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<3-3・真理と山上>

お喋りの途中、昔のことを思い出した真理は暗い顔になっていた。

「真理、どうしたの?」

美香が真理の顔を覗き込む。

「どっか具合でも悪いの?」

沙耶も心配そうに聞く。

「えっ?ううん、何でもない。大丈夫。
 ゴメン、私ちょっと山上さんに聞きたいことがあるんだ。ちょっと行ってくるね。」

そう言うと真理は笑顔をつくり立ち上がった。

「山上さんに聞きたいことって?」

美香も立ち上がり少し不安そうな顔で聞く。

「うん、そんなにたいしたことじゃないんだけどね…」と真理が応える。

そこへ啓太郎が駆け寄ってきた。

「ねぇー、ねぇー美香ちゃん、お昼ご飯何がいいかな?」

そんな啓太郎に

「何で私に聞くの?お昼ご飯食べるの私だけじゃないでしょ!?

少し恐い顔で美香は言い返した。

あれ以降も美香の啓太郎に対する態度は相変わらずではあったが、以前のように完全に

突き放すような感じは無くなった。

そんな二人を見て真理はクスッと笑った。

「あんがい、この二人お似合いかも…」と思った。

美香は啓太郎のことをどう思っているかはわからないが、啓太郎は美香のことを好きなことは

すぐにわかった。

昔から単純(よく言えば純粋)な啓太郎のことを真理はよく知っているからだ。

「それじゃ、行ってくるね。」

そう言うと真理は手を振って歩きだした。


「あのー、すいませーん、山上さんいます?」

トレーラーの後部ドアから中を覗き込む真理。

「おっ、真理ちゃんやん、どないしたん?」

新城が横から声をかけてきた。いつもの人懐っこい笑顔だった。

「あっ、どうも。山上さんいますか?」

ペコッと頭を下げると真理は言った。

「山上さん?あー、あの人ならあっちのトレーラーの中におるんちゃうんかな?」

と奥に止まったトレーラーを指差した。

「そうですか、ありがとうございました。」

真理はまたペコッと頭をさげそっちへ向かおうとした。

そんな真理の前に新城が回りこむ。

「なぁ、山上さんに何の用なん?」

そう言うと真理の顔を覗き込む。真理は少し首をひっこめながら

「ちょっと、聞きたいことがあって…」と後ずさりする。

「ふ〜ん。俺じゃあかん話なんや?」

新城がまた一歩近づく。

「えっ…はい、ちょっと…」

困りながら真理が応える。

実は真理は新城のことが苦手だった。いい人だというのはわかるが、少し馴れ馴れしい。

「おい、新城!何してるんだ!まだ作業途中だろ?」

福地のその声に真理は内心ほっとした。

「へーい」

ふてくされた声と顔で応えると新城はトレーラーの中に入っていた。

山上のトレーラーの前に来ると、中では数人の男女が作業をしていた。

「あのー、山上さんいますか?」

真理がまた声をかけた。

すると奥から「ああ、その声は…真理ちゃんだね?どうぞ入ってきて」と山上の声がした。

トレーラーの中に入っていく真理。

作業をしているのは彼女たちと一緒に合流したオルフェノクの若者たちだった。

「君の仲間は優秀だね。」

そう言うと山上はいつもの笑顔で真理を迎えた。

「難しい機械の操作も難なくこなしている。」と山上は周囲を見回しながら言った。

「流星塾でお父さんの造った機械を操作していましたから…」

そう真理は微笑んだ。

「お父さん…ああ、花形さんのことか。そういえばあの人は天才だったからなぁ。」

そう言うと山上は頷いた。

「あの、実はお父さんのことでお聞きしたいことがあるんです…いいですか?」

真理の顔は少し寂しげであった。

「うん、いいよ。じゃあ、ちょっと出ようか?」

山上はトレーラーの出口へと向かった。その後を真理が続いた。

トレーラーの横に置かれた二脚の椅子に腰をおろすと真理は話をはじめた。

「私、ずっと疑問に思っていたんです…どうしてお父さんは私たちにベルトを送ってきたのか…」

「それは君たちに、オルフェノクと闘ってほしかったからなんじゃないかな…
 こういう時代が来ることを花形さんは予測していたんじゃないだろうか?」

「それはわかっています…。けど…山上さんは流星塾の最期…
 デルタのベルトの話を知っていますか?」

「うん、話を聞いただけだけど…だいたいは知っている。
 北崎が彼らを殺してベルトを奪還したこともね…」

「私も話を聞いただけですけど…仲間同士で争い…それがきっかけでああいう結果に…」

真理は言葉につまりながらもそう言った。

「デルタギアは、カイザギアのように適応者じゃないと死ぬこともないし
 ファイズギアのようにエラーになることもない。誰でも変身できるギアだ。
 ただし強い精神を持たない者はその力にとりつかれ、精神が崩壊する危険なギアだ…。」

山上がギアの特性について語った。

「そのことを…お父さんも知っていたんですよね?」

「…もちろん、知っていたよ。危険なギアだということは花形さんも認識はしていた。」

「だったら…どうしてそんなものを私たちに送ったのか…それがわからないんです…
 あの優しかったお父さんが…どうして…。」

「花形さんは…真理ちゃんたちのお父さんは、きっと君たちを信じていたんだよ。
 君たちならベルトを使いこなせるだろうと…。
 現に流星塾生たちは数多くのオルフェノクを倒したし、ラッキークローバーのジェイでさえ
 撃破したと聞いている。
 だけど、それがあんな結末になって…一番悲しくて辛かったのはきっと花形さんだっただろうと
 俺は思う。」

その山上の言葉に真理はハっとした。

そうか、そうだよね。

私たちよりも…一番辛かったのはお父さんだったんだよね。

きっとそれがわかっていたから…沙耶たちは亡くなった仲間たちの死を受け止め

その名前を口にすることができるんだ。

真理はそう思った。

「ありがとうございます。」

真理が立ち上がり山上に頭をさげた。

その顔は全てを理解して受け入れた感じの清々しい笑顔だった。

「どういたしまして。」

山上もその真理の顔を見て、安心したかのように笑顔で応えた。

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