その夜、村上の歓迎会が行われた。
「主賓はそこで…」 と川淵が村上の席を指差した。 「それじゃあ、私はその隣!」 華菜絵がそう言うと村上の横に陣取る。 「ずるーい!」 それを見た他の女性社員が悔しそうに脹れる。 「ハハハ、相変わらず村上君は女性にモテるなぁ。」 と川淵が笑う。 「こいつは昔から女性社員に人気があってなぁ、ワシも含め他の男子社員は羨ましく思ってたものだよ。」 と川淵が続ける。 「そういえば、村上君は未だに独身だったなぁ?何故だ?」 その川淵の問いに村上は少し困った顔をした。 「いや、何故だと言われても…」 と村上はごまかすように苦笑した。 「もうそろそろいい歳なんだし、どうだ身を固めたら?」 川淵が追い討ちをかけるように言う。 「村上さんって彼女いるんですか?」 話に割って入るように女性社員から声があがった。 「いや、今は…」 とまた困ったように村上は答えた。 「それなら、そうだなぁ…例えばそこの鬼塚君なんてどうだ?とても気が利く良い子だぞ。」 と川淵は華菜絵を見た。 華菜絵はそれに対してニコッと笑った。 「あぁー、部長、それどういう意味ですか!?それじゃあ私たちは気が利かないってことですか?」 「セクハラだぁー!」 他の女性社員からブーイングが起きる。 「いやいやスマン、スマン!うちは皆いい子ばかりだよ、ハハハ。」 と川淵は大声で笑った。 「あのー…遅れましてすいません。」 そこへ男が入ってきた。 「おー!梅津君、ご苦労だったなぁ!そうだ君にも紹介しなければな。
今日からうちの部署で働く村上君だ、まっ、ひとつよろしく頼むよ。」 と川淵が梅津に村上を紹介しました。 「はじめまして、村上です。これからはよろしくお願いします。」 「どうも梅津です。お噂は部長から聞いておりましたよ。こちらこそよろしくお願いします。」 と挨拶を交わした。 「ちょっと失礼…」 梅津は華菜絵と村上の後を通り、川淵の横に行き 「部長、ご報告ですが…いいサンプルが入りました。」 「おぉ、そうか!いやいやご苦労だったな!また後で話を聞かしてもらうよ。」 と川淵はまた大声で笑い、そのまま乾杯の挨拶に至った。
歓迎会を終え、村上が独身寮の自室に戻ったのは深夜零時を少し過ぎていた頃だった。 スーツの上着を脱ぐとハンガーにかけ、村上は少し考えた顔をした後、携帯を手にとった。 そしてどこかに電話をかけた。 プルルルル… 数回の呼び出し音の後、相手が出た。 「お疲れ様です。夜分遅くにすいません…」 と村上は電話の向こうの人物に頭を下げた。 「いやいや、気にしなくていいよ。」 電話の向こうの男が答えた。 「早速ですが…やはり今日1日では何も掴むことはできませんでした。ただ…」 村上は自分以外誰もいない部屋を見回し、少し小声で話を続けた。 「梅津という男が川淵部長に“いいサンプルが入った”と報告していました。
それ以上はわかりませんでしたが…」 「そうか…ご苦労様。続けて内部調査の方を頼むよ。
こちらも色々調べてはいるが、なかなか難航していてな…」 「そうですか…わかりました。それでは、また何か新しい情報が入りましたらご連絡します。」 「あぁ、よろしく。だが無茶はするなよ、村上。」 「石野さんもあまり根をつめすぎないよう…」 「ははは、ありがとう。それじゃあ…」 「それでは…」 村上は携帯を切ると、また少し考える顔をした。
|