このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

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ボロ屋敷見取り図はこちら

 謎だらけのボロ屋敷。部屋数は10個。住人は12人、と噂に聞いていたが、なかなか住人と顔を合わせる事がない。年も明けて学校もスタートしたというのに バッパー生活のだらけグセが抜けず、昼前に目が覚めて「今日も学校さぼってしまった・・・」というだらけた日々を過ごしていたせいもあるだろう。 昼前に起きて、顔を洗ったり、ご飯を食べたりしても、家の中で住人と会うことがなかった。そう、ここはバッパーじゃないんや。バッパーでの騒がしくも楽しい生活に慣れていた私には、少し物足りなく、寂しいボロ屋敷での生活のはじまりだった。

 なかなか住人と顔を合わすことはないが、住んでいるうちに、何度か顔を合わせる人も増えて来た。かと言って、バッパー生活のようにフレンドリーな感じではない。そこはまあ日常生活をこの家で送っている人達なのだから仕方ないのかもしれない、と 少しガッカリしながらも、この家の住人達と少しずつ、フレンドリーな感じになっていこうかと思いながら日は流れた。そして気付いたことは「この家って・・・あの汚かったはずのバッパーより汚いやん」という認めたくもない事実だった。バッパーでは、スタッフが毎日掃除をする。しかし このボロ屋敷では、掃除・ゴミ出し当番が週にたった1回、トイレ・洗面・キッチンの掃除と、ゴミ出しをするだけなのだ。さすがオーナー別居型シェアハウス。 オーナーがうるさく言わないため、たった一人を除いて、誰ひとりとせず熱心に掃除をする者がおらず、キッチンには汚い皿が散乱し、ゴミは溢れかえり、洗わぬままの鍋が転がり、洗面所にはカビが生え、リビングのテーブルには食べカスがちらかり、シャワールームにももちろんカビ、トイレの便器からは手が出てきそうな勢いの怖さが漂う汚さだった。 この不衛生さがボロ屋敷の恐ろしさを、さらに際立たせていた。

 引越して来た日に、玄関の階段で荷物を運んでくれた学生服姿の青年は、ハワードと言うイングリッシュネームを持つ、中国人だったのだが、彼は綺麗好きで、学校から帰って来ると、自分で購入した花をリビングにある花瓶に飾り、 鼻歌を歌いながら、キッチンの皿を片付け、リビングをホウキで掃き、テーブルを拭き、一杯になったゴミを片付ける。当番でもないのに。彼のおかげで、シェアハウスは、なんとか持ちこたえていた。しかし、他の怠惰な住人達にとって好都合な状態は長くは続かなかった。 ハワードはこの後、この家を去ることになる。なんでも、国の正月があるため、親元に帰るというのだ。一時帰国のような事を言っていたが、彼は荷物をまとめて一月下旬にボロ屋敷を出て行ってしまった。私は5ヶ月間、ボロ屋敷に住んだが、その中でも一番キャラの濃い住人はハワードだった。 たった1ヶ月ほどの付き合いだったが、その個性は強烈なものだった。だいたい、彼は学生服姿の青年のように見えるが、実は32歳(?)だったのだ。若作りを自ら好んでしているようだ。しかし学生というのは正解だ。大学へ通っていて、将来は医者になると言っていた。そして、彼は声が大きい。ボロ屋敷見取り図の、「9」の部屋がハワードの部屋だったのだが、 リビングでテレビを見ていると、少し開いたその部屋の扉から、度々「ジーーーーーーーザス!!!」という雄たけびが聞こえたものだ。一体、彼の身に何が起こったというのだろう。いつだって、雄たけびは、ジーザス。何かが起これば、ジーザス。

 そして、ちょっとお節介な面もある。私が自炊しようと心に決め、慣れぬ料理を作ろうと、まな板で玉ねぎを切っていたら「そのまな板はそっちじゃなくて反対側の面で切るんだよ!」とハワードは言い放ち、「ユーアーイノセント!!」と一笑した。イノセントってどういう意味やったっけ?と言われた事を理解していない私を見て、分かり易く訳すかのように「like a child」(子供のようだね)と言い放った。 英語で抵抗する言葉を持たない私は、顔で笑って心で怒る他なかった。そして、見取り図「1」の部屋の住人のひとり、ムーンが料理をしている時のこと。バングラディシュ人のムーンは、いつもカレーを作っているのだが、一口にカレーと言っても、中にいれるものは日々違う。野菜の日もあれば、ラムの日もあれば、その他にもいろいろバリエーションがあるようだ。 ちょうどその日は、野菜をメインとしたカレーを作ろうとしていたムーンは、懸命にニンジンを切っていた。そこにやってきたハワードは「どうしてそんなにニンジンを切ってるんだ。食べすぎじゃないか。」と言い放った。優しいムーンは、あらまー、また言ってるわーと軽く流していると、ハワードは「like a horse」(馬のようだね)と言い放った。彼は何かに例えるのが好きらしい。それを聞いた、ムーンとレイカちゃんは大笑いしたと言う。 これは、「10」の部屋に住む、この家の住人、レイカちゃんの証言に基づく話です。

 彼は、しかし、とってもいい奴だった。彼が去ってからも、レイカちゃんと度々彼の話題に大爆笑したものだ。

さあ、こんな綺麗好きな彼がいなくなったら、シェアハウスは一体どうなるのだろう・・・。悲惨な状態になることは目に見えていた。汚い皿を洗おうとする者もおらず、溢れかえる流し台。汚いトイレ。もう書くのも嫌になるのでやめておくが、とにかくヒドイものだった。 こうなってはオーナーもだまってはいない。レント(家賃)を集金に来るたびにキッチンの汚れた皿を見て、「誰だ、洗ってない奴は!」と住人に問い掛け、注意をしてはいたが、一向に直らず、困り果てたオーナーは掃除業者を委託することに決めたようだ。 しかし、そのおかげで、私たちのレントが週、1ドル値上がりしてしまった。掃除業者のおかげで家は、なんとなく綺麗になったが掃除業者が来るのは月に一度。いつまでたっても、汚い家でしかなかった。そしてハワードの存在の重要さを皆が思い知ったのだ。しかし、もう二度と「ジーザス!!」という雄たけびを聞くことはできない。

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