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旅行記
旅行記 No.003 | 山陰地方 方面 |
題名 | 「惜別・さんべ旅行」 著・真野 修史(RPS) |
さようなら、急行「さんべ」と「大嶺支線」
7時11分、鳥取からの普通列車が到着する。なんだ、などと思って見過ごしてはいけない。これが、ここ米子から、急行「さんべ」に変身するのである。鳥取−米子間は、うしろに、キハ47という普通列車用のディーゼルカーを2両連結して通勤輸送に一役買っているが、その併結車は、米子で切り離され、前2両のキハ28とキハ58のコンビが小倉まで行くのである。急行なのにたった2両なんて!と驚かれるかも知れないが、急行列車大削減時代の今日では、いたしかたない。ちなみに、今年3月18日の下り「さんべ」の編成は、下関方より、キハ28−2145+キハ58−291。製造は、昭和38年、新潟鉄工所。納入先は「日本国有鉄道」。
下関方のキハ28(1号車)が禁煙車ということなので、1号車の車両のワンボックスに荷物を置いて領有を宣言してから、車内を観察する。便所のドアに、「停車中は使用しないで下さい」と書いたプレートが貼ってある。一目瞭然、「垂れ流し」である。おやおや、と思いながら、もう一つの便所を見ると、そこにも同じプレートが貼ってある。そのプレートにカメラを向けていると、丁度通りかかった車掌が、じろりと私を睨む。洗面所を覗くと、昔ながらのボタン水栓ではなく、新幹線100系の初期車などでも見かける、「押す」と書かれたレバーを押すと、しばらく水が出る、というものに改造してあったが、ろくに掃除もしていないのか、水アカがこびりつき、水温調節ダイヤルも、壊れているのか、回しても効かなかった。さらに、足元に目をやると、小さな金属製のカゴが置いてあり、「くずもの入れ 国鉄」と書いてあった。
7時40分ごろになると、「本日も、JR西日本をご利用頂き、ありがとうございます。この列車は、急行「さんべ」小倉行きです。下関から先は、普通列車となります・・・」と、車内放送が始まる。
7時45分、急行「さんべ」は、身震いしながら、米子をあとにする。そして、車内放送が始まるが、各停車駅と到着時刻、担当車掌の名前、この列車には車内販売も自動販売機も何も無い、1号車は禁煙車だから煙草は吸うな、と言ってしまえばそれだけで、再び沈黙となる。乗車率の方は、20〜30%といったところ。ワンボックスにひとり、というパターンが目立つ。列車は、こまめに停まりながら、客を拾っていく。生意気なことに、高校生の通学利用も目立つ。出雲市からは、それも消え失せ、停まるごとに、五、六人の客が入れ替わるだけで、車窓もこの辺りはつまらない。私は、一度、「垂れ流し便所」を使ってみよう、と便所に向かった。水を流そうとペダルを踏むと、やはりそうだ。きれいな、無色透明の水がペダルを踏んでいる間だけ流れる。「垂れ流し」ではない循環式便所の場合は、ペダルを踏むと、青い消毒液の混じった水が、30秒くらい、壊れたのではないか、と思える程長く流れ続ける。これは、水をろかして、何度も再利用しているため、水を節約する必要が無いからである。だから、この循環式の列車(殆どの特急・新幹線・新快速など)の終点間際にトイレに行くと、青い水が、心なしか茶色に濁っているのがわかる。ところが、「垂れ流し」方式では、流した水は、線路に、汚物もろともまき散らしているのだから、そんなに長く水を流すと、流す水が無くなってしまう。だから、ペダルを踏んでいる間だけ、きれいな、一度も使っていない水が流れるようになっているのである。便所にもあきて、再び、席へ戻る。
10時22分に浜田に着くと、前の席に2人のおばさんが乗り込んできた。うるさくなるぞ、と思っていると、そら来た。おしゃべり攻勢である。「どこから来たの?」本当は大阪であるが、そう答えると、この田舎者おばさんのことだ。仰天して引っ繰り返るかも知れない。そうなると少し厄介なので、私は、「米子」と答えた。すると、おばさんたちは、目を丸くして、「へえ、米子?!米子も、今朝は寒かったでしょう?」そんなこと知る由もないが、福知山駅の寒さを思い出して、多分寒かったのだろう、と頷いた。おばさんたちは、「やっぱりね。本当に今朝は冷えたからねえ」と、勝手に納得している。
三保三隅という、5文字中3文字が「み」という面白い名の駅に停まり、ひたすら走り続け、11時05分、益田着。私と、通路を挟んで向い側のボックスに座っていた2人の中年の男性の1人が、「昔は、ここで、山陰本線経由と、山口線経由に切り離してね。下関で、また、一緒になったりしてたんですよ」と言い、もう1人が、「ほう」などと言っているが、これは、実は間違いで、長門市で、山陰本線経由と、美祢線経由に分割して、下関で再び連結したのである。だが、そんなことを、「どうだ」などと言って威張るようなことでもないので、好きに言わせておく。
他に書くべきことはないので、早速、と言うのも何だが、14時11分、無事、下関に到着。米子から354.3キロ・6時間26分・表定時速55.07キロの旅が終わった。また、この時点で、山陰本線の仙崎支線を除く、京都−幡生間全線完乗を達成した。
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