真っ暗な空間。その中に浮かぶモニターが1年前の闘いの映像を映していた。−ファイズVSサイガ− その映像をじっと見つめる男、山上哲哉の後ろから彼の仲間、遠山が声をかける。 「また観ているんですか、山上さん。」 山上が振り返る。 暗闇でも声と、そして遠山に限っては右手を見ればすぐわかる。 −その右手には赤い布が巻かれている。 山上はそれが、彼が手にかけてしまった恋人の髪を飾っていたリボンであることを知っている。
その話を聞いたのは山上が遠山にスマートブレインへの叛旗の話を持ちかけたときだった。
遠山直樹− 元ライダーズギア開発部員ではあるが、彼はその前にスマートブレインSWAT (ライオトルーパー部隊)の中の「特機隊(特別機動部隊)」に所属していた。 山上とは大学時代の先輩・後輩の間柄であった。 そして恋人である朋美も大学時代からの付き合いであった。 朋美は黒く長い髪が印象的な清楚で明るく、笑顔のかわいい女性であった。 控えめな部分もあって決してわがままを言わず、かえってそれが遠山を困らせることも
あるほどであった。 2年前のクリスマス−そのときも朋美は何一つわがままを言わなかった。 遠山はちょうどそのとき、特機隊に入るべく日々勉強と鍛錬に明け暮れ、忙しい日常を送っていた。 そのため朋美へのクリスマスプレゼントも準備できず、クリスマスのデートの日を迎えた。 「まぁ、一緒にプレゼントを選べばいいか…」と遠山は考え朋美と会った。 「はい、これプレゼント♪」 待ち合わせのオープンカフェで朋美は満面の笑顔で遠山にプレゼントを渡す。 「ありがとう。ひょっとして、これって…?」 プレゼントの紙袋と巻かれた赤いリボンを見て遠山は驚いた。 中身は腕時計ではあるが、そのブランドはスマートブレイン社の中でも上位に入る高級ブランドで 遠山が欲しいと思っていたものである。 「前に直樹が欲しいって言ってたやつだよ」 そう言うと朋美は微笑む。 「マジで?でもこれって高かったんじゃ…」 その値段を考えると遠山は申し訳ないような気持ちになった。 「…実はね、友達がやってるお店で安く譲ってもらったの。だから安心して。」 朋美がいたずらっぽく笑う。 「そうなんだ、ありがとう!…で、俺はちょっと用意できてなくて…でさ 今日朋美と一緒に選べばいいかなぁって思って…ごめん」 そう言うと遠山は頭をかきながら申し訳なさそうな顔で笑う。 「ううん、気にしなくていいよ。直樹、昇進試験の勉強とかで忙しいもん、仕方ないよ。」 昇進試験…そう言われる度、遠山は何か自分がやましいことをしているような気持ちになる。 「特機隊」はオルフェノクの“反乱分子”を抑止するために新しく設けられるもので その特性上友達や恋人はもちろん身内にさえ明かせないものであった。 それゆえ階級昇進試験と嘘をつかなければならないのである。 「で、朋美は今欲しいものあるかな?」 遠山がテーブル越しに身を乗り出し朋美に聞く。 「今欲しいもの…う〜ん…今はないかな」 と考える顔をしながら朋美が答える。 「いやいや…ほら何かない?よ〜く考えてよ。」 「う〜ん…あっ!そのリボン!」 そう言いながら朋美は直樹に渡したプレゼントの包装紙に巻かれたリボンを指差した。 「へっ?」 遠山がきょとんとした顔で言った。 「友達がね、包装してくれたんだけど、その赤いリボンが綺麗だなぁって思って。」 遠山はあらためて包装紙に巻かれた赤いリボンを見る。 包装用のリボンとはいえ、高級ブランドのものだけに使われている素材などはよさそうで ブランドロゴと名前がプリントされていて、たしかに綺麗なものであった。 しかし− 「これ?こんなのでいいの?」 遠山は少し物足りなさそうに言った。 「うん!」 朋美は笑顔で頷く。 「そっか…それじゃあ…」 遠山は包装紙に巻かれたリボンを外すと朋美に渡した。 「ありがとう!」 そう嬉しそうに言うと、朋美は受け取ったリボンをいったん解くと 自分の髪を束ねると起用にそのリボンでひとくくりにした。 「リボンが欲しかったら、ちゃんとしたやつプレゼントするのに…。」 そう遠山は言ったが 「ううん、このリボンがいいの。ありがとうね」 それ以来、朋美はデートの日には必ずそのリボンをつけてきた。
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