その日も二人は薬局を出てデートを楽しもうと、公園への近道である細い路地を歩いていた。「そこの二人、待て」 背後から翼と遥は声をかけられた。 二人が振り向くと三人の男 −スマートブレインの特機隊員がサングラス越しに二人を睨みつけていた。 「その袋の中身を確かめさせてもらう」 そう言うと男の一人が遥の腕から薬局の紙袋を奪い取った。 「最近、この薬がよく売れて驚いていると店主から通報があってな」 「しかも買っていくのは毎回同じ若いカップルだと」 そう言うと紙袋から薬を取り出し二人の前に突きつけた。 「店主はいい在庫処分になると喜んでいたが…いったいこれを何に使うつもりだ?」 オルフェノクの毒中和薬は普段あまり売れることはない。 オルフェノクである以上、オルフェノクの毒に侵される危険などほとんど無いからだ。 もしそれを頻繁に必要とするのなら−日々オルフェノクを危険に感じている人間である。 不審に思った店主は二人のことをスマートブレインに通報したのである。 「答えられないようだな。よし、こいつらをデータベースで照合しろ。」 「はい。」 命令された男がスマートパッドを取り出し、二人の照合をはじめる。 「男の方はヒットしました。二階堂翼、16歳です。」 「ということは…」 リーダー格の男は遥のあごをつかむと顔をちかづけ 「お前は人間か?」 と言うとニヤリと笑った。遥は顔を背ける。 「やめろ!」 翼が遥の顔から男の腕を振り払った。 が、もう一人の男が後から翼をはがいじめにした。 その翼の襟を掴むリーダー格の男。 「お前、スマートブレインに逆らい人間の味方をする者がどうなるか分かっているんだろうな?」 「うるせー!」 はがいじめにされながらも翼は声を荒げ抵抗する。 「威勢のいいガキだ。よし、翼くん、お前がこの娘を殺せば見逃してやろう。
どうだ?運がよければこいつもオルフェノクになれるかもしれないぞ?
そうなったら二人とも助かるんだ?どうだ悪い話じゃないだろう?」 そう言うとリーダー格の男はニヤリと笑った。 「ふざけるな…!」 怒りに震えた翼の顔にすじ模様が浮かびドラゴンフライオルフェノク (オニヤンマの特性を持ったオルフェノク)へと変化し、はがいじめにする腕を払い リーダー格の男に跳びかかった。 「ばかな、男だ」 三人もいっせいにライオトルーパーへと変身すると、向かってくる翼を交わし その背中を蹴り飛ばした。 すぐさま一人が翼の胸を踏みつけ、銃を顔につきつける。 そしてもう一人は遥の体を突き飛ばし、同じく顔に銃をつきつけた。 「二人仲良くな」 そうリーダー格の男が二人に射撃の合図をしようとした時だった。 「おい、お前ら」 どこからともなく聞こえた声に三人は辺りをきょろきょろ見回した。 「お前らの仕事ってのは、そんな子供の命を奪うことかよ」 またどこからともなく声がする。 「違うだろ?お前らの仕事ってのは…」 その声とともに上空から灰色の“何者”が現れ、翼と遥に銃をつきつける二人を弾き飛ばした。 攻撃を受けた二人は飛ばされた先で各々青白い炎をあげ消滅する。 「この俺を捕まえることだろう!」 リーダー格の男の目前に立ちはだかるオルフェノク、それはウルフオルフェノク−巧であった。 「お、お前は!!」 突然出現した巧に驚いた男は、とっさに口元のマイクに手をあて助けを呼ぼうとした。 だがその手を銃弾が撃ち払った。 「はっ!」 巧はすかさず男の顔面に素早いパンチを2発打ち込むと体を掴み、蹴り上げた。 男は近くのビルの壁に打ちつけられ、青白い炎をあげ消滅した。 驚く翼と遥の目前で変化を解く巧。 そこへ銃を手にした三原−男の手を撃った張本人−が駆け寄ってきた。 「びっくりさせるなよ、急に屋上から飛び降りて…」 そう言うと三原はあきれたような顔で笑う。 だが巧は知らぬ顔で遥に手を貸すと 「大丈夫か?」 と彼女を立たせ、続いて翼にも手を貸した。 翼も遥もまるで雲の上の人物にでも会ったかのように緊張している。 「ここに居るとまたあいつらが来るから、とりあえず場所を変えよう」 見かねた三原が巧とともに二人を彼らの隠れ家−流星塾へと案内した。 それ以降、翼と遥、そして彼女の母も巧や真理、流星塾生たちと暮らすことになったのである。 隠れ家には食料はもちろん、毒の中和薬も十分に備蓄されていたが 遥の母は2ヶ月ほど前に息を引き取った。 だが、居住区での暮らしとは違い流星塾での暮らしはきっといい思い出になったに違いないと 遥は思っている。 その証拠に母は安らかな顔で最期を迎えたのだから…。
「はい、終わり!」 首にかけた布を取り払うと翼は言った。 「ありがとう」 真理はそう言いながら遥から受け取った手鏡でカットをチェックしている。 「じょーでき!」 真理が微笑んだ。 「当たり前じゃん、気持ちこもってるんだから!じゃ、次、遥ね。」 嬉しそうに遥が今さっきまで真理が座っていた椅子に座る。 翼がその首に布をかけると後で結わえた。 その間、何度か二人は笑顔でお互いの顔を見た。 「私がいちゃ邪魔ね…」 真理は心の中でそうつぶやくと、嬉しいような悔しいような気持ちでその場を後にした。
|