このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

正調粕取焼酎 ヤマフル《無濾過原酒》
○製造元:鳴滝酒造(株)
       佐賀県唐津市神田3272-1

○平成15年蒸留分、度数:41度

○原材料:酒粕

○製品の特徴:極個性的な甘さと香り
レッドブック度:現存
■当該銘柄について
 唐津市は『佐賀県を探そう。』などという半ば自虐的な観光PRを掲げる佐賀県にとって、いわば中心的役割を果たす都市である。

 唐津藩初代藩主“寺沢志摩守広高”公が植林し、全長5km、幅1kmにわたって続く虹ノ松原を渡る松風(しょうふう)。実際、虹の松原を望む鏡山から見た景色は美しくも雄大であるし、“舞鶴”唐津城を望む松浦川の景色と併せて唐津のBest Viewといっても過言ではない。

 旧唐津藩時代の名残を感じさせる行事の一つに11月初旬に開催される“唐津くんち”がある。艶やかで勇壮な曳山(ひきやま)で全国的な知名度を誇る唐津神社の秋季例大祭だ。祭りで曳かれる曳山はおくんちの日以外は
市内の屋内展示場で見ることが出来る。

 唐津の人々にとっては、心のよりどころでもあり誇りでもある。そんな“唐津くんち”ときっちりリンクしているのが、清酒『聚楽太閤』の 鳴滝酒造株式会社 である。創業は近隣市町村の3つの造り酒屋の協業化による昭和49年。平成10年の全国新酒鑑評会をはじめ7度金賞を受賞するなど味にも定評があり、地元唐津市民の熱烈な支持を受ける。実はレギュラー酒『聚楽太閤』のカップには曳山が一つ一つ印刷されている。全14番。集めてみたいもんですなぁ・・・。

 兼業蔵“鳴滝酒造”が醸す焼酎には米『からつくんち』、麦『一望千里』。共に地元で愛飲される銘柄であるが、飲み手の減少や原料確保の問題から風化寸前となっていた焼酎もあった。同社の古い銘柄、粕取り焼酎『ヤマフル』である。

 実際、“ 九州焼酎探検隊 ”のサイト上で、猛牛さんやけんじ大佐と粕取り焼酎に取り組み始めた頃は、17年前に蒸留した物を調整して瓶詰めしていたそうだ。

 しかし、“からつくんち”にも自ら参加されるという同社の古舘正典氏の「郷土の伝統文化を後世に伝えたい。近所のじいちゃん達にさみしい想いをさせたくない。」という一大決心。それによって昨年3月、17年ぶりに仕込みが再開されたのだった。その様子は“九州焼酎探検隊 ”の“ ドキュメント『ヤマフル』 試験的醸造再開 その全仕事 ”に詳しいが、古館氏の協力のもと、製造過程を追っていくことが出来るので是非参照願いたい。


■ボトルデザイン
 粕取り焼酎とは思えない濃青のすらりとしたボトルである。ラベルも青基調でまとめられ、洗練された感じを持った。黄柑色の“正調粕取之証”に目がいく。“正調”とは、古来から行われてきた“蒸留の際に酒粕に籾殻を混ぜて、蒸籠式蒸留器を用いる”という方法を踏襲するという意味である。粕取り焼酎のディープな世界観からは完全に離れてしまったこの外観だが、「原材料名:酒粕」という表記も含めて粕取り焼酎としての主義主張がびんびんと伝わってくる。

裏ラベルには、『後世への伝承』というたった一つの単語が心にズシンと響く紹介文と共に、九州焼酎探検隊 への感謝を込めた一行がしたためられている。これには、粕取り焼酎を応援してきた私にとっても非常に誇らしく思えるのだった。

■香り
 籾殻のこげ臭とその奥にある極めて甘い香り。粕取り焼酎偏愛者にとっては至福。粕取り焼酎未体験の人間にかがせてみたいものだ。どんな反応をするだろうか。開封後、ふたを閉めていてもかすかににおいが漂ってくるのはスゴイ!!

■味わい
 粕取り焼酎であるから個性的であるのは当然。それにしても甘い。無濾過原酒ということでもっと荒々しい味わいと思ったのだが、全体的にはゆっくりと味わえる感じである。裏書きにもある通り、丁寧に浮遊物をすくい取った成果なのだろう。ほんに美味いです。

 小さなグラスを引っ張り出して「生」で凝縮した甘さを楽しむのも良いが、「ロック」も捨てがたい。


■レッドブック度
 蔵のある佐賀県に限らず、北部九州の粕取り焼酎の火は消えかかっている。かつては清酒蔵の酒粕を引き取って蒸留していた焼酎専業蔵も数多くあったが、今ではある程度地元での販売力を持った蔵でしか製造が継続されていない。かがり火どころかマッチ棒くらいの状況だ。

 そのような状況の中、蒸留を復活させ、新しい銘柄を世に送り出す。素人ながら冒険と思った。古館氏と鳴滝酒造株式会社にとっても非常にストレスのかかった決断だったに違いない。しかし、この焼酎を飲むで、こう思ってしまった。
粕取り焼酎という伝統文化は確かに後世へと紡がれたのである。是非とも拍手を送らせて下さい。

 文句なしの『現存』銘柄だ。今後も蒸留を継続していただきたいし、応援したくなる。
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(04.05.15)

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