旧道分岐。
『浜行川隧道』も元々は明治開鑿で行合隧道の兄弟分である。
山さ行かねが 』のヨッキれん氏の 調査 によると『興津東隧道』『興津西隧道』として開鑿された両隧道だが戦後に車道拡幅工事を受け、昭和26年に『興津西隧道』はコンクリトンネル『浜行川隧道』として生まれ変わる。
一方、『興津東隧道(行合隧道)』には別ルートが切り拓かれ昭和28年に現道『行合隧道』が開通し旧道は放棄される形となった。

因みに同年5月18日は、この道が県道より二級国道128号線に昇格しており、どうも現・行合隧道開通に合わせたように見える。
しかし、もし、現・行合隧道開通が国道昇格より数ヶ月後だったとすると旧隧道が国道だった時期が僅かにある事になる。

うーん、現道の正確な開通日時が気になるっ。














で、コレが現道『行合隧道』。
典型的な昭和中期の隧道。
微妙に幅員が狭く更に坑内でややキツイカーブがかかっている。
対向車線に大型ダンプが勢いよく来たりするとかなりビビる。
正直、旧道の方がムリなカーブも無く線形が良かったんじゃないかと思う。

ま、考えようによってはこの隧道が出来たお陰で、旧・隧道が手付かずのまま残された訳だが。




















こちらは歩行者専用トンネル。
R128の幅員の狭いトンネルには併設されている事が多い。
かつてチャリンコで房総半島を一周した時、この歩行者トンネルの存在を大変ありがたく思った。
前日、内房のR127明鐘峠激狭トンネル群で何度も大型車に轢かれかけたので・・・。





















現道トンネル抜けて再び北側旧道分岐へ。
こちら側から来ると殆んど分岐に気付かず通り過ぎてしまう。
まさに行合マジック。

一通り周って旧・隧道前へと戻ると・・・

































せろーさんが隧道に向かってガン垂れていました。

この日走行距離10万km越えましたが、まだまだ元気なようです。

























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