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<4-1・真理の記憶>

園田真理は目の前で楽しそうにおしゃべりをしている4人組の少女たちを見ていた。

彼女たちは園田真理に憧れ、乾巧の夢と理想に感銘した家出少女たちである。

その4人にふと昔の自分たちを思い出した。遠い昔、流星塾にいた時代のこと。

「今思えば…」

真理は心の中でそうつぶやいた。

流星塾で園田真理にはいつもグループで遊んでいた友達が3人いた。

木村沙耶、阿部里奈、そして山科美香。

4人はとても仲が良く暇さえあれば集まって遊んだりお喋りをしたりしていた。

同じ境遇の仲間—だから何でも話せる仲だった。

ただ美香だけはどこか違っていた。

突然泣きだす。

最初は誰か男子にでもいじめられたのかとも思ったが、そうではなかった。

痛いところがあるわけでもない。

怪我をしたわけでもない。

でも急に泣き出すのである。

それも楽しく遊んでいる時やおしゃべりしている時に。

その涙の理由を聞いても彼女は決して答えなかった。

だから真理たちも彼女が泣き出したらただ泣き止むのを待つしかできなかった。

そんなある日。

授業後の掃除の時間、教室内に悲鳴があがった。

窓ふきをしていた男子があやまって転落したのである。

それを見ていた美香が急に窓から飛び降りた。

驚く真理たちの目の前で信じられないことが起こった。

美香の体は灰色の、まるで鎧をまとった虫と人間が合体したような姿に変化し、

落下する男子を地上すれすれで救ったのである。

美香は背中に生えた“翅”をふるわせ、一度上昇し、やがて運動場に着地した。

男子を降ろし人間の姿に戻る美香。

助けられた男子と真理たち教室の仲間は、ただ驚きの表情で彼女を見つめるだけだった。

ゆっくりと仲間に背を向け校舎とは逆方向へと歩いていく美香…

それ以降美香が教室に戻ってくることはなかった。

今思えば、彼女はオルフェノクだったのだ。

あの涙はきっと自分が私たちとは違うと思い流した孤独なものだったのだろう。

そう思うと真理は悲しくなってきた。

「どうしたの?真理、さびしそうな顔して…」

「あ〜、また乾君に何か言われたんでしょ?」

そう話しかけてきたのはかつての仲良しグループの二人、木村沙耶と阿部里奈であった。

「えっ…ううん、何でもないよ」

そう言うと真理は精一杯の笑顔を二人に見せた。


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