このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


  この話はよく両親から聞かされていましたが、どういうわけか私は全く記憶にありません。

「走れ、ヒデ坊!」

 
 私が小学校へ入学する前の年、つまり6歳の時の事です。
その日、阿賀小学校では恒例の秋の運動会が開かれていました。(その年は現在の阿賀中央3丁目にあった広島医科大学のグランドで開催されたそうです)私の兄2人と姉が小学生だったので、私も両親に連れられて観客席で座って見ていたそうです。

 大会が進行して行く中、未就学児による“かけっこ”というプログラムがあり、来年、小学校へ入学する予定の私は、その競争に出走させられる事になったようです。ゴールで親が待ち受け、子供たちはスタートの合図とともに親の待つゴールまでひた走るわけです。私はこれまですこやかに育っており、むしろ手塩にかけられていたのか…?両親からは大きな期待を込めて送り出されたようです。ゴールで待つ父親はとりわけ、その思いを強く抱いていたようです。“きっと先頭を走り、まっさきにこの腕の中に飛び込んでくるにちがいない”と。

 しかし、父の期待はあっさりと裏切られ、それも呆れ返る程の期待はずれの結果となりました。いっせいに駆けてくる子供たちの中に私の姿はなく、私はスタートラインにつっ立ったままでした。係りの人に促され、やっと走り始めたものの、さかんに物見(周囲を見渡す)をして一向に走る気配はありません。思いもしなかった事態にあわてふためいた父はとてもゴールまで待ちきれず、途中でコースから私を抱き上げ、会場の笑いと同情を背中いっぱいに浴びながら観客席へと引き上げてしまったそうです。

 両親もすでにこの世を去った今、よくこの話題で楽しそうに話していたふたりの笑顔が懐かしく思い出されます。ところで、私は何故走らなかったのかを振り返ってみました。まず考えられるのは、①寝ているところをいきなり起こされ傾眠状態にあった…、あるいは②イヤがるのを無理やり出されてスネていた…など。もうひとつ③幼稚園を中退したため、運動会の経験がなく面食らった…など等。思いあぐねた結果、やはり寝呆けていたのだろう…と思いつつも、やはり③番のケースだったのかな?と思ったりもしています。

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