このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください



<4-4・巧と花形>

それはライオトルーパーの総攻撃を受け、真理たちと離ればなれになった時のことだった。

脚を括られバイクに引きずられた巧は気を失い、次に気付いた時は何か冷たい台のようなもの

の上だった。

口には酸素マスクのようなものを取り付けられ、手足は完全に固定されている。

ずっと引きずられていたためか、ひどく全身が痛む。

ここはいったい…?

しばらくすると自動ドアが開くような音がし、複数の男の話し声が入ってくるのが聞こえた。

「それでは始めましょう…」

連中はぼそぼそと喋っているため、はっきり会話は聞こえてこないが、どうやら自分を調べて

実験体にでも使う相談らしい。

冗談じゃない!

巧は必死に手足の拘束から脱しようと試みた。

しかしびくともしない。

それにまずいことに、巧が意識を取り戻したことに気付かれたらしい。

「催眠ガスを吸わせて、また眠らせなさい。」

という男の声のあと、マスクからガスが出てきた。

意識が朦朧としてくる。

くそっ、こんなところでくたばってたまるか!こうなれば…

巧の顔にすじ模様が浮かんだとき、室内にけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。

「緊急事態発生!緊急事態発生!施設内に不審オルフェノクが侵入!」

館内放送が施設内に不審オルフェノクが侵入し、次々と職員や警備員を殺害していると伝えた。

「何だ!?

巧のいる室内の男たちも騒然となった。

すると次の瞬間、ガラスの割れる音がした。

それに続き「う、うわっー!」と次々に悲鳴があがる。

どうやら侵入者が入ってきたらしい。

何なんだ…?

巧は薄れいく意識の最後に自分を抱えあげるオルフェノクの顔を見た。


次に巧が意識をとりもどしたのは何者かに担がれている時だった。

まだ催眠ガスの効果が残っているらしく全身がしびれた感じで

全ての感覚にもやがかかったようだった。

しかし彼を担いでいるのが人間ではないことは確かだった。

だらんと伸びた手が何やら毛のようなものに当たってるし、目に映る地面に残った足跡は

まるでひづめのようだ。

しばらくすると巧はゆっくりと地面に降ろされた。

だが相変わらず意識が朦朧として、背中に当たる地面の感触すらはっきりとしない。

巧を覗き込むオルフェノクの顔。

「巧くん、大丈夫か?」

巧にはうなづく力すら今はない。

「君はまだ死んではいけない。君は人類と我々オルフェノクの希望なのだから…」

人類とオルフェノクの希望?

何故こいつは俺の名前を知っている?

「君にこれをたくそう。きっと君の力になるはずだ。」

そう言うとオルフェノクは巧の胸の上に何やら四角い装置—ファイズブラスターを置き

その上から巧の腕を、ちょうど抱きかかえるようにして置いた。

「このままここにいれば、あとは誰か人間が見つけてくれる。」

そう言うとオルフェノクは立ち上がり去っていった。巧はまたそのまま眠りに落ちた。

おそらくその後彼を見つけて看病してくれたのがミナと彼女の父親だったのだろう。

「…やはり君にあれを託したのは、間違いではなかったようだな。」

「あれ…って?」

真理が巧に聞く。

「俺が変身した、赤いファイズになるための道具だ。」

と巧が答えると

「…ファイズブラスター。…君なら使いこなせると思っていた。」

とゴートオルフェノクは満足そうに言った。

しかし—

「どうやら…私にも…最期の時がきたようだ…」

「父さん!?

三原たちは皆水槽の周りに集まりじっと、彼らのお父さんを見つめた。

「最後に…真理や巧くんに会えてよかった…。
 こうして…かわいい子供たちに見守られながら…
 天国へ行けることがどれだけ幸せなことか…ありがとう。」

お父さんの言葉に子供たちは皆涙を流し口々に「お父さん」と呼びかけた。

「巧くん…私があのとき言った言葉を覚えているか…?」

「ああ」と巧がうなづいた。

「よかった…。」

満足そうな声でそう言うとゴートオルフェノクは青い炎をあげ灰と化した。

最期の一瞬、人間の顔—花形に戻ったときの表情はなんともおだやかで優しい笑顔であった。

沙耶と里奈は肩を抱き合うようにして泣きくずれ、真理もその場にしゃがみこみ泣いた。

三原は皆に背を向け、声を殺して泣く。

巧は机にもたれかかり、じっと手のひらを見つめ花形の言葉を思い出した。

「君は人類とオルフェノクの希望だ…」

その言葉に木場勇治との約束が重なる。

巧は静かに、拳を握り締めた。


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