このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 



6.覚醒—3


「わーっ!」

残る山岸は腰をぬかしてその場にへたり込んだままだった。

冴子はその山岸に一歩一歩近づく。

「嘘だったんだ!」

山岸が叫んだ。

「嘘?」

影の中の冴子が聞き返す。

「そう、嘘だったんだ、俺。冴子と…お前と別れたいってのは嘘だったんだ。
 本当はお前のこと心から愛していたんだ!
 だけど、こいつらが…なぁ、信じてくれよ…もう一度やり直そう…いや、やり直させてください!
 も、もちろんこのことは絶対誰にも話さないし、会社の噂話も俺が何とかするから…だから、頼む!」

そう言うと山岸は額をアスファルトにこすりつけた。

「そう…わかったわ。やり直してあげる。」

影の冴子がそう言うと微笑む。

「本当か!?

そう言うと恐怖の涙を流しながらも、笑顔で山岸は顔をあげた。

額からはアスファルトにこすりつけたせいでできた傷から血が少し流れている。

「えぇ、本当よ。ただし…」

影の中の冴子の顔がニヤリと笑う。

「ただし…」

山岸の喜びの顔が少しくずれる。

「私との賭けに勝ったら…ね。」

「賭け?」

その言葉に山岸の顔が再び血の気を失った。

「そう…とても簡単な賭けよ。
 …オルフェノクに殺された人間は、運がよければオルフェノクとして覚醒する。
 もし、あなたがオルフェノクになったらやり直してあげるわ。」

その言葉に呼応するかのように阿部、牛島、西山の3人が立ち上がった。

だが何か冴子への恨み言を吐きながら、3人とも全身から灰を撒き散らし崩れ去った。

「彼らはハズレだったみたいね?さぁ、あなたはどうかしら山岸君?」

山岸は崩れ去る3人を見て、もはや生きた心地さえせず全身が金縛りにあったかのように動けなくなった。

ゆっくりと近づく冴子の姿がとてもゆっくりと、スローモーションのように見え

聞こえる冴子の声もまるでTVでよくあるスロー再生中の人間の声のように聞こえた。

そして、胸の一点をとてつもない激痛とともに何かが刺し込まれるのが感じ取れた。

それが何かはわかっていた。

山岸はただすがりつくようにそのサーベルに祈った。

“自分もオルフェノクになれますように…”

やがてサーベルが引き抜かれ、山岸はその場に倒れこんだ。

「ふーっ…」

そう息を吐くと冴子は人間の姿に戻った。

その一部始終を物陰から見ていた者がいた。

冴子はその存在にとっくに気付いていた。

「覗き見なんてずいぶん悪趣味ね…スマートレディさん?」

そう言いながら冴子は気配のする方に声をかけた。

「あっ、あれ、見つかっちゃいましたぁ!?

そう言いながらスマートレディは両手で口を押さえながらも、嬉しそうに冴子の前に立った。

「やーっぱりっ、私の思った通りでしたね?
 あなたならきっといいオルフェノクになれますよ♪
 どうでしたか、初めてオルフェノクの力を使った気分は?」

そう言うとスマートレディは冴子の顔を覗き込んだ。

「別に…」

そう言うと冴子は涼しげな表情で髪をかきあげた。

しかし−

“何だ、簡単じゃない…人間を殺すことなんて…”

心の中でそう呟き、冴子は微笑んだ。

「行きましょう、冴子さん。あなたに是非紹介したい人がいるんです♪」

そう言うとスマートレディは冴子の手を引く。

もはや冴子には何の迷いもなかった。

“オルフェノクの力”を望むままに行使する…そう決心したのだから。

やがて立ち去る二人の後で、山岸が立ち上がり灰と化して消え去った…。

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