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6.裏切り


その夜−

村上は一人車に乗り、龍頭貿易社長・高垣の邸宅の近くで停車していた。

1時間ほど前、この邸宅に川淵、梅津そして華菜絵の3人が入っていくのを確認している。

“接待のために相手の屋敷へ行く…?何かあるに違いない”

そう思う一方、村上は言い知れぬ不安に襲われていた。

“何故、川淵は華菜絵を誘ったのか?”

彼女に何もなければいいが…

だが、村上のその嫌な予感が当たった。

邸宅の中から泣きながら華菜絵が飛び出してきたのである。

「鬼塚さん!」

次の瞬間、村上は車から飛び出し彼女の体を支えていた。

「どうしたんだ!何があった?」

村上が聞いても華菜絵は泣きじゃくるだけだった。

「全く、人がキスしようとしただけで逃げ出すとは…」

そう言いながら邸宅の門から多くの男たちが出てきた。

川淵、梅津、高垣にその手下、そして“キスをしようとした”男は元厚生大臣の代議士・黒木であった。

「村上くん!何故君がここに居るんだ?」

少し驚いたように川淵が言った。

「部長…やはりあなたは…信じたくなかった…しかし噂は本当だったようですね。」

村上があらゆる感情をかみ殺すように呟いた。

「噂だと?」

川淵が少しムッとした顔で尋ねた。

「裏社会とのつながりと本社に許可なしでの新薬の開発…真実だったようですね?」

龍頭貿易・高垣といえば、裏社会では新参者ながらも強い力を持つ暴力団の組長である。

村上はそう石野から情報を得たのであった。

そして元厚生大臣の黒木といえば、厚生省と裏で強いパイプを持つ代議士であった。

独断で新薬を開発しようとも、その使用は認可されなければ違法となる。

そこで川淵は高垣を通じて黒木とのつながりを持ったのである。

「だったらどうする?村上君?」

川淵は、だが余裕の顔で村上に尋ねた。

そこにもはや村上が尊敬した川淵の姿はなかった。

「本社にでも報告するかね?いいか村上君。
 人間、大きくなろうと思えば正攻法をやってるだけではダメなんだ。わかるだろ?」

川淵が村上に言う。

村上はその言葉に対して嫌悪と憎悪の目で答えた。

「おい、この正義のヒーローに“現実”を教えてやれ」

高垣がそう言うと、彼の手下が、村上と華菜絵を捕まえ邸宅へと引きずり込んだ。

やがて村上たちは邸宅の地下室へと連れてこられた。

「川淵さん、この二人どうします?」

高垣の手下に捕らえられ身動きできない村上と華菜絵を見ながら梅津が言った。

「鬼塚くん…君が黙って黒木先生に身を任せていたらこんなことにならなかったのになぁ。」

川淵が残念そうに言った。

「どうです、川淵さん、こいつら心中させるってのは?」

高垣がにやついた顔で言う。

「なるほど…どの道二人は生かして帰せない…それは名案ですね。」

梅津が面白そうに言う。

「それならどうです、先生?“心中”の前にこの娘を楽しむってのは?」

高垣が下卑た笑顔を浮かべる。

「良心が痛むが…その案に乗るよ。
 世の中逆らってはいけないものもあるということを教えてやらねばならないからねぇ。」

黒木も下卑た笑顔を浮かべる。

「おい!」

高垣がそう言うと華菜絵を押さえていた男たちが彼女の体を引っ張っていく。

「いやーっ!村上君…!」

華菜絵は泣きながら村上を見た。

「待て!」

村上はずっと心の中で葛藤していた。

怪物の姿になれば、こんな連中を倒すことなど簡単なことだ。

だが、その姿を華菜絵に見せてしまうことになる…それだけは避けたい…。

しかし事態はそう言ったことを言っている場合では無くなっている。

“彼女を守らなければ!”

「うぉぉぉぉーーー!!」

村上は雄叫びを上げた。

その全身が青白く発光し、その光が全身を包んだ。

次の瞬間−灰色の化物へと変身し、その体を押さえる男たちをいっきにねじ伏せた。

その内の一人が大きく宙を舞い華菜絵の足下へ落ち、絶命した。

「きゃーっ!」

首があらぬ方向を向いたその男の姿を見て華菜絵は叫び声をあげ気を失った。

「ほほう、君も“グレーモンスター”だったのか…」

川淵が村上の姿を見てそう言った。

“グレーモンスター?”

村上は自分の姿を見ても驚いたりせず、そのうえ

「グレーモンスター」と口にした川淵たちに少し動揺した。

“こいつらはこの姿のことを知っている…?他にも私みたいなのがいるということなのか?”

村上はそう思った。

「どうします、部長?彼もサンプルに加えますか?」

梅津がそう川淵に言った。

「フフっ、梅津くん。さすがに部下を実験材料に使うのは心が痛むよ。」

川淵は全くそんなことを思っていない口ぶりで答えた。

「それじゃあ、ここはひとつ、黒木先生にショーをお見せするというのはどうです?」

高垣が皆を見て言った。

「ショー?」

黒木が興味深そうに反応した。

「えぇ。グレーモンスター同士の殺し合いっていうショーです。」

高垣はニヤニヤしながら言った。

「なるほど。それは面白いですね。」

川淵が相槌を打つ。

「ふむふむ、それはたしかに!よしそのショーを見せてくれたまえ。」

鼻息を荒くしながら黒木が言った。

「承知しました。おい、岩倉!」

「へい」

高垣に岩倉と呼ばれた男がスーツの胸元から何やら四角い箱を取り出した。

「ささ、皆さんはこちらに…」

高垣はそう川淵や黒木たちを地下室の一角にあるガラス張りの部屋へと先導する。

高垣の手下二人が気絶した華菜絵の体を持ち上げ、そこへ運び去ろうとしたのを見て

村上は彼女のもとへと駆けつけようとした。

その時−

もう一方の方から鋭いナイフが飛んでくるのを感じた村上は、動きを止めそれを打ち払った。

飛んできた方角を見る。

するとそこには今さっきまで閉まっていた頑丈そうな扉が開き、中から村上と同じ灰色の化物が

3匹出てきたのである。


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