⑤ 狂うペース
登坂が始まったが、序盤はまだまだ緩い。このまま行けるんじゃないだろうか、とさえ思った。前方にママチャリでこの坂に挑んでいる女性がいた。我々は当然のように彼女を追い抜いた。
しかし厳しい登坂が始まったのはその直後だった。一気にペダルが重くなり、頻繁なギアチェンジが余儀なくされた。全身から汗が噴出し、頭部が熱くなるのを感じた。我々は平らな所を選び、一旦休憩し、気持ちを切り替えることにした。先程抜かした女性が、再び我々を追い抜いていった。
5分後、我々は走り出した。しばらく登ると、私の眼は再びあの女性の姿を捉えた。先を行くちるどれんが彼女を抜かしていった。私はと言うと、いくら漕いでも彼女はおろか、ちるどれんに近づける気がしなかった。荒い息が漏れ始め、顔は足元のアスファルトしか見ていなかった。脇腹が痛み、気分は最悪だった。昨夜の寝不足のせいだろう。もはや小さくなったちるどれんの背中を見、私は歯を食いしばった。彼に追いつかねばならない。何とか踏ん張り、女性を抜かした。ちるどれんは後方を確認し、私が疲労しているのを見ると、待っていてくれた。再び休憩。先程のポイントから1キロ程しか進んでいなかった。
 
私はバッタリとその場に寝転がった。そのまま寝てしまいたかった。「無理そうなら、今日は峠まで行って帰るか?」ちるどれんの言葉が胸に突き刺さった。なんだか情けない気持ちを通り越して、申し訳なくなった。「いや、支笏湖まで行くよ。」こんな所でくたばっていては、何処へも行けない。ちるどれんにもこの自転車にも向ける顔がないというものだ。私は立ち上がり、ちるどれんのアドバイスどおり、ストレッチをした。
|