「巧!大変!」 息をきらした真理が屋上に上がってきた。 巧たちがふりかえる。 「啓太郎が、啓太郎たちが…!」 真理が悲痛な顔で叫んだ。 「啓太郎がどうしたって!?」 巧と三原は真理とともに急いで彼らの隠れ家に戻った。
流星塾内の放送室。 ここで日中を過ごすのが真理たちの日課だった。
—花形が灰と化したその日は皆言葉をあまり交わすこともなく眠りについた。 巧と真理にとっては久しぶりのちゃんとした寝床だった。 翌朝、前日のことがまるで夢のようだったかのように沙耶たちは巧と真理を迎えた。 家庭科室のキッチンでは豪勢とまではいかないが、白いご飯にみそ汁、焼鮭といった 朝ご飯らしいメニューが並ぶ。 巧や真理はそういったものをここ数年口にしていないように思う。 オルフェノク支配下の世界では、人類は食料も充分に得ることができないのだから。 充実した朝食のあと、沙耶たちは巧と真理を彼らの“仕事場”へと案内した。 それは流星塾の放送室。 室内には放送機器をはじめパソコンなどたくさんの機械が備えられ、その機器がランプを 灯らせ忙しく動いていた。 ノイズに交じり何者かの話し声が聴こえる。 複数のモニターにはスマートブレインのCMやTV番組が流れている。 「ここは…?」 周囲を見回し、真理が尋ねた。 「ここは私たちの仕事場。ここで1日中スマートブレインの情報を集めているの。」 と里奈が答え 「俺たちはその集めた情報をそこのパソコンから全世界に向けて発信しているんだ。」 と三原が続け 「反スマートブレイン連合。…っていうHPでね。
つまり全世界の反スマートブレイン運動を行う人々のために様々な情報を提供しているの。」 と沙耶が締めくくった。 「お前ら…そんなことをしていて、スマートブレインにはバレないのか?」 と巧が真理も不安に思ったことを口にした。 「大丈夫。ここは父さんが作った場所で、システムも父さんの設計なんだ。
スマートブレインにはもちろんHPの存在は知られているけど、連中は発信地の特定は
おろかHPの削除すらできない。そういった仕組みになっているんだ。」 三原がさも自分が作ったかのように自信満々に話した。 「地下35mだけど地上のSWATたちのやり取りもばっちり手に取るようにわかるわ。
昨日真理と巧君が近くまで来たことがそれでわかったの」と沙耶が微笑んだ。 彼らはその他にも対オルフェノク用の武器開発(人間解放軍の野村が開発するようなものと違い 実用性はばつぐんであった)なども行っていた。 三原がライオトルーパーを射撃した銃もそうだったし、驚くことにファイズブラスターも彼らが 手伝い完成したものであった。 以降、巧や真理も彼らの仕事を手伝うようになった。
真理、巧、三原が放送室に入ると沙耶や里奈が驚きの表情を浮かべ、かたまっていた。 「沙耶!里奈!どうしたの!?」 真理が二人の様子にもしや…!と思い問いただした。 「まさか…啓太郎に何かあったのか!?」 巧も感情的に尋ねる。 「真理、巧君…ううん、啓太郎君は無事よ。けど…」 我に返り沙耶が答えた。 「ファイズが…現れたの…信じられないけど…。」 と里奈が驚きのせいでつまりながら話した。 「ファイズが!?どういうことだよ!」 と三原が沙耶と里奈に聞いた。 「わからない…けど白いファイズが啓太郎君たちを助けたらしいの…。」 と手元の通信記録を差し出した。 そこにはライオトルーパーと本社のやりとりが記載されていた。 その一節に白いファイズの言葉があった。 「それって…どういうこと…!?ねぇ、巧、どう思う?」 わからないといった感じで真理は巧に聞いた。 「さあな。…だいたい俺に聞くな。」と巧は迷惑そうに答えた。 たしかにその通りだと思ったのか真理は反論しなかった。 沈黙が続く。 その沈黙を破り、巧はじっと握り締めた拳を見つめながら口を開いた。 「わからないなら、この目で確かめるだけだ。」 皆がその言葉にハッと巧を見つめた。 巧の目に力強いものを感じ、それにこたえるかのように皆がうなずいた。
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