Mr.ジェイのラッキークローバー入りが決まった日から1週間ちょっと。
冴子のテストも12人目を数え、残りわずかになった。 未だ3枚目の葉は決まっていない− 冴子は都内の大学病院へと来ていた。 今日のテスト対象はここの新人医師である琢磨逸郎だった。 名門の琢磨家の長男である彼は父の意志を継ぎ、医学の道を選び医師免許を取得 研修医期間を終了したばかりだった。 「琢磨先生、お客さんが来てるようですが…」 午前の診察を終え休憩をとっている琢磨のもとへ看護婦がやってきてそう告げる。 「うん?一休みしているところなのに…」 琢磨は少し不服そうに言う。 「どうしましょう?若い女性の方なんですけど…」 看護婦が聞く。 「…わかった。じゃあ、入ってもらって」 琢磨は無愛想に答えた。 女性という言葉に少し反応したが、心当たりがない。 「こんにちは、琢磨先生」 そう言いながら一人の女性が診察室へと通された。 「悪いけど、二人だけにしてくれる?」 入ってくるなり女性は看護婦に外すよう言った。 看護婦は琢磨の顔を見たが、琢磨も少し考えた後頷いた。 「失礼します。」 看護婦が部屋を出て行く。 やはり心当たりのない女性。保険かなんかの勧誘か? 「はじめまして、琢磨先生。私の名前は影山冴子、こう見えてもスマートブレインの役員の一人なの。」 冴子が微笑む。 「本当かな?怪しいけど…証拠は?」 琢磨は警戒しきった態度と口調で言う。 「証拠…これはどうかしら。」 そう言うと冴子はブラウスの胸ポケットから名刺を差し出した。 『スマートブレイン 特別役員 影山冴子』 と記載され、スマートブレインのロゴなどが入っている。 「で…その役員さんが今日は何のご用で来たのでしょう?」 眼鏡をなおしながら琢磨が尋ねる。 「実はちょっと先生に診てもらいたくって…」 そう言うと冴子はおもむろにブラウスのボタンに手をかけた。 「ちょ、ちょっと、待って下さい!し、診察の時間は…」 琢磨が慌てる。 「フフフ…冗談よ。でも医者なら女性の裸くらい平気じゃなくて?
それともまだ診たことないとか?あなた、今まで女性と付き合ったことある?」 冴子がいたずらっぽい笑顔を琢磨の顔に近づけ言う。 「ほ、ほっといてくださいよ!失礼な人だな、あなたは!」 しどろもどろに琢磨が答える。 「フフ、かわいい子ね。まぁ、そんなことはどうでもいいわ。
今日はもっと大事な話をしにやってきたの。琢磨逸郎さん。」 そう言うと冴子はカバンからスマートパッドを取り出した。 「琢磨逸郎、現在24歳。
8年前の高校1年生のときに飛び降り自殺をはかり、生死の境をさまよう。
原因はいじめ。1ヶ月間入院したのち退院。
その直後あなたをいじめていた4人の男子とあなたの友人の男子1人が謎の失踪をとげる…
あなたが殺したのよね?オルフェノクの力を使って…。
あなたは自殺のときに一度命を落としオルフェノクへと覚醒した。」 外に聞こえないよう小声で、しかしはっきりとした言葉で冴子は琢磨に言った。 「な、何を、そんなのはいいがかりです!だいたいオルフェノクなんてものは知らない!」 琢磨は否定するが、その慌てぶりはかえって認めているようなものだった。 「安心して琢磨くん。私はあなたをとがめているワケじゃないの。
むしろあなたのやったことはオルフェノクとしては当然のことなのよ。
オルフェノクは仲間を増やすために人を殺すという本能的衝動を持っているのよ。
あなたにもあるでしょ、そんな気持ちになることが…
現に今でも月に1回は誰かを殺しているのよね?」 冴子の言葉は全て琢磨を見透かしたような言葉だった。 たしかに琢磨は1ヶ月に1度は気に入らない人間などを殺しては心の衝動を消している。 「な、仲間を増やすために人を殺す?まさか、あなたも?」 「ええ、私もオルフェノクよ。あなたと同じね。ねぇ、琢磨くん。
医者という人生も立派だと思うけど、それよりもっと違った人生をおくってみる気はない?
人生は1回ですものね。どうせならすばらしい人生の方がいいでしょ?」 冴子は琢磨の目をじっと見つめる。 「違う人生?」 冴子の視線に少し戸惑いながら琢磨が答える。 「そう。今、私は“上の中の上”と言われる強力なオルフェノクの仲間を捜しているの。
その候補にはもちろんあなたも入っているわ。私はその候補の一人一人と会ってテストをしてきている。
あなたもそのテストを受ける気はない?
もし合格すれば、あなたも私と同じくスマートブレインの特別役員になれて、将来も約束されるわ。
今の医者の道よりもずっといい人生がね。」 冴子の言葉には説得力があるように感じた。 「わかりました…テストですか、面白そうですね。」 琢磨はそう言うとぎこちなく微笑んだ。 「そうこなくちゃ。」 冴子も微笑む。
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