それは逃亡中の真理と巧が沙耶たち流星塾の仲間に助けられてから数日後−真理はその時初めて雅人が亡くなって以来彼の名前を口にした。 流星塾の他の仲間について話をした時のことである。 真理も巧もそこで3本目のデルタのベルトを初めて知り、そして流星塾の仲間たちの最期に 驚き絶句した。 流星塾生の最期−それはデルタのベルトをめぐり仲間内で争う醜いものであった。 真理はそれ以前にカイザのベルトのことで里奈たち数人の流星塾の仲間と再会していた。 里奈のもとに届いたカイザのベルト。 それは装着者が次々と死に至る危険なものだった。 ただ雅人だけはそのベルトを使いこなし、ベルトを取り戻しに来たスマートブレインの刺客 (ジェイ)を撃破したのである。 それ以来雅人は真理たちと共にオルフェノクと闘うことになった。 その後、真理と里奈たち流星塾生たちが出会うことなく現在につながったのである。 真理はてっきりベルトを雅人に託した他のメンバーはそれぞれの人生を歩んでいたものだと
思っていた。 しかし現実には沙耶のもとに届いたデルタのベルトを使いオルフェノクとの闘いを続けていたのだ。 デルタのベルトはカイザのベルトのように装着しても死に至ることはなく ファイズのようにオルフェノクしか変身できないものでもない。 しかし、適応者ではない装着者は強大なパワーの代償に精神が破壊され凶暴になるという “副作用”があったのである。 最初は協力して闘っていた仲間もやがてベルトの独占を狙い、仲間同士で傷つけあうように
なってしまった。 そしてその争いはついに最悪の事態を招いた。 ベルトの独占を狙った一人・河内が他の仲間を殺害しはじめたのである。 そこへ追い討ちをかけるように、スマートブレインの刺客である北崎が現れた。
「楽しそうだね。僕も仲間に入れてよ」 そう言いながら北崎は流星塾生たちに近づいた。 「キサマ、オルフェノクだな?」 そう言う河内に向かって、北崎は嬉しそうに 「そうだよ、君たちは今までいっぱいオルフェノクを倒してきたんだってね?」と応えた。 「面白い。ここは一時休戦として、お前から倒してやる。」と言い河内はデルタに変身した。 「へぇー、それがデルタのベルトなんだ。なかなかカッコイイじゃん。」 そう言うと北崎もオルフェノクへと変化した。 「いくぞ!」 河内が北崎に走りよりパンチを放った。 しかし北崎は微動だにせずにドラゴンクローのカウンターをうちこんだ。 その一撃で河内の体は宙を舞い、腰からベルトが外れとんだ。 うつぶせから立ち上がろうとした河内の背中を北崎が踏みつけた。 「弱いな〜。全然面白くないなぁ」 そう言うと背中に乗せた脚をぐりぐりと動かす。 その度に脚と背中の隙間から灰がこぼれ落ちる。 「う、うわ、助けてくれ!」 苦しそうにうめく河内の背中を北崎が力を込め踏みつけた。 次の瞬間、河内の体は灰と化した。 「さて、次は誰の番かな?」 そう北崎が楽しそうに言う。 「よ、よし、次は俺だ。どうだ、ここはこいつを倒したやつがデルタのベルトを
自分のものにできるってことにしないか?」 そう提案したのはやはり独占を狙い争った新井だった。 残ったメンバーは徳本、太田そして沙耶と里奈。 徳本と太田の二人が新井の提案に頷いた。 「変身!」 デルタに変身した新井が北崎に闘いを挑む。 だがやはり新井もすぐに北崎の一撃の前に崩れ去り命を落とした。 「次は君の番だ。」 北崎が太田を逆指名した。 少し躊躇しながらも、太田はデルタに変身して北崎に挑んだ。 しかし太田も北崎の敵ではなかった。 それを見ていた徳本が敵わないと思い、そこから逃げ出した。 「ダメだなぁ。僕のゲームは途中で抜けることはできないのに…」 そう言うと北崎が右手を伸ばす。 その先から青白い閃光が放たれ徳本の体を貫いた。その場で徳本も灰と化した。 「さぁ、残るのは君たち二人だ。」 そう言うと北崎は変化を解くと足下のデルタギアを拾い上げると、沙耶と里奈に差し出した。 「さぁ、どっちから僕と闘うの?」 そう言うと北崎は楽しそうに微笑む。 差し出されたギアにゆっくりと沙耶が手を伸ばした。 「無理よ、沙耶、私たちじゃとても敵う相手じゃない!」 そう里奈が悲鳴にも似た声で沙耶の手を止める。 「だけど…逃げることもできないのよ。無理だとわかっていても闘って…そして私は死にたい。」 そう涙声ながらもハッキリした言葉で沙耶は言うと、里奈の制止をふりほどきギアに手をかけた。 北崎がニヤリと笑う。 しかしその時沙耶の手をギアから引き離した別の手があった。 「ここは俺に任せて逃げるんだ!」 そう言って北崎の前に沙耶と里奈を守るように立ちはだかったのは澤田であった。 「澤田君!」 沙耶と里奈が声をあげる。しかし澤田は振り返ることなく 「逃げろ!」と叫んだ。 少し戸惑いながらも沙耶と里奈は頷くと走り出した。 「言ったはずだよ、僕のゲームを途中で抜けることはできないって…」 そう言うと北崎はオルフェノクへと変化し、右手を伸ばす。 徳本の時と同じように青白い閃光が放たれる。 だが今回は澤田の伸ばした腕が持つ巨大な八方手裏剣によって阻まれた。 「へぇー、君もオルフェノクなんだ。」 スパイダーオルフェノクに変化した澤田を見て北崎が言う。 「ホントは流星塾生を皆殺しにしろと言われたけど…まぁ、いいや、君と闘う方が面白そうだし…」 その声に応えるかのように、無言のまま澤田はかまえた。
澤田亜希−彼も流星塾生だった。 沙耶の呼びかけに応え集まり、仲間と一緒にデルタのベルトでオルフェノクと闘った。 だがある日−思いがけず2体のオルフェノクと闘うことになった仲間を助けるために彼は オルフェノクへと変化した。 彼はオルフェノクとして覚醒していたのだった。 しかし、そんな彼を仲間が認めることはなかった。 あげくの果てにはデルタのベルトを使い彼を倒そうと言い出すものもいた。 そんなメンバーから澤田をかばい守ったのが沙耶と里奈だった。 今まで一緒に闘ってきた大切な仲間である澤田を手にかけることは絶対認めない そんなことお父さんも許すわけがないと二人は仲間を説得した。 そのかいあって澤田は助かったが、もう一緒には居られないと思い自ら姿を消したのだった。 しかし実はその後も、沙耶と里奈のことを心配してそばから見守っていたのだ。 そしてその心配が的中した。 今度は自分が沙耶と里奈を助ける番だと、澤田は北崎の前に立ちはだかったのである。 しばらくしてから、恐る恐るではあたったが沙耶と里奈は自分たちの居た場所へと戻った。 すでに北崎は姿を消していた。 そして澤田の姿も…ただそこには風にふかれ飛んでいく灰と、その灰に埋もれた赤い折り紙の 折鶴が残っているだけだった。
そう話し終えると沙耶はポケットから大事そうに折鶴を取り出した。 あの時灰の中にあったものだ。 「…きっと澤田君、これを真理に渡したかったんだと思う…彼、よく真理の話をしていたから…」 流星塾時代、澤田はよく真理に意地悪をしていた。 それは澤田が真理のことを好きだったということの裏返しの行為である。 その証拠に真理が泣いていたり、落ち込んでいたりすると決まって澤田は自分で折った折り紙の
動物を真理にプレゼントし、彼女をなぐさめ元気づけていた。 真理もそんな澤田の優しさをよく知っていた。 沙耶から受け取った赤い折鶴に真理の涙が落ちた。
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