このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
高速鉄道の問題点
鉄道を高速で走らせようとする場合、最も問題となるのが空気抵抗をはじめとする走行抵抗です。
この走行抵抗には、空気抵抗や車輪とレールとの抵抗などが含まれますが、
これは車速が上がれば上がるほど与える影響も大きくなり、非常に厄介です。
空気抵抗を下げる方法には表面をなめらかにすることや、車体断面の面積を小さくすること、
車輪とレールの摩擦による抵抗を減らすには車体を軽くする等の対策が考えられます。
ところで列車の場合、空気抵抗を小さくしようとするときに重要となってく箇所には、
全面・後端部はもちろんとして車体表面が挙げられます。
全長の長くなる列車においては、先頭・後端部の走行抵抗が全ての空気抵抗に占める割合はたったの一割で、
残りの9割はそれ以外の、例えば車体側面などで発生する空気抵抗に占められているためです。
次に問題となってくるのは、自励現象と呼ばれる、車体が特定の振動数で振動する現象です。
これは車速があがってくると、振動させようとする外力がなくても発生します。
鉄道が影響を受ける自励現象には2種類あり、
パンタグラフが持ち上げられて上下に運動し、離線・着線を繰り返すものと、
高速走行時に車体や台車が突然激しく左右に揺れ出すものがあります。
前者は空気力によって発生し、列車の集電能力を著しく低下させます。
後者は走行中、輪軸が左右に動いたときに車輪接地面のレールに対する傾斜により左右の車輪に半径差ができ、
一定の振幅で車輪が蛇行するために起こるもので、最高4Gの振動加速度が発生します。
これを解決するためには、材質・形状の見直しや、台車・車両の接合部の剛性の向上といった手段が採られます。
また浮上式でない従来の鉄道の速度を上げようとする場合、
列車の走行はすべて車輪とレールの摩擦力に頼ることになり、
この限界を超えてしまうと、列車はそれ以上加速することができなくなってしまいます。
これを解決するために採られたのが『砂撒き』という、かつて蒸気機関車が行っていた手法です。
現在では砂ではなく、セラミックを先頭の車輪がレールに接触するまえに噴射することにより、
車輪とレールの間にはたらく摩擦力を大きくしています。
しかしこれらの問題が克服できたとしても、鉄道を高速で営業運転させるにはまだ騒音問題という大きな問題が残っています。
国土面積が狭く、路線と家屋の距離が短くなる日本では特にこの問題は深刻です。
騒音を発生する原因は3種類あり、そのひとつは空力音です。
これは空気抵抗に大きく関係するため、騒音問題からも空気抵抗を小さくすることが求められます。
また微気圧波と呼ばれる、列車がトンネルに突入するときに発生する破裂音も大きな問題となります。
最近の新幹線の先頭車のカモノハシ型の形状はこの問題を解決するためのものでもあります。
緩衝工と呼ばれるフードを入り口に設置して車両突入時の圧力波を減少させるなど、トンネル側の改良も進んでいます。
騒音問題の2つ目は集電系統から発生する騒音です。
これにはパンタグラフと架線の間で発生するしゅう動音や、パンタグラフカバーによって乱された空気流が原因として挙げられます。
しゅう動音は速度とは関係なく発生するため、ここでも問題となるのは空力となってきます。
新幹線では、時速300kmを超えるとカバーが発生する音とカバーにより抑えた音が同程度となるうえに、
カバーによってパンタグラフが離線しやすくなったり、
カバーで乱された空気流により車体が揺らされて乗り心地を損ねたりといった矛盾が起こり、
そのため500系新幹線ではカバーに整流を頼る従来型ではなく、
パンタグラフそのものの空気抵抗を減らした『翼型パンタ』と呼ばれる新設計の低騒音パンタグラフが採用されています。
騒音問題の最後は、列車が走行するときに周辺の建物がたてる構造物音と呼ばれるものです。
ここで問題となるのは主に高架橋がたてる音で、軌道の強化、防音壁の設置、車輪・レールの軽量化などといった解決策が採られています。
日本のように駅が多く、加速・減速を繰り返すような場面では、最高速性能だけでなく加速・減速時の性能も求められます。
そのため新幹線の開業にあたり、
0系新幹線は全ての車両にモーターを搭載するという手法を採り、1編成あたり駆動輪が128輪となっています。
機関車が客車を牽引する方式だと、加速時には機関車が客車に引っ張られ、
減速時には押されてというように、加速・減速を繰り返すと効率が悪くなってしまい、
それと比較して効率のいい、全ての車両を電動車にするというこの方法は結果的に車体を軽量化が可能になることもあって、
日本にとっては好都合だったようです。
…このようなさまざまな問題を解決しても、車輪とレールの摩擦力に頼って走行する鉄道には限界があります。
この限界を越え、さらなるスピードを得ようと計画されているのが、開発中のリニアモーターカーなのです。
しかし、これが実現するのは当分先のことで、それまでは従来の鉄道による競争が続いてゆくのでしょう。
ちなみに、世界最高速を誇るフランスのTGVのプロトタイプには、
恐ろしいことにモーターではなくガスタービンエンジンが搭載されていたそうです。
オイルショックによってやむなく電気機関車に変更となったようですが、
もしオイルショックが起きていなければ甲高いタービン音を響かせながら疾走する恐ろしい列車が誕生していたのかも…………。
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