このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください




トラブル・メーカー



(写真は本文とは関係ありません。)


   ■ 米軍とのバトル

 Y駅は近くに米軍基地を控えており、米軍兵の不正乗車に手を焼いていました。土曜日に六
本木へと繰り出していく米兵たちは、日曜日の始発電車で帰ってきます。彼らは大抵六本木か
らの最低運賃の切符しか持っていませんでした。六本木駅からY駅までの間には、いくつか中
間改札があるのですが、早朝で相手が外人ということもあり、黙って通しているようでした。

 こういう「お得な情報」は基地内であっという間に広がります。正規の切符を買わない米兵は
急激に増えていきました。

 私は当時土曜日泊まり、日曜日泊まり明けでした。早速土曜日泊まりのメンバーで対策が練
られ、私は助役に、「お前は大学出だから少しは英語しゃべれるだろう?お前が外人との交渉
をしろ!」と命じられました。

 そんなことを言われても、英語は大の苦手です。仕方なく次の日曜日にプロジェクトは実行さ
れました。朝一番の下り特急が到着するのを、私はホームで待ちかまえました。案の定夜通し
遊んだらしい米兵がふらふらと何十人も降りてきます。私は手早く発車合図を出し、後方確認
を終えると、走って改札口に向かいました。

 改札口は一つを除いて締めてありました。いつもは強引に改札口を通り抜けていく米兵も、
いつもと状況が違うことに気が付いたらしく、おとなしくしています。私は改札口の後ろに回り、
乗り越し運賃を払う米兵をチェックしました。逃げようとしたり、英語で何かわめいたりして改札
担当者の手に負えなくなると、私がフライ旗を片手に出ていって交渉を始めます。

   いのこう:「グッドモーニング・サー。どちらからですか?」
   米  兵:「ヘイ・ボーイ。六本木からさ。ほら切符も持っている。」
   いのこう:「運賃が足りません。乗り越しの差額を払ってください。」
   米  兵:「なんだって?いつもこの切符で通っているんだぜ!」

 押し問答が続きます。「払え。」「払わない。」と言い合った挙げ句、

   米  兵:「払えって言ったって、ほらドルしか持ってないんだよ。」
   いのこう:「じゃあドルで結構です。○○ドルいただきます。」
                                   (結構高いレートでふっかける)
   米  兵:「何だって、そいつは高いじゃないか?」
   いのこう:「何ならMPを呼びましょうか?」

 だいたいの米兵は、「MP」と聞くと、ぶつぶつ言いながらも運賃を払いました。

 1か月ほど続けた結果、ほとんどの米兵から正規運賃を取ることに成功しました。

 こうして米兵対策は勝利に終わった、と言いたいところですが、そうはいきませんでした。ある
日曜日、一番電車が着いても米兵の姿がありません。昨日の夜は大量に出かけていくところ
を見ています。「どうしたのかなあ…?」と思っていると、隣のS駅から電話。

 「お前らの取り締まりが厳しいから、みんなこっちで降りてきたよ。二人じゃどうしようもなくお
手上げだった。」

 結局バトルは米兵の勝利に終わったのでした。


   ■ 決算用端末機との闘い

 研修中は、「当社の駅の売上管理業務は電算化されている。」と得意げに教えられたもので
すが、実際配属されてみるとこれが大変な代物でした。

 なんと1971年に導入されたシステムがそのまま使われていたのです。売り上げを集計する決
算用端末機は、Y駅に置かれていましたが、これがT芝製の「RT−100」という端末機でした。

 キーボードはありますが、テンキー以外にはカバーが掛けられています。操作にはテンキーし
か使わないのです。どうやって使うかというと…、

   1.まず、自分がしたい処理を機械に指示する「パンチカード」を棚から探し出す。

   2.そのパンチカードを決算用端末機にはめ込んで、読みとらせる。

   3.ちゃんと読みとってくれれば、たった一行のディスプレイに、例えば、「キンガクヲ
     ニュウリョクシテクダサイ」という表示が出る。

   4.指示された内容をテンキーで入力する。

   5.「ショリヲウケツケマシタ」と表示が出る。

 これを処理ごとに繰り返していくのです。

 入力した結果は、「○○帳票の出力」というパンチカードを決算用端末機に読ませて、帳票を
出力して初めて分かります。

 入力した金額が違っていたりすると、「金額の修正」というパンチカードを読ませてまたやり直
しです。

 これにはさすがに驚きました。さらに毎日使うようなパンチカードは使い古され、擦り切れてい
て、読みとりの最中に「脱線」してしまい、読みとってくれないこともよくありました。

 本社とはNTT回線でつながっているのですが、売り上げの集計などはどの駅も同じ時間帯に
行うので、本社のホストコンピュータに負荷がかかって、処理を実行しても答がなかなか帰って
こないことがよくありました。

 早朝にホーム立硝をしながら、合間を見て一枚の帳票を出す、という仕事があったのです
が、端末が古いからか、本社のホストが混んでいるのか、いつまで経っても帳票は出てきませ
ん。私は、ちょうど決算用端末機の上にあった放送装置とホームのテレビモニター・列車接近
表示灯を見比べながら、事務所から放送を流し、列車が接近してくるとホームに駆け上がって
出発合図を出し、列車が無事に発車していくとまた端末機に向かう、という作業を続けなけれ
ばなりませんでした。

 一枚の帳票が出てきたのは、1時間も経ってからでした。


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いまだから言える失敗談
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