解放軍の最も大きなテント—彼らはそこを本部と呼んでいた—では山上たちの明かした
素性に対して非難の声があがっていた。 ライダーズギア開発部。 その名前自体は人間の間でもオルフェノクの間でも知られていないものであったが その意図するところは誰にでもわかる。 ファイズ、カイザのギアをはじめライオトルーパーやサイガ、オーガを開発した張本人たち。 ライオトルーパーには多くの仲間が殺され、サイガには仲間と彼らの用心棒(普段の行動には快く 思っていなかった者は多かったが)草加雅人が殺されたのである。 それらのギアを開発した山上たちは、人間解放軍からすればいわば“戦犯”である。 罵声があがる中、啓太郎は山上たちの言葉に耳を傾けた。 「乾巧君は、今現在おそらくスマートブレイン本社近くに隠れているものと思われます。
ここ最近本社近くの雑居ビルの屋上で彼を見かけたという話が若者の間で都市神話のように
広がっている—」 乾巧の目撃情報はここ数ヶ月前から主に10代の若者たちの間で携帯のメール等のやりとりで
広がっているものであった。 もちろん、そういった情報を啓太郎たちは知らない。 また本社近くでは若者たちの失踪事件もあいついでいるという。 スマートブレインもその情報をもとに近々本社周辺の大捜索活動を行おうとしている。 山上はそれが行われる前に何としても巧たちを見つけ保護すべきだと訴えた。 「で…タっくんを見つけて山上さんはどうしようと思っているんですか?」 啓太郎が真意を測りかねて尋ねた。 「彼にもう一度ファイズとして、我々と共に闘ってほしいのです。」 そう山上が言うと彼の仲間−新城と福地と紹介された二人の男—がそれぞれ真新しい スマートブレインのボックスとオートバジンを運んできた。 山上がボックスを開けるとその中にはかつて巧が使っていたファイズギア一式が入っていた。 それを見て啓太郎は懐かしく思った。それらを啓太郎に差し出すと 「我々に力を貸してください、啓太郎さん」と山上は頭を下げた。 啓太郎の心の中では「もちろん!」とうなづいていたが、周囲の声が彼の決断を鈍らせた。 「啓太郎さん、そいつらは仲間を殺したライダーたちの産みの親だ!そんなやつら信用できない」 「そのファイズギアも何かの罠かもしれない。
スマートブレインがそう容易くそいつらの離脱を許すわけはない!」
といった言葉が、人間からだけではなくオルフェノクの中からも次々と出てきた。 啓太郎は少し声を荒げ 「けど!彼が…山上さんが俺たちを助けてくれたのは事実じゃないか!?」と反論した。 その声に周囲の声が止まる。 「俺は…俺は山上さんを信じたい」と山上の方を見た。 山上は笑顔で一礼し、本部を出た。
後を追い外に出た啓太郎に腕を組んだ少女が近づいてきて、軽蔑のような眼差しで
啓太郎の顔を睨んだ。 思わず後ずさりし 「君は…?」と啓太郎は少女に尋ねた。 さっきの場所には居なかったが、ライダーズギア開発部の一員だろうと思った。 「人間解放軍の勇敢なリーダーか…聞いてあきれるわね。
まるでまとめきれていないじゃない。周囲の声に押されて…情けない」 と啓太郎の質問をそっちのけで非難の言葉を続けた。 啓太郎は少しムッとしたが気をとりなおし 「仕方ないよ、皆スマートブレインが嫌いなんだ。君だってそうなんだろ?」と問いかけた。 「私は…別にそんなつもりじゃない。ただ組織の一員はリーダーに従うだけ。それだけのこと。」 と答えるとぷいっと背中を向け去っていった。 何なんだろう?あの子…名前も言わなかったし…と思っていると 「美香は怒らせると恐いでぇ〜」と横から声がした。 「君はたしか…」 声の主の方を啓太郎が見ると 「俺は新城。以後よろしゅう!」 と啓太郎の肩を馴れ馴れしく叩くと人懐っこい笑顔を見せる。 この男はライダーズギア開発部の一員の中でも言葉使いが独特で、罵声に対して怒り けんか腰な態度だったので、啓太郎も印象には残っていた。 「あいつは山科美香。シグマギアプロジェクトってゆうもんで仲間入りしたんや。
けどなぁ、ずっとあんな感じや。笑ろた顔なん見たことない。かなり優秀らしいけど…
まぁ、あんま声をかけんほうが無難やろな。」と新城は教えてくれた。 へぇ〜、あの子山科美香っていうんだ。 美香ちゃんか…恐いけどかわいい子だな。 笑ったらもっとかわいいんだろうな…。 などと啓太郎は心の中でふと考えた。
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