その時−
「美香ちゃん、死んじゃダメだ!」
冴子の体にしがみつき啓太郎が叫んだ。
「美香ちゃん、生きるんだ!死んじゃダメだ!美香ちゃん!」
そう叫びながら啓太郎は手にした銃で冴子に殴りかかる。
冴子はそれをあしらい啓太郎を殴り、蹴り飛ばす。
だが啓太郎は何度もあきらめずかかっていく。
「…ダメだよ、啓太郎…無理だよ…かないっこないよ…」
美香は目に涙を浮かべ必死に叫んだが、血が喉に詰まり声にならない。
「シツコイ子ね!」
あまりのしぶとさに冴子は怒りをあらわにし、啓太郎の首をつかんだ。
「放せ!放せ、この!」
それでも啓太郎は手足をばたつかせ、冴子に抵抗する。
「…あなた誰?…もしかして美香のボーイフレンドかしら?
…そう…だったら寂しくないよう一緒にあの世に送ってあげないとね!」 そう言うと冴子は啓太郎の体を高々と持ち上げた。
それを見ていた美香の脳裏に悪夢の光景−オルフェノクによって殺される父親の姿と 啓太郎の姿が重なった。 心の中であの時の自分が叫ぶ。
「美香!あなたは何でシグマギアを手にしたの!?思い出して!」
そうだ…私がシグマギアを手にしようと思ったのは…二度と私と同じ思いを 大切な人たちにさせないためだったんだ!そして私自身も… 美香がそう思ったときシグマギアが光を取り戻した。 不思議と美香の体の中の痛みも消えてゆく− 「啓太郎を放しなさい!」 立ち上がり美香は叫んだ。 「何!?」 冴子は振り返り驚いた。 「シツコイ子たちばかりね!」 そう苛立ちながら言うと冴子は啓太郎を放り投げ、美香に向かって走り出した。 「変身!」 美香が両拳を握り構え叫んだ。 「COMPLETE」 再びシグマのスーツが美香を包み込んだ。 全身をフォトンブラッドが駆け巡り、力がみなぎる。 冴子の突きをものともせず、美香は鋭いキックを放った。 それを受け冴子の体がよろめく。 そのスキに美香は足下のシグマウェポンを拾い上げミッションメモリーを滑り込ませた。 体勢を立て直した冴子のサーベルと美香のシグマウェポンがぶつかり、再び鍔迫り合いとなる。 だが今回は圧倒的に美香の力の方が上だった。 ずるずると冴子を押すとサーベルを振り払い ガードの空いたボディにシグマウェポンを押し付ける。 「フィニッシュ!」 「EXCEED CHARGE」 美香が叫ぶとウェポンが応え、フォトンブラッドが流れ込む。 すぐさまトリガーを引く。 冴子の体を青い光が後へ押し進め、拘束した。 美香はウェポンをかまえると冴子向かって走り出した。 シグマの全身が青く鋭い光となり、ロブスターオルフェノクの体を貫いた。 断末魔とΣの文字を残し、冴子の全身が青い炎をあげ崩れ落ちた。 それを見届けると美香は変身を解き、啓太郎のもとへ駆け寄った。 「啓太郎!」 気は失っているものの呼吸はちゃんとしていた。 美香はその体を揺さぶった。 「…あれ、美香ちゃん…」 啓太郎がゆっくりと目を開けた。 「啓太郎のバカ!心配したんだよ!」 美香がその顔を睨みながら言った。 しかしその目にはうっすらと涙が浮かんでいる。 「あっ、ごめん…。そうだ、それより美香ちゃんの方こそ大丈夫なの!?怪我とか…」 バカ…美香は心の中でつぶやいた。 どんなときでもホント優しいんだから… 美香はニッコリ笑うと 「ありがとう…啓太郎」 と言い、啓太郎を優しく抱きしめた。 「み、美香ちゃん!?」 突然のことに驚く啓太郎。 美香は心の中で一番大切で大好きな人…そうつぶやくとぎゅっと啓太郎を抱きしめた。
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