「どうや、村上さんとやら。そいつらはお前と同じグレーモンスターやで。
最も何回も実験材料に使われてるから人間のときの記憶や何やらは全て無くなってもて
今やホンマの獰猛な怪物に成り果ててもてるけどな。」
岩倉はそう言うと面白そうに笑った。 「キサマら…!」 村上は岩倉や部屋の中の川淵たちを睨みつけた。 言い知れぬ怒りと憎しみがふつふつと湧いてくる。 だが、今は目の前の同胞たちを倒すことしか助かる道はない。 村上は彼の特性である“薔薇の花”を撒き散らした。 真正面から突っ込んでくる3匹の怪物はそれを避けることもできず立ち往生する。 先ほどナイフを投げてきたキツツキに似た怪物は薔薇の花が触れることで起こる爆発の餌食となり 灰と化し消え去った。 だが残りの2匹はその体で攻撃を防ぎきった。 それを見た村上は手から鞭を引き出し、ホタテ貝を思わせる怪物へと打ちつけた。 しかしその攻撃もその体には効果は無かった。 そして村上の攻撃のスキを突いて、もう1匹のヘラクレスオオカブトムシを思わせる怪物がその巨体を 生かしたタックルを放ってきた。 それをもろに受け吹き飛ばされる村上。 ヘラクレスカブトの化物は休む間もなく、その手に召喚した大きな斧を振り上げ村上の起き上がりへと 攻撃を重ねてきた。 “ダメか”と村上が思った一瞬。 横から飛んできた青白い光がヘラクレスオオカブトの斧を消し去った。 突然のことに村上もヘラクレスオオカブトの化物も驚く。 光の飛んできた方向を見た。 そこには真っ白い毛を肩にたくわえた山羊を思わせる怪物が立っていた。 ヘラクレスオオカブトの怪物は叫び声を上げると、逆上したように攻撃の矛先を山羊の怪物へと変えた。 貝の化物も同時に新参者に向かっていく。 先に仕掛けたのはヘラクレスオオカブトの方だった。 その太い腕を振りかぶる。 だが、それよりも格段に早い動きで山羊の怪物はその背後へと回り込み、がら空きになったボディへと 回し蹴りを喰らわした。 「ふごーーーっ!」 地下室全体を揺るがすよう叫び声をあげ、その巨体が壁まで飛び、めり込んだ。 体をジタバタさせ必死にそこから脱出しようとするヘラクレスオオカブトを見て 貝の化物は少し動きを止めた。 そのスキを突き山羊の化物は一足で間合いをつめ、鋭い拳を打ち込んだ。 「ふむ。硬いな。」 山羊の化物が初めて喋った。 その声は落ち着き払っている。 貝の化物が手に巨大なハンマーを召喚する。 それを振り上げるが… 山羊の化物がまた拳を打ち込む。 しかし今度は一撃ではない。 目にも止まらぬくらいの速度で何十発、いや何百発も貝の化物を打ちつける。 そして山羊の化物は一度拳を止めると、止めとばかりに鋭い拳を繰り出した。 その一撃と共に貝の化物はまるで砂の像を打ち砕いたかのように吹き飛んだ。 そのころにはジタバタしていたヘラクレスオオカブトの化物も動きを止め 青白い炎をあげ崩れ去る途中だった。 山羊の化物はそのままガラス張りの部屋へと足を向けた。 その前に先ほどから静観していた岩倉が両手を広げ立ちはだかる。 「どこの誰かは知らんけど、図に乗ってもらっては困るなぁ。」 そう言うと岩倉の顔に黒いすじ模様が浮かび、豹を思わせる灰色の怪物へと変化した。 「なるほど…どうして彼らがサンプルとして易々と捕まったのかと思えば、君がいたからだったのか…」 山羊の化物が言う。 「そう…俺もお前らと同じグレーモンスターや。」 そう岩倉が答える。 「グレーモンスターとは…ずいぶんな呼び方だな。
私たちには“オルフェノク”というれっきとした名前があるのだがね。」 そう山羊の化物がおどけたように言う。 「それがお前の最後の言葉か…?」 少し怒ったように岩倉が聞く。 「いや…せめて君の最期に真実を教えてあげようかと思ってね。」 山羊の化物がそう答えた。 「この!ふざけんな!」 そう叫ぶと岩倉はその場でバク転をし、山羊の化物の顎を蹴り上げた。 受身を取る山羊の化物に対し、岩倉は両手にくの字型のナイフを出すと逆手で斬りつけた。 だがそれは山羊の化物の両腕に阻まれた。 「うむ。なかなかやるようだな。だが…」 山羊の化物が岩倉の両腕をねじ上げると、お返しとばかりにその顎に蹴りをくらわした。 両手のナイフを落とし、後方へのけ反る岩倉。 山羊の化物はその腹に、今度は素早い肘撃ちをくらわす。 その攻撃で岩倉は壁に打ち付けられ、地面へと転がる。 立ち上がろうと突いた両手から青白い炎が噴出し、憤怒の声と共に灰と化した。 その光景を見ていた川淵や黒木、高垣たちはわれ先にとガラス張りの部屋から飛び出し 地上への階段へと走った。 山羊の化物は一足のもとに階段と、逃げる彼らの間に入り込んだ。 「た、助けてくれ!」 さっきまでの勢いもなく高垣が情けない声をあげる。 山羊の化物は無言でその高垣の首を掴むと、壁へと放り投げた。 グシャッという鈍い音と共に高垣は絶命した。 それを見て腰を抜かした川淵と、その横でガタガタ震える梅津の首を、同じように山羊の化物が掴み上げる。 そして左右の壁へと放り投げた。 「ま、待て!このワシを誰だと思っているんだ!?
化物とはいえ、元厚生大臣のワシを知らないわけはないだろ?このワシを殺せばどうなるか…」 そう黒木が言い終わる前にまたその首を山羊の化物が掴みあげる。 「生憎だが、私たちオルフェノクには政治家であるとかそういう人間の地位や名誉には興味も関心もない。
特に君みたいな人間にはね…。」 黒木の醜く肥えきった体を軽く持ち上げる山羊の化物。 壁に放り投げることなく、ミシミシとその首に力を加える。 次の瞬間、室内中に響く鈍い音と共に黒木も絶命した。 やがてその他の高垣の手下も一掃した山羊の化物はガラス張りの部屋へと入っていく。 それまで半ば放心状態で見ていた村上だったが、直感的に“華菜絵が危ない”と思い部屋へと駆け込んだ。 そこには一人の男性が気絶した華菜絵を抱え上げ立っていた。 その男性−山羊の化物の正体に村上は驚いた。 世界的大企業スマートブレインの社長・花形がその正体だったからだ。
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