このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

鎖陽城のガイド

  この城の名前を殆どの人は知らないと思うが、ここに行く日本人もそんなに多くないと思う。何故なら日本からのツアーではあまり行かない所のようであるし、行くとすると個人で行くことになる。行くには安西から個人でタクシーをチャーターして行くしかない。鎖陽城は敦煌の隣の街である 安西 の郊外にある城の遺跡である。西安ではなく、安西である。

  安西のホテルを確保してから、タクシーをチャターして楡林窟と鎖陽城に行くことにした。安西の郊外はどこも砂漠である。砂漠というよりは土漠である。ゴビ灘とも言うのかもしれない。あたり一面は、植物が殆ど生えていない砂礫の平らな大地であったが、平らさもいろいろで、平らな所がずーっと続いていたかと思うと、ごつごつとした土の塊が続く風景もあった。

  所々に村が見えるが、西域の町に特有な背の 高い樹(ポプラ?)の並木 が、葉を落としたまま寒々と立っていた。村は砂にまぶされて様に灰色にくすんでいる。その村でミネラルウォーターを買い込んだら、中国で全国的に有名な『ワハハ』と言う鉱泉水がここでも売っていたので、ちょっとビックリした。

  乾燥し起伏のない土地を40k位も走った所で、前方に草木が一本もない 荒涼とした感じの山並 みが見えてくる。その山の間を縫って行くと、低い潅木の繁る草原があった。運転手の話では、この潅木が秋になると真っ赤になってとても綺麗なのだとか。今は四月の始めなので残念ながら枯れ枝が見えるだけである。更に進んで安西からは7,80kの所で、平らな砂の大地に一本の裂け目が見えてきた。それがどうやら河のようである。さらに近づくと 河の崖が 見えてきて、崖には穴がうがたれていた。これが目的地の一つである楡林窟であるらしかった。


  何故こんな所にと思うような隔絶された場所である。この平らな大地には珍しく、崖があるからと言う理由なのであろうか? 祈りの為の場所だからなのだろうか? ガイドに案内された入った窟の中は凍えるほど寒かった。見物人は誰もいなくて私一人であった。ガイドは標準語を話すので唐代のとか、元の時代のとか、飛天がどうの、絵が退色して、などは分かったが、全体の話の流れは聞き取れなかった。でも一応分かったような顔をして説明は聞いていた。

  楡林窟から更に7、80kの所に鎖陽城はある。そこへは楡林窟からは来た道を戻り、横に逸れてから乾いた平らな大地をまた走るのである。枯れた草が生えていて、遠くには羊を放牧してのが見えた。 道端に水がある所 もあったがどうやらこれは塩水であるらしかった。時々村が見えるが、貧しそうな様子で、大地から与えられる恵みはほんのわずかの様に思えた。対向車は殆ど通らない寂しい砂利道である。この広い広い空の下を、タクシーに乗った私と運転手だけが走っているのだと、しみじみと感じる広さである。

  そんな道を通ってやっと辿りついたのが鎖陽城である。荒涼たる風景、つまり、木は低い潅木だけの剥き出しの大地。そこに烈風が吹きぶさんでいる。水の気配は全く無い乾いた風景である。そこに唐の時代の城のかなり大きな遺跡が、城壁などハッキリと残っていた。そんな文明から隔絶された所にも人は居た。5、6人の男達が何かやらゲームをして遊んで居た。私の他に観光客は全く居ないので、ここで金を巻き上げられたら困るなと不安が横切ったが、そんなことも無く入場料を払うと若い女性が二人現われ案内をしてくれた。一人はガイド見習のようであった。


  鎖陽城は以前は別の名前であったが、何かがあって鎖陽城と言う名前に変わったと説明してくれた。何で名前が変わったかは風が強くてハッキリ聞き取れなかった。聞き取れないのは、ハッキリ言えば風のせいではなく私の中国語の能力の問題であったが、風は相当強かった。 ガイド の説明は標準語であった。電気は来ていないが風車があって、風のあるときはテレビが見えるとのことであった。気になった水のことを聞いてみると、汚染の無い地下水が出ると言っていた。

  こんな人里離れた荒涼とした所に、若い女性がいるなんて、何故か少し感動した。娯楽も無く、美味い食べ物のあるレストランも無く、おまけに回りの人もほんのわずかである。楡林窟の若いガイドにしても同じであるが、町まで7、80kもあるなんて日本ではチョット考えられない 寂寞感が漂う職場 である。しかしどのガイドも標準語の訓練は受けているガイドであった。運転手よりはかなり上手い標準語であった。

  後で聞いた話しであるが、鎖陽の意味は、漢方の薬草の一種のことで、篭城戦の時に食べ物が無くなり、そこに生えている鎖陽を食べたので、鎖陽城と名前が付いたとのことである。

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