ちょうどその時、携帯が鳴った。
「もしもし…」 冴子は少年を見失わないように、通話相手も確認せずに電話に出た。 「冴子さん、お疲れ様です…」 電話の向こうの声は村上だった。 「村上くん…どうも…」 冴子が返答する。 「今、ある資料を見てまして…とても興味深い情報がありましてね。」 村上が言う。 その声は少し高揚してるように思えた。 「そう。実は私も興味深い子に会ったわ。」 「ほう…そうですか…」 「で、村上くんの方はどんな情報なの?」 冴子は話を急かせた。 今は前の少年を追う方が彼女にとって重要なことだった。 「それがですね、少し変わった少年の話でして…
スマートブレインの出資している施設に居た子供なんですが、物質に触れるだけで灰化させてしまうという…」 冴子はその話を聞いて、目の前の少年がその少年だと直感した。 「その子なら今、私が後を追っているところよ。」 冴子の報告に村上は驚いた。 「…奇遇ですね。ということは、冴子さんはその能力を目撃されたんですね?」 「えぇ、目の前でね。」 「なるほど…それでは少年の情報をスマートパッドに転送しましょうか?」 村上はもはや電話で喋る必要もないと判断した。 「ええ、そうしてくれる?」 「わかりました。それでは…」 「よろしくね。」 携帯の通話が切れて間も無くスマートパッドに少年の情報が送られてきた。 少年の名前は北崎優人−現在15歳。 5歳のときに養護施設に保護された。 本人いわく 「パパとママは僕が世界で1番強いのが恐くて、僕を捨てたんだ」と言った。 その両親・北崎寛人と北崎優子は行方がわからず、今現在も失踪中である。 施設から小・中学校に通うが、幾度も脱走をはかり連れ戻される。 最後に脱走したのは中学3年生の卒業も目前にした時で、その後スマートブレインの出資する 養護施設に保護されそのまま移る形となった。 しかし2ヶ月前にまた脱走し現在に至る− 備考として 「触れた物質を灰化させる能力を持つことからオルフェノクに覚醒していると
考えられるが、詳細は不明」とあった。 また 「保護された当時、ショックのためか自分の下の名前を忘れており北崎という
苗字しか名乗らなかった。」ともあった。 北崎の情報を見て、冴子はますます興味を持った。 “いったい彼の真の力はどんなものなのか?” 是非それを自分の目で確かめたいと思った。 北崎はやがて人気の無い廃車置場へと入った。 冴子も後を追う。 無数の廃車が無造作に置かれ山積みにされている。 冴子は北崎を見失った。 周囲を見回す。 「ねぇ?お姉さんは誰?何故僕の後をついてきたの?」 後方から声が聞こえ、冴子は振り返った。 廃車の後部座席にこちらを向いて座り、ニヤニヤしている北崎がいた。 「あなた、北崎くんね?私は影山冴子。あなたの“能力”にとても興味があって、後をつけさせてもらったの。」 冴子はニッコリと笑った。 「へぇー、そうなんだ。でも、どうして僕の名前知ってるの?」 北崎は相変わらずニヤニヤした顔つきで言った。 「それは…私はね、スマートブレインの役員で…あなたとは同じ仲間なの。
あなたのあの能力はオルフェノクっていうものなのよ。」 冴子はできるだけ北崎がわかりやすいように言葉を選んで話す。 「オルフェノク?お姉さんも僕と同じ能力を持っているの?」 冴子の話に興味を持ったのか、北崎の目は小さい子供のそれのように輝いて見えた。 「えぇ、そうよ。でもあなたみたいに触れたものを灰にしちゃうことはできないけどね。
あなたの場合はきっととても特別なものね。」 その言葉に北崎は無邪気な笑顔を見せた。 「そうだよ、僕はね世界で一番強いんだ。」 冴子もその言葉に笑みで答えた。 「そこでね、簡単なテストを受けてみない?」 本題を切り出す。 「テスト?」 北崎の顔から少し笑顔が消えた。 それを見て冴子は言葉を訂正した。 「ううん、ちょっと力試しをするだけよ。私の指定した相手と闘ってくれればいいの。
もしあなたが勝てば、合格。」 それを聞いてまた北崎は無邪気な笑顔を見せる。 「ホント?うん、いいよ。で、誰と闘えばいいの?」 北崎の問いに冴子は微笑み 「少し待ってて。今呼ぶから…」 そう言うと冴子は携帯を取り出し、段取りを組み始めた。
|