このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
リニアの将来
実際に、日本のリニア中央エクスプレスが営業を始めるのはいつのことだろうか。
残念ながら、現在の時点ではその見込みは立っていない。
その大きな要因が、建設コストの問題である。
山梨実験線の建設費は、1kmあたり 110億円にも上った。
東京−大阪間約500kmを結ぶには、山岳地域を貫く数多くのトンネルを建設しなければならない。
大都市圏では土地を買収する費用もかかるし、駅や車両基地なども建設しなければならない。
総費用は数兆円と言われている。その費用を誰が負担するのか。
国が出す(つまり、税金でまかなう)のか、それとも運営主体のJR東海が出すのか、あるいは両者が出資するのか。はっきりしていない。
JR東海は、研究設備費・技術者の人件費など、リニアの研究開発に膨大な資金をつぎ込んでいる。
山梨実験線の建設に際しても、2000億円以上を負担している。
いくら安定した黒字収入があると言えども、数兆円の負債を抱えている現状では、建設費の全額負担はとうてい不可能であろう。
技術的な課題の多くはクリアされたが(耐久性など、いくつかの問題は除く)、
建設費の問題は解決しない限り、実用化される日はやってこないだろう。
では、もし日本の景気が回復し、リニア中央エクスプレスが建設されたと仮定してみよう。
1、所要時間
現在、「のぞみ」で東京−新大阪は約2時間30分、東京−名古屋は約1時間40分、名古屋−新大阪は約50分で結ばれている。
羽田−伊丹・関空を結ぶ航空便は、滞空時間は約1時間であるが、
搭乗手続きや空港アクセスなどの時間を考えると、東京都心−大阪都心で2時間30分ほどかかる。
リニア中央エクスプレスだと、東京−新大阪は約1時間15分、東京−名古屋は約50 分、名古屋−新大阪は約25分と予想されている。
2、運賃
現在、新幹線は東京−新大阪「ひかり」で13750円、「のぞみ」で14720円である。
飛行機だと羽田−伊丹・関空で18500円となっている(ただし、各種割り引き運賃が設定されている)。
現在の通貨水準において考えれば(つまり、インフレもデフレも起こ らなければ)、
リニア中央エクスプレスは東京−新大阪18000〜20000円程度になると 予想されている。
3、乗客の流れと収支
新幹線が開業した時に、東京−名古屋、東京−仙台、東京−新潟などの航空路線が廃止されたように、
中央リニアエクスプレスが開業すれば、東京−大阪を結ぶ航空路線はおそらく廃止されるだろう。
現在、東京−大阪の旅客輸送シェアは新幹線76%、飛行機 22%、夜行バス2%程度であるが、
飛行機の乗客はほぼ全員がリニア中央エクスプレスにシフトする見込みである。
しかし、東海道新幹線との価格差がある限り、リニア開業後も東海道新幹線を利用する乗客は一部残るであろう。
夜行バスにしても同様である(夜行バスは、リニア開業時期までには大きくシェアを拡大すると筆者は予想している)。
東海道新幹線からは「のぞみ」は消え、主要駅停車の「ひかり」と各駅停車の「こだま」のみが残ると思われるが、
東京−大阪3時間程度ならば、まだまだ利用客は残るであろう。
山陽方面へは、新大阪で山陽新幹線に乗り換えとなる。
東京−福岡を結ぶ航空路線の乗客のうち、約半数は「リニア→山陽新幹線」ルートに乗り換えると予想されている。
これらを総合して、リニア開業後、リニア中央エクスプレスは年間1兆5000億円の黒字路線になり、
東海道新幹線は年間1兆2000億円の赤字路線になると予想されている。
ゆえに、リニア中央エクスプレスは、
JR東海によって東海道新幹線と一体化して運営されることになっている(もし別会社にすると、JR東海の経営が成り立たなくなって しまう)。
さらにリニア中央エクスプレスは、
現在の中央本線・関西本線沿い(東京−甲府−塩 尻−中津川−名古屋−伊賀上野−奈良−大阪)に敷設される見通しである。
これにより、 3大都市圏から長野・山梨方面への観光客が増加すると予想されるが、
収支予想はこれを 考慮していない(つまり、実際にはリニア中央エクスプレスの黒字幅は予想よりも大きいであろう)。
[まとめ]
1964年10月、東海道新幹線が開業した。
最高時速210km/h、東京と大阪を4時間 で結んだ(1年後からは3時間10分に短縮)。
国鉄の経営悪化と不毛の労使闘争によって、技術革新は進まなかったが、
1985年に100系新幹線が登場、最高時速は240km/h まで引き上げられた。
分割民営化後、JR各社間(特に本州3社)でのスピード競争が始まり、
1992年に300系新幹線、1997年に500系新幹線、1999年に700系新幹線が登場。
最高時速は300km/h(500系)にまでなった。
しかし、東海道新幹線区間においては、最高時速は270km/hのままになっている。
カーブなどが多く、これ以上スピードは上げられないのである。
さらなる時間短縮のためには、リニア中央エクスプレス建設以外に手段はない。
また、東海道新幹線の輸送量はすでに限界にさしかかっており、バイパス路線の必要性が増している。
いくら通信技術が発達しようとも、人間はやはり移動しなければならない。
すべてを インターネットとテレビ電話で済ませることはできない。
いつの日かリニア中央エクスプレスは必要となるであろう。いや、必要となるはずである。
余談ですが、本校OBの保坂史郎氏は、1989年にJR東海に総合職技術系として入社、
その後1992年に(財)鉄道技術研究所(JR総研)へ出向し、現在、リニア開発本部の副主幹として勤務しておられます。
氏の今後の活躍に、会員一同期待しております。
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