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近年の鉄道事故と事故調査


(1) はじめに

昨年に続き、今年も大企業の不祥事や事故の数々。
そこでこの世の中に乗って、鉄道事故を今年度のテーマとしました。
おととし3月に起きた地下鉄日比谷線の人身事故や、アムトラックの脱線事故等から、“鉄道事故”について検証してみました。

 

(2)地下鉄日比谷線の事故について

2000年3月8日午前9時ごろ、
東京都目黒区上目黒3の営団地下鉄日比谷線中目黒駅近くで、同駅に到着寸前の下り電車の最後尾の車両が脱線し、
同駅を出発してこの電車とすれ違っていた上り電車の側面に衝突。双方の電車の車両が大破した。
東京消防庁によると、この事故で上り電車の6両目などに乗っていた客の男女計3人が死亡したほか、重体3人、重軽傷28人が発生した。
警視庁や東京消防庁などによると、脱線したのは日比谷線北千住発菊名行きの下り電車(8両編成)で、
地下から地上に出た同駅の約100メートル手前で8両目が進行方向右側に脱線し、
中目黒発竹ノ塚行きの上り電車(8両編成)の5両目に接触したうえ、6両目に衝突した。
下り電車は8両目の側壁が破れて内部が露出。上り電車は6両目の側壁が大きくえぐれ、車両内の座席などが吹き飛ぶなど大破した。
下り電車は乗客約240人で、乗車率で20%、朝のラッシュだった上り電車は同約1300人、120%だった。
当時の運輸省によると、脱線車両は車輪4軸のうち前の2軸が45センチ脱輪していた。
下りの線路の衝突現場から60メートル手前から枕木(まくらぎ)に傷があるといい、脱線後にそのまま走行したとみられる。
脱線したとみられる地点は左カーブで緩い上り勾配になっていた。
この事故で日比谷線と同線が乗り入れている東急東横線は一部を除いて不通となった。
営団は本社に対策本部を設置、情報収集をしている。
衝突電車の側面が完全にめくれ上がっていることから、一報段階では爆発説も流れたが、事故と分かった。

↑脱線車両の左車輪によって傷がついた工事用レールとえぐられたジョイント

 

(3)アムトラックの事故について

日本時間7月30日午前2時45分ごろ、ワシントンに隣接する米メリーランド州ケンジントンで、
全米鉄道旅客公社(アムトラック)のシカゴ発ワシントン行き旅客列車(十四両編成)が脱線、11両が転覆したり、大きく傾いたりした。
AP通信によると、乗客173人のうち96人が負傷、うち6人が重傷を負った。
同州モンゴメリー郡警察は六人が重傷、約60人が軽傷としており、乗客数や負傷者数については情報が錯綜している。
同通信によると、6人が列車内に閉じ込められたが、全員一時間以内に救出された。
ワシントンの日本大使館は「今のところ、日本人の負傷者はいない」としているが、乗客の中に日本人がいたかどうかは不明。
列車は機関車2両、客車12両の編成。シカゴを前夜に出発、ワシントンに到着する直前だった。
米運輸安全委員会(NTSB)や地元警察が事故原因を調べている。
29日は気温が30度を超える猛暑で、熱でレールが曲がった可能性も指摘されている。
現場はワシントン中心部から車で約30分の住宅地。
住民の一人は地元テレビに「おもちゃの列車セットを子供がけ散らしたような光景だ」と現場の様子を語った。
アムトラックはことし4月、フロリダ州北東部のクレセントシティー郊外で6人が死亡、約170人が重軽傷を負う転覆事故を起こしたほか、
1999年、2001年にもそれぞれイリノイ州、アイオワ州で100人以上の死傷者が出た脱線、転覆事故を起こしている。

↑米メリーランド州ケンジントンで脱線した旅客列車と負傷者の救助活動に当たる救急隊員ら

 

(4)JR西日本の大幅なダイヤの乱れについて

JR神戸線の尼崎市の踏切で6月14日朝に発生した人身事故。
その事故処理をきっかけに、ダイヤは終日乱れ、約460本の列車に運休や遅れが出、影響人員は22万7000人に及んだ。
結局、ダイヤは翌朝まで正常に戻らなかった。
わずか40分間の事故処理が、「震災などを除けば最大規模」(JR西日本)という大混乱を招いた。
事故は同日午前6時ごろ、尼崎—立花駅間の七ツ松踏切で発生。踏み切り内で女性が電車にはねられ死亡した。
警察の現場検証のため、JRは同6時半から約40分間、上下線で列車の運転を見合わせた。
しかし、通勤ラッシュ時の尼崎駅で電車の発着がストップしたことが、予想外の混乱を引き起こした。
同駅は神戸線、東西線、宝塚線が合流する交通結節点。
同駅は一時間に計約70本の電車が発着する。それがすべて一気に止まった。「急所を突かれた」(JR西日本)格好だった。
運転再開後、JRは輸送力を確保しようと、できるだけ数多く列車を走らせる復旧方法を選択。
しかし、正常ダイヤに戻すには膨大な輸送計画の作り直しと、車両や乗務員の手配が必要だった。
例えば京都発西明石駅行き普通電車の場合、西明石からそのまま京都へ戻るわけではない。
西明石から高槻行きの普通電車として折り返し、今度は尼崎を経由し宝塚線の新三田行きとなる。
その後、再び京都へ向かうといった格好。
ひとつの路線で一本遅れが生じれば、伝染するように他路線の電車にも影響が出る。
もつれた糸を解きほぐすような作業が続いた。
影響は尼崎—新大阪駅間でとりわけ大きく、通常は十分程度で着く尼崎—大阪駅間で1時間以上かかったケースもあった。
遅れは最高で2時間以上に達した。

 

(5)航空・鉄道調査委員会の調査の流れについて

事故等の調査は、事実調査を行い、事実を適確に認定し、
必要な試験研究を行い、これらの結果を総合的に解析して、原因の究明を行います。
調査の結果は、報告書としてとりまとめ、国土交通大臣に提出するとともに公表します。
また、必要と認めたときは、国土交通大臣等に対し事故の防止に必要な勧告あるいは建議を行います。

1. 鉄道事故の原因を究明するための調査
2. 鉄道事故の兆候について事故を防止する観点から調査
3. 調査の結果に基づき事故の防止のために講ずべき施策についての勧告
4. 事故の防止のため講ずべき施策についての建議
5. 上記のための調査・研究

<鉄道事故で調査対象となる事故の種別について>
・列車衝突事故(全件)
・列車脱線事故(全件)
・列車火災事故(全件)
・踏切傷害事故(乗員・乗客に死者5人以上の死傷者、特に異例)
・道路障害事故(同上)
・鉄道人身障害事故(同上)
・鉄道物損事故(同上)
・事故の兆候(重大インシデント)

 

(6)参考 『平成13年度鉄道事故統計』より

運転事故の状況について

(1)概況

1.運転事故の推移
運転事故は、長期的には減少傾向にある。
昭和50年度は3794件、10年前の平成4年度は1154件の運転事故が発生していたが、平成13年度は878件となっている。
また、列車100万キロ当たりの運転事故の発生件数は、0.7件となっている。
運転事故による死傷者数は821人(うち死亡者313人)で前年度比138人(20.2%)増となっている。
なお、平成14年2月22日に発生したJR九州の列車衝突事故による負傷者は134人(死亡者0人)となっている。

2.運転事故の状況
平成13年度に発生した運転事故の事故種類別の発生件数についてみると、
踏切障害事故が442件(50.3%)、人身障害事故315件(35.9%)、道路障害事故95件(10.8%)となっており、
踏切障害事故が約半数を占めている。

(2)各種事故の状況

1.列車事故の状況

平成13年度に発生した運転事故のうち列車事故(列車衝突事故、列車脱線事故及び列車火災事故をいう。)の件数は23件で、
前年度と比較すると12件減少している。

2.踏切事故(踏切に起因する列車事故及び踏切障害事故)の状況

踏切事故は、運転事故と同様、長期的には減少傾向にある。
平成13年度に発生した踏切事故の件数は445件で、前年度と比較すると23件減少している。

3.人身障害事故の状況

人身障害事故は、近年ほぼ横ばいで推移している状況にある。
平成13年度に発生した人身障害事故は315件で、前年度と比較すると17件減少している。

(3)輸送障害の状況

平成13年度は、自然災害によるものが303件減少したため、前年度と比較すると331件減少して3380件となった。
なお、昭和62年度1842件、平成4年度2574件と、長期的には増加傾向にある。

 

(7)イギリスの鉄道事故調査制度について

<鉄道監督官による事故調査>

1) 事故の調査

鉄道監督官が実際に事故を調査する。
現在26名の監督官がおり、各地にいくつかの地方事務所をもっており、効率的機動的に全国をカバーできるようになっている。

2) 事故の通報

鉄道監督官への事故の通報は様々な方法があり得る。
鉄道業者から電話やFAXやEメールで事故が通報される場合もあれば、
それらの連絡よりも前に鉄道監督官自身がテレビで事故を知る場合もある。

3) 事故調査の開始

事故の通報を受けた後に、HMRIとしてその事故を調査するのか否かを決定する。
決定にも即日調査官を派遣するか、翌日以降の派遣かなど様々な種類がある。

4) 警察との共同

イギリスには英国運輸警察という運輸に関連する事件専門の警察組織があり、
HMRIはこの警察組織と共同して調査をすすめることになる。
お互いの調査・捜査の目的は異なるが、事故直後に現場で行う調査・捜査の内容の大部分は共通しており、
HMRIは警察との協定により、現場保存、相互の技術的アドバイス、資料の相互提供などの取り決めを行っているとのことである。

5) 専門家の支援

HMRIの監督官はいずれも鉄道についての十分な技術的知識を持っているが、
それでも場合によっては専門家の支援が必要な場合がある。
HSEにはHSLという専属の研究実験設備を有しており、電気・金属や専門技術などについて鑑定的な検討をしてもらうこともある。
さらに外部のコンサルタント会社に鑑定などを嘱託することもあるとのことである。

6) 調査の内容・目的

HMRIの調査は警察の捜査と異なり、事故原因の解明と事故の周辺や背景にある安全問題の解明である。
従って個人の刑事・民事責任の追求ではなくて、事故の原因究明を通じて事故の再発防止がその目的である。
ただし事故の再発防止のための調査であるので、事故の原因だけではなくて、
被害拡大、例えば列車の室内設備の構造などいわゆるサバイバル・ファクターについても調査を行うことがある。
これについては後にキャノン・ストリート駅の事故調査報告書の中で紹介する。

<調査の手続き>

労働健康安全法および関連する規則によれば、HSEが行う調査には、厳密には二つの種類が定められている。
一つはinquiries で、もう一つはinvestigationsである。
前者のinquiries はより正式な調査とされ、調査の開始には必ず担当大臣の同意を得た上で、HSCが開始を決定し、
厳密に規則(健康安全調査規則1975年) に従って行われなければならないとされている。
そして、実際の調査は原則として、公開して行われ(例えば運転士などの事故関係者に対する事情聴取を公開して行うという意味である)、
調査の担当者として指名された者は、関連証拠を採集する際には宣誓を命じること、
調査の参加者に証言をさせること、関係者に必要書類を提出させること、
必要が認められるあらゆる施設へ立ち入ることの権限を付与されている。
後者のinvestigationsは、HSEの担当者(例えば鉄道監督官の資格を持つ者)が実施を決めることが出来、通常は公開されない。

<調査に基づく勧告>

調査の結果、事故の原因が明らかにされれば、次に関係当事者に対する勧告が決められる。
勧告は、同種事故の再発や被害発生の防止という観点から幅広く検討され、事故を起こした鉄道会社のみならず、
列車や機材のメーカー、更には運輸省にも向けられる。
勧告には法的拘束力はないが、
関係当事者が勧告を無視して、危険な状態が続いていると認められる場合には、措置をとることもあるとのことであった。

<調査結果の公表>

調査結果は公表される。HSEブックスから出版も行っており誰でも購入できる。

<実際の事故調査の例>

1 次に実際にHSE−HMRIがどのような調査を行っているのか、現実に発生した事故とその調査を例にとって見てみたい。

2 事故の発生と結果

1991年1 月8 日にキャノン・ ストリート駅で列車が車止めに激突するという事故が発生し、
乗客のうち2 名が死亡し、277 名が負傷するという事故が発生した。

3 HMRIの調査

早速HMRIが調査を開始し、現場で列車や駅設備等の現場検証を行うとともに、
2 月25日から同月28日にかけてと、3 月4 日に、inquiry としての公開調査を行い、
関係者からの事情聴取( 宣誓を経た上での供述を証拠として採取する手続き) を行った。
公表された事故調査報告書には、誰からどのような事実を聴取したか、かなり詳しく記載されている。
一方で車両の構造や消耗度、さらには事故時の衝撃が乗客に与える影響などについて、investigation としての調査を行った。
事故調査報告書には、衝撃度影響評価の試みとして、コンピューター・ シミュレーションの結果についても紹介されている。

4 調査の終了と勧告、公表

調査は1992年3 月2 日に終了し、公表された。
事故の原因は、運転士が適切なブレーキ操作を行わなかったことであるとされた。
その一方で、報告書には列車の老朽化や連結器の不備が被害を拡大させたこと、
多くの乗客が搭乗しており、そのうちのかなりの部分が立っていたことも被害拡大の原因であると指摘している。
そしてBR委員会に対し、列車運転士の訓練を充実させること、ATP(わが国おけるATS−Pに相当する施設)の設置を急ぐこと、
車止めの改良を早急に行うこと、旧式の老朽列車を早急に改良して新型と入れ換えること、
列車データ・レコーダーを以前の勧告に従い装備することなどについて相当に詳細な勧告を行っている。
事故調査報告書は、全41ページの報告書として、HSEブックスから公刊され、値段は8ポンドである。

 

<参考した資料>
・国土交通省
・航空・鉄道事故調査委員会
・京都新聞社
・神戸新聞社
・産経新聞社
・読売新聞社
・平成13年度鉄道事故調査統計(PDF)


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