このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

大阪市営渡船群

 縦横に幾筋もの川が流れる大阪市。当然のことながら、それらには数多くの橋が架かっている。江戸八百八町に対して、大阪八百八橋と言われていたというくらいだ。しかしそんな橋の間で、今でも全部で8航路の渡し船が元気に活躍している。大阪市営の渡し船で、運賃は全て無料という小さな小さな航路だが、ほんのわずかな距離でも船に乗って対岸に渡るということは意外な「旅」であると言うことを認識させてくれる航路でもある。天気のいいある日、自転車に跨り、そんな渡船群を巡る小さな旅に出かけてみました。

渡船名河川名運航区間
落合上渡船 木津川大正区千島〜西成区北津守
落合下渡船 木津川大正区平尾〜西成区津守
千本松渡船 木津川大正区南恩加島〜西成区南津守
木津川渡船 木津川住之江区平林北〜大正区船町
船町渡船 木津川運河大正区船町〜大正区鶴町
千歳渡船 大正内港大正区鶴町〜大正区北恩加島
甚兵衛渡船 尻無川大正区泉尾〜港区福崎
天保山渡船 安治川港区築港〜此花区桜島



落合上渡船

落合上渡船場入口

 木津川下流の木津川水門直下を横切る渡船。木津川4渡船の中では最も上流に位置する。
 このあたりの木津川は川幅も比較的狭く、堤防の高さも高い。このため船着き場へは堤防を乗り越えて行かなくてはならない。自転車のためにスロープが併設された階段を上り下りして船着き場へと向かう。
 小さな屋根のある待合所のあたりに、数台の自転車と人が居る。どこかへ出かけると言うよりは、ちょっとそこまでブラッと出てきただけ、と言った感じのいでたちだ。続いて子供達が勢い良く自転車で駆け下りてくる。川向こうに遊びに行くらしい。子供の日常生活にも深くとけ込んでいる渡船のようだ。
航行中の天神丸
 時間になり、係員がやってくる。ゲートが開き、川に浮かんでいる台船から船へと乗り移る。ほとんどが自転車携帯の客だ。駆け込みの子供を乗せるとゲートが閉まり出航。乗船開始から出航までわずか2〜3分の出来事だった。
 堤防を見上げると、乗り遅れたらしい子供達が、恨めしそうな顔で船を眺めている。船からは、誇らしげな顔をした子供達が堤防を見上げている。きっとこの子供達は一緒に川向こうに遊びに行く予定だったのだろう。この子たちにとって、次の船までの15分というのは、どのような意味を持つ時間になるのだろうか。
 2度の方向転換で、S字の航跡を描いて対岸に到着。まさにあっという間の船旅だ。下船すると入れ替わりに対岸へ向かう客を乗せて出航。堤防の上に上がって振り返ると、もう対岸についていた。乗ってしまうと本当に一瞬の船旅だ。
 それでも、同じ川を橋で渡った時よりは遙かに遠くへ来たような気分にさせてくれる。それに、一瞬の船旅のために15分も待つという、現代社会の中では一見不合理に見えることでも、それは自分の時間にゆとりを持てるという意味では素晴らしい15分になるだろう。このあたりの人達は、そんなゆとりをもっているように思えた。

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落合下渡船

 落合上渡船からほんの少し下ったところを横切っている渡船。運航間隔が同じため、互いの船が川を横切っていくところを見ることが出来る。
 船着き場のつくりといい、使っている船といい、落合上渡船と同じであり、双子の渡船と呼んでも差し支えないくらいだ。ただ、こちらの方が運航時間が短く、私が乗った時(日曜午後)の利用者数も少ないように思われた。
 それでも船から見る景色は、上と下とで若干違ってくる。木津川河口に近づいたぶんだけ、下流にかかる橋も、広い川を行く船も、大きくはっきりと見えてくる。川幅も気のせいかもしれないが、下渡船の方が若干広くなっているようにも思える。もっともこれは、双子の個体差と言ってしまえばそれまでかもしれないが。
 渡船乗り場の周囲は、工場や倉庫が並んでいる。普段ならば活気に溢れているのだろうが、休日の昼下がりということもあってか、どこもガランとしている。そんななか、時折散歩をしている人や、のんびりと日光浴をしている人の姿が、生活感を感じさせてくれる。のんびりと時間が流れているこの街には、やはり渡船が似合う、と思った。

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千本松渡船

 木津川下流にかかる千本松大橋の直下を横切る渡船。千本松大橋は自転車が走れないために、この渡船は今も活躍している。
 橋の直下にある船着き場に到着。他の渡船と比べるとかなり長い距離に見えるが、それでも数百mあるかどうか、といったところだろうか。運航時間も長く、渡船群の中では比較的利用者の多い渡船になるのではないだろうか。
 なんとなく自転車で満員になって出航。この渡船に限らないのだろうが、自転車での利用が極めて多い。客が多くても少なくても、必ず自転車携帯の客がいるようにも見える。これもやはり、日常生活圏を行き来する乗り物、という渡船の特色なのだろうか。
 遙か頭上に千本松大橋を見ながら船は進む。川幅はかなり広くなり、これまで乗ってきた木津川渡船群に比べると、まるで海を行くかのようだ。尾道の渡船よりも長いかもしれない。それはさておき。
 それでも5分とかからずに対岸に到着。すぐそこに、橋へのアプローチ道路が見える。橋は確かにいつでも渡れて便利だが、旅を強く感じさせてくれる渡船の方が、私にとっては魅力溢れる移動手段に思えてくる。自転車が通れない橋という特殊事情があるにせよ、このような形で橋と並行する渡船が残っていることは非常に喜ばしいことだ。これからもがんばって欲しいと思った。

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木津川渡船

 この渡船も、木津川新橋に並行して走っている。この橋は自転車も通れるのだが、川の遙か上空を渡っているために、対岸に渡るにはかなりの時間と体力を必要とするようだ。しかし渡船の利用者はあまり多くないらしく、運航時間は最も短く、運航間隔は最も長い渡船となっている。
 私が船着き場に着いたとき、丁度船が出航したところだった。次の船までの時間は45分。自販機が一つあるだけのこの場所では、さすがにこの時間は少々持て余しそうだ……、と思いつつ、時間つぶしに何をしようか、と考え始めたその時だった。
 一台のワゴンがやってきた。中から、カメラや撮影機材を持った人が下りてくる。アナウンサーらしき人もいる。忙しそうに機材を運んで、船着き場の台船へと走っていく。一体何が始まるのだろうか。
 興味津々で見ていると、やがて撮影が始まった。細かい所までは聞こえなかったが、どうやらこのあたりの歴史についてリポートしているようだ。何度か撮り直しをして、ようやく撮影は終了した。カメラを担いだスタッフに聞いてみると、地区の広報ビデオの撮影で、残念ながらテレビ放映はないらしい。
 しかしおかげで時間つぶしには困らなかった。彼らが撤収してから間もなく、対岸から船がやってきた。完成したビデオを見る機会は恐らくないだろうが、彼らには感謝しなくては。それはさておき。
 この渡船は、何と自動ドアを装備していた。航行時間3分と、渡船群の中では長い距離を行くからだろうか。しかし乗客は往復ともに2名しかいなかった。なんとも淋しいものである。
 体力トレーニングのためなら橋を渡るだろうが、そうでなければ待ち時間が少々長くても渡船を使いたい。そう思う私だった。

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船町渡船

 木津川運河を横切る渡船。8つの渡船の中では恐らく最も短い航行距離だろう。
 船着き場に立つと、目の前に船が停まっている。しかし船が繋がれているのは対岸の船着き場だ。これなら橋を架けてしまった方が安上がりなのは確実だろう。それでもここに渡船が残っているのは、なにか特別の理由でもあるのだろうか。
 時間になり、船が動き出す。落合渡船では、S字を描くように動いてきたが、ここではさらにそれを上回る短距離渡船のために、U字を描いた時点で対岸に着いてしまう。ちょっと長い船を作る感覚で、橋が架けられそうな気がしてしまう。それでも以外に利用者は多く、不思議な感じを与えてくれる渡船だった。このまさに一瞬の船旅が、人の共感を得る何かを持っているのだろうか。だとすれば、私もそれに共感した一人であることに違いはないのだが……。

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千歳渡船

 大正内港を横切る渡船。並行する千歳橋の工事が進められており、海上に橋脚が姿を現している。この橋の完成により、廃止が危ぶまれる渡船ではないだろうか。
 今までになく多くの乗客が列をなして船を待っている。子供達の自転車軍団も見受けられる。対岸まで遊びに出かけるのだろうか。
対岸から船が近づいてくる。遠目にも、たくさんの乗客が乗っているのが分かる。そのほとんどが自転車携帯だ。どの渡船でも、この光景は変わらないように見える。
 船が着き、乗客が入れ替わる。瞬く間に船内は自転車と人で埋め尽くされる。屋根についた手すりにぶら下がって、子供達が騒ぎ始める。わずか3分程度の船旅でも、子供というものは遊び場を求めて動き回ることを止めようとはしない。そのエネルギーには恐れ入るものがある。それはさておき。
 間もなく対岸に到着。乗り込むときと同じように、子供達は先を争うようにして飛び出していった。最後に私が下りたときには、子供達の姿はどこにも見あたらなかった。全速力で遊び場へ向けて走っていったのだろう。
 橋が出来ると、確かに行き来には便利になるかもしれない。しかし、船内の手すりで遊んだり、対岸に着くのを待ちかねたように全力で走り出していく子供の姿を見ることが出来なくなるというのは淋しい気がする。たまたま渡船を利用しただけの人間にこのようなことを言う資格は無いのかもしれないが、久しぶりに見た元気いっぱいの子供達の姿に、ついそのような思いがわき上がってくるのを抑えきれなかった。

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甚兵衛渡船

 尻無川を横切る渡船。千歳渡船からはほんの十分程度も自転車に乗れば行くことが出来る。
 船着き場に着いた時には誰もいなかったが、程なくまた子供達がやってきた。繋がれている2隻の船を見て、どちらの船が良いとか悪いとか、あれこれと話し始めた。見たところ小学校の低学年くらいの様子だが、渡船についてはかなり詳しく知っている様子だ。やはり毎日のように利用していると、自然と様々な知識が身に付いてくるのだろう。
 時間が近づき、係員が下りてくる。子供達と軽く言葉を交わす。「今日は船長私服や」などと言っている。どうやら顔見知りのようだ。「船長」も、さらに一言二言、子供達に話しかける。こういった何気ないところにも、日常生活にとけ込んだ渡船の味が出ていて興味深い。
 自転車と人が乗り込んで出航。落合渡船と同じくらいの距離だろうか。大きくS字を描くようにして対岸に到着。ほとんどの乗客はすぐに下りていったが、子供達だけは、対岸に向けて出航していく直前まで「船長」と言葉を交わしていた。

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天保山渡船

 日本最大の水族館、海遊館のある大阪港・天保山と桜島を結ぶ渡船。平行して阪神高速道路の橋が架かっているが、人や自転車はわたることが出来ない。
 桜島渡船場の付近は、そこここで工事が行われていた。この近くに、ユニバーサルスタジオジャパン(USJ)が出来る関係で、一帯の再開発が行われているらしい。少々回り道をしながら渡船場へと向かう。
 対岸の天保山は、海遊館で知られる一大レジャースポットとなっているばかりでなく、関西空港や四国への高速船の出航場所でもある。また、この渡船が横切る安治川は、大型船がひっきりなしに行き来する航路となっており、大きな船が通り過ぎた後は、船着き場の台船が大きく揺れている。
 小雨の降り始めたなか、やってきた船に乗って出航。安治川を行き交う船の間を縫うようにして対岸へと向かう。ぶつかるのではないか、と心配してしまうくらいに接近して船の後ろを横切ったときには、さすがに少し怖くなってしまった。それでも船員は平然としているのは、もしかしたらこんなことは毎日のようにしているということなのだろうか?それはさておき。
 天保山の船着き場近くの公園には、日本一低い山・天保山の山頂がある。標高4.5m、標識がなければ見過ごしてしまうような山だ。話に聞いていたので知ってはいたが、それでも呆気にとられてしまうくらいの「登山」だった。

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