廃墟と化した雑居ビルの屋上—
乾巧はいつものようにそこからそびえるビル郡を眺めていた。 「またここにいたんだ」 あきれたような声をあげ、しかし笑顔で近づいてくる男。 三原修二はいつものように巧に声をかけた。 「こんな所にいて、見つかったらまずいって」 聞き飽きた言葉に巧はこたえずただ変わらない景色を眺めていた。 三原も横に並ぶ。いつもと同じように…
巧と真理—死闘の場を後にした二人はただあてもなく歩き続けた。 しかしそんな二人をスマートブレインが放っておくはずもない。 絶対的なスマートブレインの勝利で終わるはずの戦いが、人間の味方をするオルフェノクの 勝利に終わったことは、全世界に放映していたことで多大な影響を与えかねなかったのである。 事実、放送終了直後から人間を守ろうというデモが各地で起こったのである。 スマートブレインは二人の確保に全力をあげた。 巧と真理の逃亡劇…どこにいても周囲に気付かれ騒ぎになる。 真理の思いつきで衣類の大型量販店の倉庫に忍び込み変装を試みる。 最初は気付かれなかったが、3日ともたなかった。 やがて皆が寝静まるころにしか動けなくなった。 「私たちすっかり有名人だね」 楽しそうに真理は言うが、二人の体力は限界に近づいていた。
そんなある日。 ビルの非常階段で寝過ごした二人は通報され、スマートブレインのSWAT部隊に追われる
はめになった。 走って逃げる途中、真理が転倒し脚を怪我した。立ち上がろうにも力が入らない。 「私はいいから、巧だけ逃げて!」 真理が叫ぶ。 その背後にライオトルーパーの乗ったバイク2台が近づいてくる。 「ふざけんな!」 と巧はウルフオルフェノクへと変化した。 真理を捕獲しようとしたライオトルーパーに一撃をくわえると、もう一人にも蹴りをくわえた。 そのまま真理をだっこする。 「ちょ、ちょっと待ってよ」 ちょうどお姫様だっこの体制で抱えられた真理が慌てたような声を出した。 「ああ!?」 ウルフオルフェノクからのびた影に映った巧の声。 「は、はずかしいよ…」 真理が顔を赤らめうつむいた。 巧はあきれたという感じで 「お前なぁ!こんな状況で何言ってんだ!いいから黙ってしっかりつかまっていろ!」 巧の言葉に真理は小さく頷き、ウルフオルフェノクの首に回した両手をぎゅっとつかんだ。 ウルフオルフェノクはいったん体を沈め、次の瞬間ものすごい速度で走り出した。 遅れて追いかけてきたライオトルーパーたちをふりきるようにウルフオルフェノクは 真理を抱えたまま路地裏に入ると、建物の出っ張りや看板を利用して上へ上とジャンプしていった。 屋上に出ると駆け抜け次のビルへと飛び移る。 そんなことを繰り返し、ようやくまた細い人気のない路地裏へと着地した。 真理を降ろすと変化を解いた巧がその場へ倒れこんだ。 「大丈夫!?巧!」 心配そうに声をかける真理。だが巧は仰向けになると大きく息をきらしながら 「重いんだよ…おかげで死にそうだ!」と言い放った。 「はぁ?」 なんて失礼なやつだ。 真理はついさっきまで巧にほんの少しだが異性を感じていた自分に嫌気がさした。 「サイテー!」 いつもの調子で真理と巧の低レベルな言い争いが始まる。 だがそれも束の間、周囲を捜索していたライオトルーパーに発見されてしまった。 「くそ!」 またウルフオルフェノクへと変化しかける巧。 突然その後方から銃声がした。 一瞬身をかためる二人。 だがその銃声が狙ったのは真理でも巧でもなく前方のライオトルーパーだった。 「二人とも早く、こっちだ!」 銃をかまえた青年が真理と巧に大きく手招きをした。 走り出そうとする巧を真理がひっぱる。 脚を怪我していることを忘れていた。 真理をおんぶすると巧は青年の後を追いかけた。 やがて二人は薄暗い地下のトンネルへと続く階段まで導かれた。 迷うことなく階段を下りていく青年に真理を負ぶった巧が続く。 トンネルに入ってからもただ青年は懐中電灯を照らしながら歩き続ける。 「おい」 巧がたまらず声をかけた。 「いったいどこまで行くんだ?お前ひょっとして…」 そこまで言いかけた巧の口を慌てて真理がふさぐ。 「すいません。…助けてもらったのに失礼だよ、巧」 そんな二人に青年は振り返りにこっと笑いかけ 「大丈夫。俺は君たちの味方だよ」と答えた。 地下鉄のホームらしきところから下へおりるとやがて横にのびた大きな穴の前で
青年は立ち止まった。 「もうすぐそこだ」とその穴へと入っていった。 巧たちも続く。 穴をぬけた二人は思いもよらぬところへとたどり着いた。 そこはまるで学校の教室のような空間…いや間違いなく教室だった。 並んだ机にイス、掃除ロッカー、そして黒板には古い日付が書かれたままになっている。 真理は何となく懐かしい不思議な気持ちになった。 どこかで見たことある教室?まさか…
青年が壁に貼られた絵に電灯を当てた。 「あっ…」 はっと真理は息をのみこんだ。 その壁に貼られた絵は間違いなく自分が子供のころに描いた絵だった。 「懐かしいだろ、真理」 青年が真理にそう笑いかける。 「えっ、ひょっとして…ここ…」 「そう…流星塾さ」 青年が答える。 「驚いたでしょ、真理」 教室のドアからそう言いながら二人の女の子が入ってきた。 「ひさしぶり、私たちのこと覚えてる?」 そう言うといたずらっぽく笑う二人の顔をただ驚きの表情で真理は見つめていた。 「何だ、知ってんのか?真理」 じれったそうに真理をおろすと巧が聞いた。 「知ってるも何も…沙耶に里奈…だよね?」 「ピンポ〜ン!」沙耶が笑う。 「で…三原君?」 青年に向かって真理が問いかけた。 「そう」とにっこりと微笑む三原。 今度は巧に向かって「信じられないけど…ここ流星塾なんだ…で、みんな、流星塾の仲間…」 そう言うと真理は大粒の涙をこぼしはじめた。 今まで張り詰めていたものがいっきに爆発したのだ。 皆に囲まれしばらく真理は泣き続けた。
|