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第2章 ケーススタディ

 

 

■プロジェクトの設定(その1)

 XY間の所要時間短縮を図るプロジェクトを実行することとする。

 プロジェクト実行に要する総費用は 1,000億円とする。この費用は国(県や市など自治体でもよい)が負担するものとする。

 プロジェクト評価期間は30年とし、その間の金利をゼロとする(社会的割引を考慮対象外とするための単純化)。

 所要時間短縮幅は20分とする。

 運営会社(鉄道会社)は、プロジェクト実行前は収支均衡と仮定する。

 

▼A分類:

 プロジェクト実行後、XY間の移動に特別料金を課金しない。

 鉄道会社の運営コストは、毎日固定的に 500万円増加すると仮定する。

 このケースでは、1日あたり 2,200万円の利用者便益が発生し、鉄道会社は1日あたり 800万円の増収、 300万円の増益となる(承前)。これを30年間に換算すると、

   利用者便益 :2,200万円×365日×30年= 2,409億円

   鉄道会社増益: 300万円×365日×30年=  329億円

   B/C 4) :2,409÷1,000     = 2.4
       3) :2,409÷(1,000−329)= 3.6
       1) :(2,409+329)÷1,000= 2.7

 となり、良好なプロジェクトといえる。鉄道会社にも 329億円の累積黒字が発生、健全経営が可能である。

 

▼B分類:

 プロジェクト実行後、XY間の移動に特別料金 1,000円を課金する。

 鉄道会社の運営コストは、毎日固定的に 500万円増加すると仮定する。

 このケースでは、1日あたり 0円の利用者便益が発生し、鉄道会社は1日あたり 2,000万円の増収、 1,500万円の増益となる(承前)。これを30年間に換算すると、

   利用者便益 :  0万円×365日×30年=   0億円

   鉄道会社増益:1,500万円×365日×30年= 1,643億円

   B/C 4) :  0÷1,000      = 0.0
       3) :  0÷(1,000−1,643)= 0.0
       1) :(0+1,643)÷1,000  = 1.6

 となり、プロジェクトを実行する社会的意義は薄いといわざるをえない。ただし、鉄道会社には 1,643億円の累積黒字が発生する。極めつけの健全経営であるが、鉄道会社は国が拠出する投資以上の受益するので、問題が多いスキームである。

 

▼C分類:

 プロジェクト実行後、XY間の移動に特別料金を課金しない。

 鉄道会社の運営コストは、毎日固定的に 1,000万円増加すると仮定する。

 このケースでは、1日あたり 2,200万円の利用者便益が発生し、鉄道会社は1日あたり 800万円の増収、 200万円の減益となる(承前)。これを30年間に換算すると、

   利用者便益 :2,200万円×365日×30年= 2,409億円

   鉄道会社増益:−200万円×365日×30年= −219億円

   B/C 4) :2,409÷1,000     = 2.4
       3) :2,409÷(1,000+219)= 1.8
       1) :(2,409−219)÷1,000= 2.2

 となり、それなりに社会的意義を有するプロジェクトといえる。ところが、鉄道会社には 219億円の累積赤字が発生してしまう。そもそも営業赤字になる設定なので、健全経営など不可能ということになる。

 

 

■プロジェクトの設定(その2)

 XY間の所要時間短縮を図るプロジェクトを実行することとする。

 プロジェクト実行に要する総費用は 1,000億円とする。この費用は鉄道会社が全額借入にて負担するものとする。

 プロジェクト評価期間は30年とし、その間の金利をゼロとする(社会的割引を考慮対象外とするための単純化)。

 所要時間短縮幅は20分とする。

 運営会社(鉄道会社)は、プロジェクト実行前は収支均衡と仮定する。

 

▼D分類:

 プロジェクト実行後、XY間の移動に特別料金を課金しない。

 鉄道会社の運営コストは、毎日固定的に 500万円増加すると仮定する。

 このケースでは、1日あたり 2,200万円の利用者便益が発生し、鉄道会社は1日あたり 800万円の増収、 300万円の増益となる(承前)。これを30年間に換算すると、

   利用者便益 :2,200万円×365日×30年= 2,409億円

   鉄道会社増益: 300万円×365日×30年=  329億円

   償還コスト :             1,000億円

   B/C 4) :2,409÷1,000     = 2.4
       3) :2,409÷(1,000−329)= 3.6
       1) :(2,409+329)÷1,000= 2.7

 となり、プロジェクト評価じたいは良好な値となる。しかし、鉄道会社には 671億円の累積赤字(増益−償還コスト)が発生する。営業黒字は出ているので、初期投資の償還後は健全経営に転じることも不可能ではないが、状況次第では破綻に至る可能性がある。

 

▼E分類:

 プロジェクト実行後、XY間の移動に特別料金 1,000円を課金する。

 鉄道会社の運営コストは、毎日固定的に 500万円増加すると仮定する。

 このケースでは、1日あたり 0円の利用者便益が発生し、鉄道会社は1日あたり 2,000万円の増収、 1,500万円の増益となる(承前)。これを30年間に換算すると、

   利用者便益 :  0万円×365日×30年=   0億円

   鉄道会社増益:1,500万円×365日×30年= 1,643億円

   償還コスト :             1,000億円

   B/C 4) :  0÷1,000      = 0.0
       3) :  0÷(1,000−1,643)= 0.0
       1) :(0+1,643)÷1,000  = 1.6
 となり、プロジェクトを実行する社会的意義は薄いといわざるをえない。ただし、鉄道会社には 643億円の累積黒字が発生し、健全経営が可能である。投資効率も決して悪くはない(定義式1)の結果による)。しかも、31年目以降は償還コスト負担がなくなるため、設備更新までの期間は大幅な利益を確保できるというメリットが生じる。

 

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