最後の仕事を終えて、バスはキャラバンパークに到着した。部屋に戻る途中に、ヘアードレッサーの人がいるテントがある。 「10ドルでカットします」という貼紙が、キャラバンパークにあり、マリアンは いつもここでカットしている。 私も、仕事を終えたら、ここでカットしようと思っていた。サッパリして、ラウンドをはじめたい。 テントの外に人がいて、マリアンに聞くと「彼女がヘアードレッサーよ」と言うので、 さっそく予約をした。「30分後に来ます」と。
準備をして、ヘアードレッサーのテントへ行く。 「こういう感じにして」と、持っていた雑誌の切り抜きを渡すと、「OK!」と言うヘアードレッサー。 切られはじめると、ユキコさんが通りかかり、「あぁー!」と驚いた様子で、カメラを持ってきて 撮影してもらった。
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悪夢のカット風景 |
それにしても、ヘアードレッサーのねぇーちゃん、バサバサと切って行くから、びっくりする。 しかも、全て横にしかハサミを入れていない。それでも、容赦なくどんどん切っていく。 鏡に映る私の姿は、「戦時中の子供」以外の何者でもない・・・。そんな所へ アヤカちゃんが覗きに来て、私の姿を見ると、大笑いして帰って行った・・・。 それほどにひどいのか・・・。いや、これから、これから。
そろそろ「シャギー」とか「すかす」という事をやってくれるだろう・・・と ヘアードレッサーの奴の手元を見てみるが、一向にハサミは横にしか入らない。「前髪は?」と言われ、 「ちょっと切って」と言うと、またもや横だけにハサミを入れ、完全な戦時中の子供の髪型が 出来上がった。どうやら、これで終了らしい。え・・・!???切り抜きと、長さも、髪の量も、何もかもが 違うんですけど・・・。めちゃくちゃ短いんですけど・・・。めちゃくちゃ戦時中のようなんですけど・・・。ピッシー!と、真横に揃ってますけど・・・。
呆然としていると、ヘアードレッサーのババァの彼氏がテントの中から出てきて、 私の面白い髪型を見て、「nice!!」と言ったが、顔が笑っていた事を私は見逃さなかった。 「Oh!nice! Thank you」と嘘をつき、10ドルを払い、走ってその場を立ち去り、 急いでトイレへ駆け込む。トイレの鏡で確認しても、やはり戦時中の髪型である事に変わりはなく、 服で頭を覆い隠して部屋へ戻る。マリアンに見せると「nice!」と言ってくれたが、 そんなわけがない!!
再び服で頭を覆い隠して、テーブルに集うみんなのもとへ走って行き、どのように切られて、 どのように酷い有様かを興奮しながら説明し、 「見せて」というみんなの声に、「絶対いや!」と叫ぶ。 いつも自分で髪の毛を切っているため、 カット用ハサミを持参しているタカシにハサミを貸してもらい、ハサミを手に、 服で頭を覆い隠し、大急ぎでトイレへ駆け戻る。 貸してもらったスキバサミで、ジョキジョキ、バサバサと、適当に切り続け、 ひたすら髪の量を減らす努力をして切り続け、なんとか戦時中の子供のような髪型から脱出。 それでも、やはり変であるが、これ以上はどうしようもない。
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ヘレンとビビンバ |
今日は楽しみにしていた、ヘレンがビビンバをご馳走してくれる日だというのに、 髪の毛騒動で、すっかり遅れてしまった。先に食べ始めているみんなのもとへ、帽子を被って 行く。素知らぬ顔で、ビビンバを食べていたが、「帽子を取れ!」と言うみんなの声に、 ついに開き直って帽子を取ると、「そんなに思ったより、おかしくないやん」と言いながら、 みんなは笑っている。
スノーピーズ畑で一緒に働いていたジェイドが通りかかり、「おぉー、髪の毛切ったのかー。nice!」 と言った。私は、「ええ!?ほんまに?私はそうは思えない!」と言うと、「nice!」と繰り返しながらも 顔が笑っていた。そして立ち去るジェイドの後姿に、笑いをこらえ切れずに震える肩を、私は見逃しはしなかった。
このように、自他共に認める、笑える髪型となってしまった私は、ラウンドへの 意気込んでいた気持ちが、すっかりしぼんでしまった。「もう、どうでもええわー」と開き直るしかない。
明日は、タカシがここを出て行く日だ。そしてアヤカちゃんは明日でスノーピーズの仕事が最終日。 この日は、みんなで夜遅くまで語り合い、髪型について何度も爆笑が起こった。 私は二度と、外国人美容師に髪の毛を切ってもらうという過ちを犯すまい、と一人心に誓った。