影山冴子がスマートブレインの横浜支社にやってくるのはこれで2回目だった。
1回目は、行き着けのバーでかつての恋人だった山岸たち4人を葬った後に スマートレディに連れてこられた時。 その時は支社長の村上が急用で不在だったため、部下の戸田英一が代理ということで現れた。 冴子は戸田から、村上からの依頼という形で“裏切り者のオルフェノクの始末”という 仕事を持ちかけられた。 それはいわば、次の依頼のためのテストだというものだった。 少し訝りながらも、冴子はそれを承諾し請け負った。 裏切り者のオルフェノク20人を1ヶ月以内で始末する− そのノルマを冴子は2週間ほどでこなした。 それにより今回は次の依頼を受けるために来社したのだ。 冴子はスマートレディに案内され村上の待つ社長室へ通された。 そこには冴子が想像していたよりずっと若い男が待っていた。 「初めまして、影山冴子さん。お会いしたかったです。
申し遅れましたが、私村上峡児と申します。」 そう言うと男はニコッと笑い右手を差し出した。 「私もあなたに会えて嬉しいわ。よろしく。」 冴子も微笑み握手に応えた。 「しかし驚きましたよ。まさか私の依頼を2週間足らずでこなすとは…」 ソファに腰掛けながら村上がそう言った。 「えぇ、私も最初は無理かなと思ったけど…でも思ったよりワケなかったわ。」 冴子もソファに腰掛けながら涼しげな顔で答えた。 「それは頼もしい。
実は、あなたのことはこのスマートレディから聞いていたのですが…
彼女は多くのオルフェノクを見てきていますが、特にあなたのことは高く評価していましてね。
いや、まさしく噂どおりのようだ。それでこそ“上の中の上”のオルフェノクというものです。」 組んだ脚に組んだ手を置きながら村上は頷いた。 「へぇー、彼女がねぇ…フフフ…」 そう言うと冴子は横目でスマートレディを見る。 スマートレディは微笑むと小さく手を振った。 「さて…早速ですが本題に入りたく思いますが、よろしいでしょうか?」 村上が話を切り出した。 「えぇ、どうぞ。私も“次の依頼”というのにとても興味があるわ。」 冴子は組んだ脚に頬杖をつきながら応えた。 「冴子さん、あなたはこの2週間の間でだいぶ“力”を付けてこられてるはずだ。
少し試してみてもいいですか?」 村上はそう言うと立ち上がり、部屋の広い場所に向け手を指した。 「フフフ…またテストというわけね…。」 冴子も立ち上がり、村上と二人、その広い場所へと移動した。 向き合い、まず村上がオルフェノク−バラの特性を持ったローズ・オルフェノク−へと変化した。 それに続き冴子もロブスター・オルフェノクへと変化した。 冴子が右手にサーベルを召喚し、鋭い突きを繰り出した。 村上は後へと飛び退き、それを避け頭から無数のバラの花を撒き散らした。 冴子は直感的にそれを避け、手にしたサーベルを連続で繰り出し花びら1枚1枚を突き破る。 村上と冴子の間で小さな爆発が無数に起きる。 花びらが全て破られると同時に村上は変化を解き、その場で拍手をはじめた。 それに合わせスマートレディも拍手をする。 冴子も変化を解き、不敵な笑みを浮かべた。 「すばらしい!やはりあなたは上の中の上たるオルフェノクです。」 村上はそう言うと再び冴子をソファへと案内する。 二人が座ると、スマートレディがコーヒーを用意した。 「実は私はあなたのような“上の中の上”たるオルフェノクを集め、共に協力して目的を果たせる
“仲間”を作りたいと思っているのです。」 村上はそう言うとコーヒーカップを口へと運んだ。 「目的?」 先にコーヒーを口にしていた冴子がカップを置きながら聞いた。 「はい。我々の目的とは人類に代わってオルフェノクが世界の実権を握ることです。」 村上が答える。 「ずいぶんと大きな目標ね。本当にそんなことができるのかしら?」 冴子が小さく首をかしげる。 「今はたしかに我々の方が不利ではありますが、我々の力を持ってすればいずれは可能です。」 村上が自信たっぷりに答える。 「なるほど…それで私は何をすればいいのかしら?」 冴子が話を進める。 「あなたには、あなたのように“上の中の上”たるオルフェノクの
“スカウト”を行ってもらいたいのです。
一応、候補のリストはこちらにまとめてあります…」 そう言うと村上はスマートパッドとメモリーカードを差し出した。 「わかったわ。つまりこのリストの中から優秀なオルフェノクを選抜すればいいのね。
でもそれなら彼女に任せた方が早いんじゃないの?」 冴子はスマートレディの方を見た。 「えぇ、それもそうなんですが…彼女はあくまで本社付きの人間でしてね。
私のような支社長がそう自由に使える者ではないんですよ。
それにこのことは本社には内密のことでしてね。」 村上はそう言うと苦笑した。 「なるほど…でも本社に内密って…彼女が本社付きならバレるんじゃなくて?」 冴子が再びスマートレディを見る。その目は少し恐いものだった。 「だいじょーぶですっ!私はこう見えても口は堅い方なんですよ♪」 そう言うとスマートレディは“見ざる、言わざる、聞かざる”の物まねをした。 「それにあなたなら同じオルフェノクとして、力量が判るでしょうから。
そうだ、実戦を行うのが一番よいでしょうね。
うちの社員として登録されているオルフェノクを使ってもかまいませんよ。」 そう言うと村上はもう1枚メモリーカードを差し出した。 「そう。…それで報酬はいただけるのかしら?そういえば前回のもまだだと思うけど?」 冴子はそう言いながら先ほどのメモリーパッドとメモリーカードをカバンにしまった。 「ええ、もちろん前回のも合わせて報酬はお支払いさせていただきますよ。
まず前回の分とそして今回の前払いとして、都内に一軒あなたのためにバーを
ご用意させていただきました。
冴子さん、調べさせていただいたところあなたは自分のバーを持つのが夢だったそうですね?」 冴子はそれを聞いて苦笑した。 たしかに彼女は行き着けのバーのオーナーに憧れ、バーテンになるために、ホテルなどで行われる カクテル実習などに通い勉強したこともあるし、行き着けのバーでカクテルを作らせてもらったこともある。 しかしそれは人間であったときの夢であった。 それがオルフェノクになってから叶うとは思ってもいなかったのだ。 「よく調べたわね。たしかにそんな夢を持っていたわ、ありがとう。」 「そして後払いとしまして…あなたがスカウトされた方々共々にスマートブレインの特別役員と
してお迎えしようと思っています。
役員になったあかつきには、スマートブレインのありとあらゆる施設を自由にご利用していただけます。」 村上はそう言うと微笑んだ。 「そう、それは光栄なことだわ。」 冴子も微笑んだ。 「ちなみに聞くけど、いったい何人スカウトすればいいのかしら?」 冴子が候補のリストを見たところ15人くらいはいたが− 「そうですね…。」 村上は顎を手で触りながら少し考え込んだが、Yシャツの袖に光る四葉のクローバーの カフスボタンに気付き 「それではあと3人というのはどうでしょう?
四葉のクローバー“ラッキークローバー”ということで…」 冴子を含めて四葉のクローバーとなるための残り3人の“上の中の上”たるオルフェノクを集める。 「わかったわ。」 冴子はそれを承諾した。
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