影山冴子の経営するバー・クローバー。ライダーズギア開発部・乾巧との激闘のあと、医療チームに処置を受けた3人の回復力は早く 今日もここに集まっていた。 冴子、琢磨そして北崎。 会話することもなく、冴子はコップを磨き、琢磨は詩集を読んでいる。 北崎は…カウンターの一番端で頭をカウンターに乗せダランと座っている。 店内を包む重い空気。 それはジェイを失ったからではなく、あれ以来州浜からの連絡がないからでもない。 相手を追い込みながら仕留められず逆に敗北を味あわされたからで つまりラッキークローバーとしてのプライドを傷つけられたからである。 そんなバー・クローバーに立ち入る人物がいた。 「ごめんなさい…まだ準備中なの…」 と、冴子は言いかけたが、来客の顔を見ると口を止めた。 「ひさしぶりね、綾ちゃん。」 水のカーテン越しにも相手がわかった。 「ご無沙汰していました、冴子さん。」 そう言うと館林綾は微笑んだ。 「このお店だけは変わってないですね。」 そう言いながら琢磨の横に座る。 それを横目にした琢磨は、眼鏡を少し手で触ると横を向き相変わらず詩集に目を落とす。 「綾ちゃん、何にする?」 そう冴子が聞く。 「いつものやつ…覚えてます?」 綾がそう言うと 「ええ、もちろん。琢磨君と同じモンキーズランチね?けどお昼間から大丈夫?」 と冴子が応える。 「はい、私こう見えても強いんですよ、お酒」 と綾は笑顔で答えた。 やがて綾の前にモンキーズランチが置かれる。 「いただきます。」 それを一口飲むと、綾は満面の笑顔になった。 「なつかしい味…他のお店とかではこの味出ないんですよね…」 そう感慨深けに綾がつぶやく。 「そうかしら…嬉しいわ、そう言ってもらえて。」 と冴子も微笑んだ。 「…ところで、今日は何の用事かしら綾ちゃん?」 綾の前で、両肘をカウンターに付き、頬杖をつき冴子が聞いた。 「…さすがは冴子さん、お見通しのようですね?」 と綾が応える。 「あなたとは付き合い長いものね…。」 と言う冴子の顔を見ながら 「皆さんは新社長のことをどう思います?」と聞いた。 その顔からは笑顔は消えていた。 「州浜君のこと…そうね、正直あまり興味はないわ…。」 と冴子が答えた。 琢磨と北崎は聞こえたのか聞こえていなかったのか、何も答えなかった。 「私は…あの男を許さない。」 そう強い口調で今度は綾が言った。 「それは何故かしら?」 今度は冴子が尋ねた。 「あの男は…オルフェノクの王の存在を認めていない…そのうえ、自分が王になると言いました。」 綾が狂信的な王崇愛者であることは冴子も知っている。 「それは仕方ないんじゃないのかしら…信じるかどうかは個人の自由と思うけど?」 と冴子が綾をなだめる。 「オルフェノクの王なんて、誰も皆おとぎ話くらいにしか思っていませんよ。」 と琢磨が口を挟んだ。 面白半分な顔の琢磨を睨みつけ綾は 「琢磨さん…詩集を読んでいらっしゃるから、もっとロマンティックな人だと思っていましたが
そうじゃなかったようですね?」と軽蔑するような口調で言った。 手元のモンキーズランチをいっきに飲み干すと綾は 「しょせん、ラッキークローバーの皆さんも一般のオルフェノクと変わらないんですね。」 と言い捨てた。 「何ですって?」 その言葉に冴子の表情が険しくなった。 北崎も向こうに向けていた頭を綾の方へ向ける。 「まぁ…仕方ないことです。オルフェノクの王は永遠の命を与えてくれる…
というおとぎ話のような“事実”しか流布していませんから…いい機会です
皆さんに我々の間でもトップシークレットとなっていることをお教えしましょう。」 と綾が得意げに微笑む。 「トップシークレットねぇ…興味あるわね、ご教授願おうかしら?」と冴子が言う。 琢磨も詩集に目を落としながらも耳をそばだてている。 「これは私たちの研究でわかったことなんですが…
今のままでは我々オルフェノクはやがて滅んでしまうのです。」 その言葉に「まさか」と琢磨が笑いながら口を挟む。 だがその笑顔も少しひきつっている。 「私たちオルフェノクは人類の進化形。
しかし、その急激な進化に体の方は耐えられず、いずれは自然に灰化してしまう。」 と綾が話を続ける。 「そんな話、信じられないわね。」と冴子がつぶやく。 「もちろん、個人差はありますが…現に突然灰化して消滅した事例がいくつか報告されています。
長く体がもっても…私たちは人間ほどの寿命も保てないんですよ…。」 その話を聞いて 「じゃあ、私たちはどうすれば滅びず生き続けることができるんです!?」 と琢磨が少し取り乱した感じで綾に聞いた。 「簡単な話です…オルフェノクの王を見つけだし救ってもらうのです。
だからこそ私は王にこだわるのです。王こそ我々の救世主なのです。」 と優しく琢磨をさとすように綾が答えた。 「ですが…それにはあの男…州浜が邪魔なのです。
そこで、ラッキークローバーの皆さんのお力をお借りしてあの男を抹殺したいのです。」 と語気を強める綾。 「なるほど…けど私には先に倒さなければならない人がいるの。」と冴子が冷酷な顔で答えた。 「山科美香…ですか。もちろん、それはかまいません。
州浜には私たちBASTETも総力をあげて当たるつもりですから。
皆さんにはそのバックアップをお願いしたいのです。」と綾が言う。 「ねぇ?オルフェノクの王って強いの?…僕とどっちが強いかな?」 今まで話を聞いていた北崎が口を開いた。 −どっちが強い?何をバカなことを…と思いながらも 「それを知るためにも、邪魔者は全て倒さなければなりませんね。
北崎さんも協力してくださいますよね?」と綾が微笑んだ。 「なかなか、面白そうじゃん…邪魔な人みんな倒せばいいんだ?楽しみだなぁ」 と北崎も笑顔で答えた。 その返事を聞いて綾は満足そうな笑みを浮かべ、一礼をすると店を出た。 表では黒塗りのスマートブレインの公用車が待っていた。 後部座席に乗り込む綾。 隣には波原が座っている。 「…うまくいったのか?」 波原が不安そうに聞く。 「もちろんです。これでラッキークローバーも私たちの味方です。」と綾が微笑む。 「そうか…よし、車を出せ」と波原が運転手に声をかける。 車が走り出すと綾が笑い出した。 「何がおかしい?」 まだ自分たちの行動に不安のある波原が心配そうに綾に尋ねた。 綾は何かにとりつかれたかのように笑い続けている。 「何がおかしい?ですか、これが笑えずにいられますか?
ライオトルーパー隊もすでに私たちの手の中。
王になると宣言した州浜の味方はごくわずかの親衛隊と何を考えているのか
わからないスマートレディだけですよ?
こんな面白いことがありますか?州浜はさしずめ“裸の王様”ですよ。」 と言うと綾はまた笑いはじめる。 そんな綾を見て「本当に大丈夫だろうか?」と波原は心の中でつぶやいた。
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