その夜−冴子がショウのテストを行った港の倉庫が、琢磨のテストの場となった。
琢磨、冴子、そして冴子の働きがけで晴れてスマートブレインの社員となったショウが倉庫に集まっていた。 「何か、昼間と雰囲気が変わっているわね?」 琢磨の姿を見て冴子が言った。 彼女の言うとおり、昼間の白衣と変わって高級そうな皮のブレザーに皮ズボン そして上着の下には少し派手めなYシャツが見える。 「ええ、まぁ…」 琢磨は照れくさそうに笑ったが、その笑みには余裕がうかがえる。 「さて、準備はいいかしら?」 冴子がお互いを見る。 「はい!今日こそは冴子さんにいいところをお見せしますよ。」 ショウが張り切って言う。 「…やっぱり、私がやるわ。あなたは下がっていて。」 ショウの顔を見て冴子が言った。 「えっ!?どうしてですか?」 ショウが不服そうな顔で言う。 「だって彼、昼間と違って、とってもいい顔してるわ。きっと自分に凄い自信があるのよ。そうよね?」 冴子が口元に笑みをたたえ、琢磨の方を見る。 「自信ですか…そうですね。少なくてもそこの人は勝てるつもりですが…」 そう言うと琢磨はニヤリと笑う。 「ほらね?やっぱり私がテストの相手をしないと、失礼だわ。あなたはいいかしら、琢磨くん?」 「はい、僕はかまいませんよ。」 相変わらずの余裕の笑みで琢磨が答えた。 「そ、そんな…」 情けない顔をするショウ。 「それじゃあ、始めるわよ。」 冴子がオルフェノクへと変化する。 「それでは…」 琢磨もオルフェノク−センチピード・オルフェノク=ムカデの特性を持つオルフェノク−へと変化した。 先に仕掛けたのは冴子だった。 いっきに間合いをつめ鋭い剣撃を繰り出す。 しかし琢磨は俊敏な動きでそれを難なくかわす。 冴子の続く2撃、3撃目も虚しく空を裂くばかりだった。 「避けてばかりじゃ、勝てないわよ?」 動きを止めたロブスター・オルフェノクの足下に映る影の中で、冴子が喋る。 「えぇ、わかってますよ。」 そう言うと琢磨は右手から鞭を引き出した。 それを冴子めがけて放つ。 前へ飛び出すことでそれを避けた冴子だったが、琢磨はそれを予想していたかのように 鞭を引き戻すと共に手首のグリップをきかせ、冴子の体をからめ取った。 「!?」 動きの最中で上半身の自由を封じられた冴子は転倒しそうになったが どうにかその場に踏みとどまった。 「冴子さん!」 それを見ていたショウがソードフィッシュ・オルフェノクへと変化し、琢磨に襲い掛かる。 「勝負に割って入るとは無粋ですね。」 そう言うと琢磨は左手をショウの方向にかまえると、青い閃光を放った。 「ぐわっ!」 ショウの体が吹き飛ばされ、倉庫の壁にぶち当たる。 ショウは人間の姿に戻るとその場にうずくまった。 「全くバカな男ね…」 自分を助けようとしたため、そんな目にあったショウに対し、冴子は冷たく言い放った。 そして上半身の鞭を振り解くと琢磨を睨みつける。 「あなたも油断してたわね。」 ショウに気をとられてか、琢磨の鞭の力はゆるまっていた。 「そのようですね。」 琢磨の言葉にはまだ余裕の色がうかがえる。 冴子はそれに対して少し苛立ちを感じ始めた。 サーベルをかまえるとまたいっきに琢磨との間合いをつめる。 「はっ!」 得意の鋭い連続の突きを繰り出す。 「ふんっ…!」 琢磨は後へ飛び退きそれを避けると共に、サーベルのラッシュめがけて鞭を打ち出した。 次の瞬間− バチンッという大きな音ともに、冴子のサーベルが大きく宙を舞った。 やがてそれは放物線を描き互いの間の地面に突き刺さった。 「くっ!」 冴子が小さな声をあげた。 「そこまでっ!」 その時、横から女性の声が聞こえた。 「はいっ、そこまでです、二人とも人間の姿に戻りましょう♪誰かに見つかると大変です♪」 スマートレディが二人の間に入る。 「あなた…何しに来たのよ…。」 サーベルを引き抜くと冴子は人間の姿に戻り、スマートレディを睨みつけた。 「いやん、冴子さん。そんな顔したら、せっかくの美貌が台無しですわ♪
私はたまた〜ま近くを通りかかって、少し心配になって来ただけですっ♪」 スマートレディはそう言うとニッコリ笑う。 「ふん…どうかしらね?」 あきれ顔になる冴子。 「ねぇ、冴子さん、彼のこと認めてあげたらどうです?」 スマートレディはそう言うと琢磨の方を見て、ニコッと笑う。 「余計なお世話よ。…けど、くやしいけど私の負けだわ、琢磨くん。彼女の言う通りあなたは合格よ。」 そう言うと冴子は琢磨を見る。 「ありがとうございます。」 そう言うと琢磨が頭を下げた。 「おめでとう。」 ようやく冴子の顔に微笑みが戻った。 それを見てスマートレディが拍手をする。 琢磨逸郎−3枚目の葉が決まった。
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