このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

国道229号線
白糸トンネル旧道


 
② 惨劇の後の静かな闇





口が塞がれていない第1白糸トンネル
国道229号線の旧道トンネルは、そのほとんどがコンクリートによって完膚なきまでに塞がれてしまっている。
それにも関らず、侵入防止策がゲートだけということは、現在でも何らかの利用があるものだと考えられる。

緩やかなカーブを描いており、向こう側の光は望めないが、通り抜けは出来そうである。
第2白糸トンネルも拝めるかもしれない。





トンネル内に足を踏み入ると、完全な闇に包まれる。
写真はシャッターを焚いて撮影したものであるが、実際は何も見えない。
路面にはうっすら砂が堆積しており、トンネル内の空気は若干埃っぽい。
所々小さなコンクリート片も転がっている。
まさに一寸先は闇で、断面が広さが逆に不安を掻き立てる。








気配を感じて、壁面の方向へシャッターを光らせてみる。
一瞬の閃光の中、浮かび上がったのは火災報知機だった。
錆びて真っ白になったそれは、この世の終わりのような、そんな印象を抱かせる。
不気味だ。





第1白糸トンネルの延長は300m。
白糸岬という小さな岬をカーブを描きながらショートカットする。
程無くして光が見えてくる。

…光の見え方に少し違和感を感じるが…!?
なんか…四角い…。





そう、せたな町側の坑口は四角かった。
いや…正確に言えば、坑口は四角ではなく、通常のカマボコ型だ。
それを塞いでいるコンクリートに四角い門が開けられている。
何故このような施しをしたのかは分らないが…。

とにかく、その重厚な門戸は開け放たれているので、まだ先へと進めそうだ。




③ 夕暮れの渚







留置所のような鉄格子の門の外は覆道。
地図によると、第1白糸トンネルを抜けた旧道は覆道をもって、ほとんど光を浴びないまま、第2白糸トンネルへと吸い込まれていく。

覆道の小さな窓から差し込む陽光が、暗闇から這い出た目に優しい。





振り返ると第1白糸トンネルのせたな側坑口。
コンクリートで塞がれながら、四角い門が用意されている特異な構造。
門は、小型車ならばギリギリ通ることができるくらいの広さであろうか。

それにしても、あの鉄格子の扉が閉じていたら絶対にこちら側には来れなかったなぁ。





うららかな光に向かって歩く、我々の反響する足音とは別に大きな音が聞こえる。
その音は頭上から聞こえるのだが、どうやら水の音のようだ。
覆道の上を沢が流れており、それが滝となって海に落ちているらしい。

すぐ先で覆道の外に出られる場所がある。





そこは小さな岬に挟まれた渚であった。
覆道から出た所は埋め立てたのか、綺麗な平地である。
その平地には何らかの観測所らしきものがある。
第1白糸トンネルの通行を維持しているのは、そのためであろう。

写真は、そのまま険しい崖に突き刺さっていく覆道。
そこに第2白糸トンネルがあるのだ。。





振り返ると第1白糸トンネルから抜け出した覆道の姿。
写真の中央には、先ほど聞こえた水音の正体、覆道の上から落ちる滝が写っている。

内部を通っているときは、ただの無機質なコンクリートにしか見えなかった覆道の壁が、夕陽を浴びて穏やかな黄金色に染まっている。
旧道に立ちはだかる険しい断崖も、心なしか優しく見える。





柔らかな光と影。
夕陽というスポットライトを当てられて、覆道がまるで中世ヨーロッパの回廊のように見える。
そんな芸術的な建築との大きな違いは屋根の上の膨大な量の落石。
背中で岩石を受け止め、手足で踏ん張って道を守ろうとする侍の姿である。

中を歩いているのはzwiebel。





覆道の中にあった残雪。
夕陽によってジワリジワリと溶かされ、あと僅かの命である。
静かすぎるこの覆道で最期の時を刻んでいる。

波の音しか聞こえない。
本当に静かだ。
山側の地中には多くの車が行き交う現道があるというのに。








日本海に沈もうとしている夕日。
ずっと見ていたいと思うくらい、極上の夕日であった。



振り返ってみる。
なかなか立派な岩だ。
あの巨岩と覆道の間が、先ほどの埋立地である。

かつての国道229号線は磯沿いに僅かに付けられ、岬を小さな素掘り隧道で穿つという危うい道であった。
往来は困難を極めたが、奇岩や美しい渚など、目を見張るような絶景の連続の道であったらしい。
現在の国道229号線は長大トンネル連続のモグラのような道。
往来の安全を考えれば致し方ないのだが、このような美しい光景が、永久に人の目に晒されなくなることは淋しい限りである。







やがて探索の最終地点がやってきた。
コンクリートは力強く岩塊に潜り込んでいるが、残念ながら我々はそれを外から眺めることしかできない。




完全に塞がれた第2白糸トンネル。
予想はしていたが、やはり崩壊箇所は望めないようだ。
実際にこのコンクリートの壁と化した坑口に立ってみて、このトンネルは決して踏み入れてはならない場所のような気がした。
パンドラの箱なのだ。

写真がなくて申し訳ないが、第2白糸トンネルのせたな町側の坑口もガチガチに塞がれているのを車内から確認している。
現在、第2白糸トンネルの崩壊箇所に近づくことは不可能である。







しばし坑口前で立ち尽くした後、我々は踵を返し、第1白糸トンネルの方へ向けて歩き始めた。
夕日色に包まれた静かな回廊に、足音を響かせながら。



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