その日、冴子は5人目の人物をテストするため都内の公園に来ていた。
いつも愛犬を連れてこの公園に来て、ベンチにてしばしの休憩をとるのがその人物の習慣だった。 今のところ冴子のお眼鏡にかかった人物はいなかった。 直接彼女がテストを行う場合でも、誰かを使ってテストを行う場合でも 彼女の想像を超えるものを持った力や動きをするかどうかをひとつの基準にしていた。 だが、誰もが彼女の予想通りでしかなかったのである。 今日の人物はどうなんだろうか? そんなことを考えていると果たしてその人物がやってきた。 「こんにちは、Mr.ジェイさん。あなたを待っていたわ。」 いつも彼が座るベンチに腰かけ、冴子は微笑んだ。 ジェイは不思議そうな顔で冴子を見た。 その腕の中で彼の愛犬・チワワのチャコが主人の動揺を感じてのことか、小刻みに体を震わす。 「ごめんなさい、自己紹介まだだったわね。
私は影山冴子、スマートブレインの役員。
あなたのことを知っているのは、あなたがオルフェノクだから。」 冴子のその言葉にジェイは驚いた。 「Mr.ジェイ、あなたの経歴も調べたけれど…
少年時代はずいぶんとひどい境遇にあったみたいね…
スラムの児童保護施設を出た後はその体躯を生かして要人のSPとして働く。
けどその裏でバウンティハンター(賞金稼ぎ)をして、その賞金を保護施設に寄付していた…。
日本に来たのはSPの仲間であるMr.クラバスの薦め…
そのクラバスもオルフェノクだということは調べが付いているわ。
日本に来てからもやはり要人のSPを勤めている。
しかし時々オルフェノクの力を使って人間を殺している…」 そう話し終えると冴子は横に座るMr.ジェイに微笑みかけた。 「あなたが無口なのは少年時代に受けた心の傷のせい…かわいそうに…
あなたは心を開いた人物にしか口をきかない。
けど私の言ってることは全てわかっている。そうよね?」 冴子は優しい声と微笑みでジェイに尋ねた。 ジェイには母親の記憶が無かった。 物心ついた頃にはすでに周囲は彼を疎む大人の男ばかりだった。 だが不思議とジェイは冴子に母親の面影を感じた。 きっと母親は優しかったに違いない。 ジェイは冴子の言葉に頷いた。 「Mr.ジェイ、今日はあなたにお話があるの。私は今強い仲間を捜している。
あなたもその中の候補の一人。どうかしら、Mr.ジェイ。ちょっとしたテストを受けてみない?
それに合格すればあなたも私と同じスマートブレインの役員になれる。
あなたのためにも愛犬のチャコちゃんのためにも、私は是非あなたにテストを受けてほしいの。」 そう言うと冴子はチャコの頭を優しく撫でた。 チャコもその手が心地よかったのか、嬉しそうな顔をした。 「イエス。OK。」 Mr.ジェイが短いが、初めて言葉を発した。 「ありがとう、Mr.ジェイ。嬉しいわ。」 冴子はそう言うと満面の笑みを浮かべた。
やがて人気のない廃工場にMr.ジェイ、冴子そして冴子が呼びつけた スマートブレインの社員たちの姿があった。 冴子はMr.ジェイの変化するクロコダイル・オルフェノクに対し エレファント・オルフェノクとオックス・オルフェノクを使って能力を測ろうとしていた。 「2対1になるけれど、いいかしらMr.ジェイ?」 ジェイから預かったチャコを抱いた冴子が尋ねた。 「イエス」 ジェイは前の二人を見たまま答えた。 「へぇ〜、たいした自信じゃん」 「面白い…」 コートを着た男と、皮ジャンを着た男がオルフェノクへと変化する。 エレファント・オルフェノクとオックス・オルフェノク。 それを見てジェイもオルフェノクへと変化した。 まず攻撃をしかけたのはエレファント・オルフェノクだった。 手に大砲を召喚し、ジェイめがけて光弾を放つ。 ジェイはそれを素早く避けると、いっきに間合いをつめ両手に召喚したクローで エレファント・オルフェノクを攻撃した。 衝撃で吹き飛ぶエレファント・オルフェノク。 そこへ鉄球を持ったオックス・オルフェノクがジェイに攻撃をくわえる。 クローでそれを防いだジェイはオックス・オルフェノクの懐に入ると、腹部をクローで連続的に攻撃した。 その衝撃でオックス・オルフェノクも吹き飛ぶ。 一方、エレファント・オルフェノクはその体を突進態へと変化させ、ジェイに襲いかかった。 脚をあげるとジェイを踏み潰そうとする。 それを避け、逆に脚にしがみついたジェイはそのままエレファントの胴体に這い上がった。 背中をとられた形になったエレファントになす術はない。 ジェイはその巨体にクローで何回も強力な攻撃をくわえていく。 たまらずエレファントは突進態を解き、その場に倒れこんだ。 吹き飛ばされたオックス・オルフェノクは瓦礫の山から這い出ると、また鉄球を手にジェイへと走りよった。 鉄球を勢いよくふりかぶる。 ジェイは倒れたエレファント・オルフェノクを抱え上げると、その体を盾にした。 鉄球をまともにくらったエレファント・オルフェノクはまたその場に倒れ人間の姿に戻った。 それを見て動揺したオックス・オルフェノク。 ジェイはその隙を逃さず、オックス・オルフェノクを捕まえると、頭上に持ち上げ廃工場の中へ投げ飛ばした。 オックス・オルフェノクもその場で人間の姿に戻った。 「そこまで!」 冴子が叫ぶ。その顔は笑みを湛えていた。 「すごいわ、Mr.ジェイ。
あの二人を完全にねじ伏せるなんてそう簡単にできることじゃないわ。あなたはテスト合格よ。」 冴子は微笑み、腕の中のチャコをジェイへと返した。 「アリガトウ。」 ジェイも少しぎこちないながらも冴子に笑顔を返した。 ラッキークローバー2枚目の葉−Mr.ジェイはこうして選ばれた。
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