⑥ 初めての藪漕ぎ

私は目の前に広がる光景を見、息を呑んだ。普段様々なサイトで、モニターにかじりついて見てきた藪漕ぎ。そして今、その藪漕ぎ用プールが私を挑発するようにワサワサ音を立てている。進むしかないのだ!!
愛車同伴で未知なる領域へ今漕ぎ出す。チャリの車輪で草をなぎ倒しながらの強行軍だ。幸い植物は背丈も低く、案外容易に進める。先にはヘアピンが見えており、私はチャリを引きずるようにしてそれを曲がった。

うわっ、暑苦し———!!!!今こうしてモニター越しに見ても、暑い。それど進まねばならない。
藪と格闘しながら私は頭の中である考えを巡らせていた。何故この峠はこんな平凡な名前なのだろう。牛首峠(石川県)とか四十八曲峠(長野県)とかいう大層な名前が付いていたらもっと格闘のし甲斐があったろうに。「畜生!!小池め!!必ず越えてやる!!」では格好が付かないであろう。

次のヘアピンを曲がっても藪は続く。この辺りでは何度も立ち止まり、撮影しようと思ったのだが、藪写真集になってしまっては困るのでなるべく進むことに集中した。そうでなくてもチェーンなどに植物が絡まって、いちいち取り除くのが大変であったから。しかも徐々に植物の密度が濃くなってきたのを、露出した四肢で感じ取っていた。峠を越えたら北向き斜面だからなんとかなりそうだが・・・・・・。

ん?なんか嫌な奴がお出ましになったぞ。私の身長をゆうに越す、ススキである。一回立ち止まって様子を見る。ススキは現れたものの、数が少ないのでそれ程問題視する必要はない。それより懸念すべきは、拍車がかかる植物の密度だ。更には、いつの間にか棘のある植物も道の脇に生えているという有様である。藪は留まるどころか、凄みを増している。

あばばばばば・・・・。
あってはならないことが起こってしまった。もはや前など見えない。やめてくれよ、東南アジアの湿地帯の葦じゃないんだから・・・・。一気に弱気になる。しかしこれだけ登ってきたのだから峠はもう少しだと、自分に言い聞かす。
突破にあたり、私はイノシシスタイルを採用することにした。すなわち顔面ススキ祭を避けるため、下を向き、頭を前にして突破である。無論チャリでススキをなぎ倒すことも忘れてはいけない。それと注意しなくてはならないのは足元だ。ススキにばかり気を取られていると、知らぬ間に斜面に踏み込み滑落という恐れもある。ここは強引にかつ慎重に突破した。それでもススキが顔を撫でて不快だったし、チャリがススキの束の上を滑ってバランスも崩しかけた。なかなかの難敵であった、ススキ。

ススキ林を抜け、久々に視界が開けた。ススキは猛烈に生えているが、道の真ん中だけ何故か空いており、非常に助かった。もう一つ救われる光景が、この写真には写っている。写真中央やや上の鞍部。そこをこの道は越えているのであろう。最終ボス、小池が遂にその姿を現した!!!!
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