サングラスをなくして目が痛いというカヨさんに、下山の大砂走りで必要だと思って持って来ていた スノーボード用のゴーグルを渡す。一気に怪しい外見になったカヨさんと9合目を目指して出発。 下山者はいるものの、この暗く強風の吹き荒れる中、登山する者は居ない。 下山してくる人に聞くと、上でもこの強風は吹いているし、霧もあるし、9合目まで1時間はかかるとの事。 不安になり、少し登ったけど8合目に引き返し、行っても大丈夫なのかを8合目の人に聞いてみると 「大丈夫なんじゃない??」との事。そりゃー、そう言うしかないだろう。 自分を信じて行くか、ここに泊まるか、また迷ったが、今登らなければ明日の夜中にまた暗い中 登るのだから同じ事だ。という結論に達し、登ることにした。本当に大丈夫かな??と2人で泣き言を言いながら少しずつ上っていると、 後ろから5人組ぐらいの人達が登って来る姿が見えて安心する。しかし登るペースが遅い私達は すぐに追い抜かされて焦る。他に登山者は居ないので、「この5人組についていかなければ!」と 頑張って追いつこうとする。霧と強風、寒い、辛い、でもカヨさんは息苦しそうなのに 頑張っている。私も頑張らなければ。弱音を吐いてはいられない。前に進むだけだ。 時々吹き荒れる突風は、死を予感させるほどのものであった。しかし 登っているうちに霧が少し晴れて下界の夜景が見えた。信じられない綺麗さ。感動。 「これが見れたから富士山に登ってヨカッタと思えるよ」と、(まだ山頂にも行っていないし 下山もしてないのに)カヨさんは言った。
霧で見えなかった9合目の山小屋の明かりが見えた。すぐそこのようで、遠くにある明かり。 夜景を見て自分達を励ましながら、進む。立ち止まって休憩しているときに 「タカコちゃん、ありがとうね、ごめんね」と普段はあり得ないような弱々しく素直な セリフを吐いたカヨさん。「え??どうしたん?!」と驚く(引く)私に、 「こんな時ぐらいしか言わないしね」と言った。納得。
もう辺りはすっかり真っ暗。5人組と私たちは、追いついたり、追い抜かしたりしながら 同じぐらいのペースで登っていた。すれ違うときに、「がんばりましょー!」などと声を 掛け合ってきた。体力的にはまだ平気だが、テンションがおかしくなってきた私は、 5人組が休憩している所ですれ違うときに「頑張りましょー!オー!バンザーイ!」などと まるで酔った時のようなテンションで声をかけると、5人組は「オー!」などと 答えてくれた。(多分、引いていた事だろう)大声で声をかけたため、その後すごい息切れがして すぐに立ち止まって休憩して追い抜かされた。アホや。
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寝床 |
そんなことを繰り返しながら、カヨさんは息苦しいのに頑張りながら、20時前、 やっと9合目に到着!!!!チェックインし、寝床に案内される。凄いひどい場所を想像していたが 2段ベット風の造りで、私達は4人入れる2段の上の場所へ案内された。 先にそこに居たのは1組のカップルだった。2mくらいの幅に布団がひいてあって、雑魚寝という感じだ。 この幅で4人なら余裕という感じで、安心。寝床を確認してから、ご飯を食べる場所へ行く。鏡を取り出して自分の顔を見ると、砂埃で真っ黒だ。 汚い。鼻の穴も、真っ黒。汚い。ウエットティッシュで拭く。夜ご飯は手作りおにぎりを用意していたけど 寒さに凍える私は、「卵うどん」を注文した。800円。暖かくて、とてもおいしかった。 冷えた体が温まり、疲れた体が癒される。トイレへ行くと、仕方がないことだけど驚くほど汚かった。 便座も冷たくて、半泣き。トイレから帰って来ると、カヨさんは山小屋で働くおじさんと話をしていた。 80代のおばあさんでも毎年富士登山している人がいるとか、山で出会って毎年葉書のやりとりをしている人がいるとか、 そういう話を聞いた。そして「富士登山の秘訣は何なんですか?やっぱり体力作りなんですかねー?」と訪ねる私に、 「毎日を精一杯生きることだよ!一生懸命働いて、頑張って生きること!」と、おじさんは言った。 きっと普段なら臭いと思えるだろうセリフも、ここまで登って来て熱い心になっている私は、ひどく納得し、感動し、鳥肌をたてた。
おじさんの話によると、ご来光を頂上で見たい人は午前2時に起きて山頂をめざすらしい。午前2時に山小屋の明かりがつくので 起こされなくても起きれるらしい。ご来光は4時半だが、山頂まではご来光を見ようとする人達で渋滞するので2時間はかかると言うことだ。 寒い中、2時間は辛いかもなーと思ったが、せっかくなので行くことに決め、20時半に寝床へと向かう。 すでに消灯時間は過ぎて真っ暗。さっき確認した私たちの寝床では既にカップルは寝ている。 そして、私たちの寝るスペースは全体の1/3ぐらいしか残されていなかった・・・。(カヨさん曰く50cm) カップルは頭を同じ方向にしてスヤスヤ眠っているが、私たちは50cmのスペースに頭を同じ方向に入れるはずもなく、 頭と足を逆方向にして、なんとか2人入れた。真っ暗で何も見えず、私は掛け布団2枚の下に潜り込んだつもりが、 2枚とも敷布団で、とても重くて仰向けのまま身動きがとれないまま時間が過ぎた。 隣ではバカップルが寝息を立てている。憤慨。