区間\交通機関 | 鉄道 | バス | 広島→鳥取県東部 | 238 | 36 | 鳥取県東部→広島 | 148 | 41 | 往復計 | 386 | 77 | 往復計比率 | 83% | 17% | 広島→鳥取県西部 | 52 | 66 | 鳥取県西部→広島 | 85 | 66 | 往復計 | 137 | 132 | 往復計比率 | 51% | 49% | 広島→松江 | 77 | 181 | 松江→広島 | 16 | 197 | 往復計 | 93 | 378 | 往復計比率 | 20% | 80% | 広島→出雲・益田・浜田・大田 | 16 | 247 | 出雲・益田・浜田・大田→広島 | 0 | 279 | 往復計 | 16 | 526 | 往復計比率 | 3% | 97% |
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広島−鳥取県東部間では鉄道が圧倒的有利、広島−鳥取県西部間では互角の勝負、広島−松江間では鉄道が圧倒的不利、広島−出雲・益田・浜田・大田間ではまさに鉄道が駆逐されている状況であることが理解できる。これはつまり、陰陽連絡鉄道の幹線として高速化が図られた「やくも」「はくと」ルートは今なお隆盛であり、それ以外のルートが没落したことを示唆している。
陰陽連絡の主役「やくも」@岡山(平成15(2003)年撮影)
木次線からは優等列車が廃止され、三江線では開業以来優等列車が走ったこともない。広浜線(今福線)に至っては未成のままで終わったどころか、既に開業した可部−三段峡間までが廃止になる始末である。これをもって鉄道が衰退したとみなすことは無理のない解釈であり、特に広島−出雲・益田・浜田・大田間においては高速バスが鉄道を駆逐したと断定してよい状況でもある。
しかしながら、広島−出雲・益田・浜田・大田間の各区間での利用者数は、往復あわせ一日 200名未満という水準(広島−大田間では 100名未満)であり、もともと鉄道がその特性を発揮しうる断面でないことは厳然たる事実としてある。よって鉄道側では、関西圏ほか大都市圏からの流動を「やくも」「はくと」ルートに集約して、これを基軸としうる区間のみに経営資源を傾注、結果として利用者の分布がそれを反映している、と解釈することができよう。
陰陽連絡の脇役「おき」@新山口(平成16(2004)年撮影)
キハ187 を使用する優等列車は編成が2〜3両と短く、しかも高速化が進んでいない区間も多く、目立たない地味な存在である。それでも優等列車そのものがなくなった路線・区間があることを考えれば、生き残っているだけまだましといえよう。
殊に広島−松江間において、鉄道側は大迂回ルートであるというのに20%ものシェアを獲得していることは特筆に値するもので、新幹線の高速性が活かせる区間での鉄道の強みが如実に顕れている。
以上まで長々記してきたが、結論するならば、鉄道も高速バスも相手を駆逐することは難しく、高速性などでよほど圧倒的優位がない限り、それなり以上の強みを発揮した競合が可能である、とみなすことができる。
■空港アクセスバスはどうか
では、羽田空港アクセスバスの場合はどうだろうか。
前々稿の北千住リムジン
を例題として、仮定となる数字が多くはなるものの、以下に試算してみよう。
羽田空港利用者数 一日に20万人程度(送迎等含む)
空港後背地人口 3000万人程度(ザクっとした仮定)
単位利用者数 67人/人口一万人
足立区発着 67×60≒4000人/日
ここで実際の利用者の挙動を考えてみよう。業務は東京都心などに、観光は舞浜などに集中するから、実際に居住地圏内に発着するのはこの三分の一程度であろう(勿論仮定)。だから足立区発着の羽田空港利用者数は、
足立区発着 4000×1/3 =1333人/日
程度であろう。さて、北千住リムジンは14往復である。バス会社側では、将来的な伸びを含めて一便あたり15名程度を期待していると仮定すれば(これに近い実績が開業直後の段階で既にあることは前々稿に記したとおり)、
バス利用者期待値 28×15= 420人/日
となり、シェアは約30%強とそこそこの水準に達することがわかる。鉄道シェアは40〜60%程度と想定されるので、運行頻度など他の条件をも考慮すれば、実はかなりいい勝負をしていると評することが可能である。
逆にいえば、既に羽田空港アクセスバス路線を持っているバス会社は、経験的原単位を持っていなければならない。例えば、単位人口あたり羽田空港利用者数、というような。おそらくは、ザクっと堅めに見ても、一日あたり 5〜10人/人口一万人という数字くらい把握しているものと想定される。もっと極言すれば、この程度の予測すらできない会社はおよそ無能というほかなく、いくらなんでも人口と利用者数を関連づけるくらいのことはしていなければおかしい。
たとえ需要予測理論のイロハを知らずとも、中学レベル程度の統計学知識しかなくとも、足立区に発着し、かつバスを優先的に選択しようという羽田空港利用者数の期待値を得ることは充分に可能である。おそらくそれは、300〜600人/日程度。まして足立区の場合、北千住に利用者が集中する地理的状況もあるから、なおさら利用者数を読みやすいときている。つまり、東武セントラル及び京浜急行バスは無理な背伸びや冒険をしているわけでは決してなく、それぞれの会社なりに極めて堅実に一日14往復を設定した、と見ることが可能なのである。
北千住リムジン@北千住駅前(平成19(2007)年撮影)
■まとめにかえて
以上のように結論してみれば、
前稿における「空港アクセスバスがなぜ主流になれないのか?」という筆者の疑問
は、実はまったく見立て違いだったことがわかる。第三者から見ると、なんともみっともないブレに思われるかもしれない。しかしながら、筆者としてはそれなり以上に清々しい気持ちを持っている。なぜなら、また一つ真理に近づけたことがうれしいからである。
首都圏での交通流動は、鉄道が圧倒的に高いシェアを確保していることはよく知られている。実際のところ鉄道利用者はかなり多いわけで、どの路線のどの列車に乗ってもそれなり混んでいることから、鉄道がよく利用されていることは感覚的にも理解できるところであろう。自己弁護になってしまうが、鉄道の巨大な輸送量に対し、高速バスが埋没して見えることは間違いない。
しかしながら、それは鉄道が利用者の流れを集約する特性による部分が大きい点に留意する必要がある。局部的な断面において、例えば羽田空港を起終点とする交通流動に限定してみれば、バスも対等に近いレベルでの(あるいはそれ以上に優位な)競合に持ちこみうることがデータ的にも裏づけられた。勿論この分析には仮定が多いのだが、倍半分程度の乖離はあっても、桁違いに外すことはまずないだろう。
最後に、この議論に関与された全ての方々に感謝しながら、真理に近づけたよろこびを刻んでおきたい。ただ単に初ものを試したのみならず、思わぬ方向に分析が発展・深度化できたことは、議論というもののまさに醍醐味であろう。まことありがたい限りである。
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このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
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