⑦ 茂菅
歩いてチャリの所まで戻った私は茂菅の集落を目指す。ちなみに建設予定のトンネルは茂菅の集落をショートカットするものである。実際に集落に着いてみるとトンネル建設の理由が痛い程分かる。茂菅はこの辺りでは、そこそこの人口を抱え、保育園まである集落だが、道が狭い。それに加え歩道は無いに等しいうえ、見通しの悪いカーブが多い。その割に交通量は多く、大型車がかなりのスピードで走ってゆく。こんなに狭い道ならスピードは出さないと思うだろうが、こういった道に慣れている長野県のドライバーは結構とばす。実際に死亡事故も起こっているという。私も走行にはかなりの神経を使った。
ところで茂菅には善白鉄道の隧道が残されている。国道沿いに立っている茂菅保育園の看板がある道を入っていく。普通の集落道といった感じだが、急坂を下り、裾花川沿いに出た途端に舗装が途切れた。

未舗装道が集落の外れに向かって伸びている。この道の奥に何かがあると私は予想していた。茂菅の集落内に隧道がある。そのことを思い出すだけで気持ちが高ぶる。
進む前にこの辺りの風景を眺めてみる。流れは意外と穏やかな裾花川。それが作り上げた急峻な谷。見よ、あの高い崖を。その崖を横切るガードレールが見えるが、あれは県道76号線のもので、このまま戸隠高原まで続いている。
チャリを漕ぎ出す。路面は比較的固く、走りやすい。この辺りに善白鉄道の線路があったのだ。道の崖側を注意深く観察しながら進む。しかし、猫の額程の畑があるだけで、一向にそれらしき遺構は見えてこない。畑に潰されたか、そう思いながら走ってゆくと何やら工事関係者らしき人々。何だろう。トンネル建設にあたっての調査だろうか。何となく気まずいが、黙って通り過ぎる。
しばらくすると道は林の中へ。一体どこに連れていかれるのだろう。遺構も見つからず不安になりかけたその時だった。
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