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<1-3・語らい>

その日の夜はライダーズギア開発部と真理たち“反スマートブレイン連合”が持ち合わせた食材で

バーベキューを行った。

巧、真理の帰還、新しい仲間の歓迎、そして遠山の追悼もかねての食事会だった。

美香はすっかり真理たちと打ち解け仲良く話をしている。

そして暗黒の四葉との死闘がきっかけで、ようやくライダーズギア開発部と人間解放軍の間の溝も

埋まり皆思い思いに楽しんでいた。

そんな中山上は一人、バーベキューの輪から離れた場所に腰かけ、手に握りしめた赤いリボンを

見つめ長かった今日という日を思い返していた。

おそらく一生の中で最も多くの出来事があった日だっただろう。

ラッキークローバーとの死闘、乾巧との出会い、遠山の死、そして美香の笑顔。

彼女の笑顔には新城、福地、そして山上も驚き喜んだ。きっと遠山も同じだろう。

空を見あげる。

きれいな星がいくつも光っている。

美香が前に啓太郎と自分を比べたことを思い出した。

リーダーとしての資質−だが山上は啓太郎の方がはるかに偉大なリーダーだと思った。

何故なら彼は美香の心を開き仲間との再会を導いたからだ。

それに比べて自分はどうか?

美香はたしかに慕ってくれていたが、決して心を開いていたわけではない。

啓太郎の優しさが美香の笑顔を引き出したのだ。

山上は自分を責めた。

美香の心を開くこともできず遠山を助けることもできなかった。

だが−手の中のリボンを強く握りしめる。

遠山が山上に託した夢。

「人類とオルフェノクの共存」

それを実現させることが、彼にとって遠山に対してできる唯一の償いだと思った。

今頃天国で恋人と再会しているころだろうか?

そこから見てくれているだろうか?

山上はしばし目を閉じそう思った。

「おい、あんた」

後からぶっきらぼうな声が聞こえた。

声の主はわかっている。

山上が今最も話をしたい男−乾巧である。

しかし巧の方は明らかに不機嫌な口調だった。

「これに何をした?」

そう言うと巧はファイズギアの入ったボックスを山上の目の前に突き出した。

「何のことだ?」

山上が応える。

「とぼけるな!今日こいつを使ったとき、違和感を感じた。あんた何かしたんだろ!?」

昼間は啓太郎たちの手前、彼らを心配させないために黙っていた巧がそう言うと

「ふふ…さすがは乾巧君…ちゃんと気付いていたとは…」

山上はニヤリと笑うと何か企むかのような表情になった。

「何だと?」

巧が山上の襟元をつかんだ。

山上は座ったまま「実は君を実験台にしたんだよ…」と言った。

「てめー!」

巧が拳をふりあげる。

しかし−

「…なんてね。」

そう言うと山上の顔がいつもの笑顔に戻った。

「あぁ!?

巧は拍子抜けした感じで拳をおろした。

「いや、すまない。驚いたかな?だが、実験台にしたというのは本当なんだ…。」

そう言うと山上は申し訳ないと頭をさげ、ファイズギアのボックスを開いた。

「観たところは何の変哲も無いが、このギアには“エボリューション機能”を追加している。」

「エボリューション機能?」

巧が何のことだ?という顔で復唱した。

「そう…我々が開発したギア用の装備で、装着者の能力を大幅に引き出し
 さらに闘いを積み重ねることで引き出す能力は大きくなっていく…」

巧が全く解らないというふうに頭をふって山上の横に腰をおろす。

それを見て

「まぁ、つまりはパワーアップのための改造をほどこしたってわけさ。
 機能の特性上、装着者は限定され、本来はその人物の協力を得て、能力を前もって調べて
 データ化しておく必要がある。
 ただ君の場合は行方不明だったからそうはいかない。
 だから我々は過去の闘いのデータと、1年前の闘いの映像データから君の能力を調べて
 データ化してインプットした。」

イマイチ理解してないような巧を無視して山上は話を続けた。

「…君を見つけてからとも考えたが、それからではおそらく時間がない。
 だから俺たちは賭けに出た。
 最悪、変身できない恐れもあったが…君は無事変身できた。
 君が感じた違和感というのは、ギアが装着者を認識するために発した信号で害は無いし
 慣れれば平気になる。」

そう山上はしめくくった。

「よくわからんが…じゃあ、俺があのワニ野郎を倒したのはそのおかげだということか?」

巧が少しふてくされた感じで言った。

「まぁ、それもある。
 だが、その能力を引き出すきっかけは君の強い精神力−意志の強さが機能に働きかけたものだ。
 やはり我々の考えは間違っていなかった。君の意志の強さに賭けてよかった。」

満足そうな顔で山上が応える。

山上は巧の人となりも調べている。

彼はこの場合、そういったプッレッシャーを嫌がる発言を行う。

昼間の彼の発言も巧のことを調べていたからのものだ。

だが、巧からは全く違った言葉が返ってきた。

「なぁ、あんたは、人間とオルフェノクが共存できる世界なんて、ホントに実現できると思うか?」

そう遠くを見つめながら巧は山上に問いかけた。

「…さぁ、どうだろうか…。君はどう思う?」

山上はできると信じていた。

ついさっき天国の遠山とその恋人に誓ったばかりだ。

しかしあえてここは巧の思いを引き出すために答えを保留した。

「俺は…最初はできると思っていた。けど、最近思うようになったんだ。
 どうすれば、実現できるのか?スマートブレインをぶっ壊せばできると思っていた。けど…」

巧の心を代弁するかのように山上が続けた。

「スマートブレインがなくなっても、人間をよく思わないオルフェノクは残る…。」

巧は静かに立ち上がった。まだ視線は遠くを見つめたままだ。

「…たしかにオルフェノクの支配する世界を造ったのはスマートブレインだ。
 しかし、その世界を受け入れ人間を排除しようとしているのは我々オルフェノクだ。
 スマートブレインがなくなってもそういった人間を排除しようとする考えが消えることはない。
 それがまるで当然のように思っているオルフェノクもいるのだから…。」

巧が山上を見る。山上は話を続けた。

「人間は昔から何かを成そうとするとき、形に残ったり、目に見える結果をほしがる。
 だが、それはオルフェノクも変わらない。
 人類全てを滅ぼすことで完全な支配が完成すると思っている。
 それも目に見える結果だ。実際にそうなるという確証なんてどこにもない。」

巧がまた山上の横に腰をおろす。

「だが確かなことは、スマートブレインは人類を根絶やしにしようとしている。
 そして我々はそれを阻止するために闘っている。
 信じてくれる友や仲間を守るために闘う。
 …それが今できること。それでいいんじゃないかな?」

そういうと山上が笑顔を見せる。

「そうか…。そうだな…あんたのいうとおりかもな」

そういうと巧も納得したかのように笑った。

「ねぇー、二人とも食べないの?早くしないと無くなっちゃうよ!」

啓太郎がそんな二人を呼びにやって来た。

「あぁ、今行くよ」

巧と山上も仲間の輪に加わった。


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