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第2章 天皇
第2章は「天皇」に関する規定を置いた。
初期の改正案では、「天皇」の他に「大統領」を置き、いわば「共同代表取締役」として、共に代表権を持つ存在としていた(よって、通常の用語法からすれば、「天皇」も「大統領」も共に「国家元首」である)。しかし、元々「大統領」という職名は立憲君主国としては異例であり、またわざわざ両者に代表権を付与するのでは却って混乱を招くので、第2版では国家元首は「天皇」のみとし、「大統領」は行政府の長たる「総理大臣」に”格下げ”した。第4条(天皇)
天皇は日本国の元首にして日本国及び日本国民統合の象徴であり、この国家憲章の規定に従って日本国の正統性の権威及び伝統を代表し、政府各部を通じて、国民に由来する主権の行使を認証する。この憲法では、天皇は「元首」であると明記した。現行憲法においても国家元首が誰であるかは論争のあるところであるが、元々この論争は「元首」の定義によって結論が異なるものであり、現行憲法の天皇がある側面では「元首性」を有しまた別の側面では「元首性」を有しないことを考えると、明記するかどうかは結局政治的な論争であるといえる。ただ、元首を会社法における代表権の問題(代表取締役)として類推すると、現行憲法であっても外交文書や大使の認証、条約の公布等に御名御璽を記している以上、少なくとも「表見的」「対外的」には我が国の代表取締役、即ち元首であるといえよう。よって、本改正私案では、天皇を元首であると明確に規定することにした。もっとも、それによって何等かの具体的な政治的権力が生じるわけではないので、立憲主義の原則に弊害が生じることはない。
※初期の改正案
「天皇は日本国の君主にして日本国及び日本国民統合の象徴であり、日本国の文化的代表であって、この国家憲章の規定に従って日本国の正統性の権威及び伝統を代表し、政府、議会、裁判所を通じて、国民に由来する国家主権の行使を認証する。」第5条(皇族の地位の法的不可侵性)
天皇その他の皇族は法的に不可侵の地位にあり、何人も天皇その他の皇族を訴追することはできない。この規定は何も天皇神格化を求めているのではない(それを明らかにするために、「法的に」の一言を挿入してある)。「不可侵にして〜」「何人も〜」の部分は、立憲君主国家では一般的に認められている(現憲法下でも認められている)天皇無答責のことを規定しているに過ぎない。なお、現行憲法上も、判例上、天皇・皇族は刑事・民事裁判について訴えの対象とはならないこととされている。
第6条(皇位継承)
皇位は万世一系のものであって、その継承は、国会の議決した皇室典範の定めるところによる。皇室の伝統による特則である。皇室典範を改正すれば、女帝も可能である。
第7条(摂政)
天皇が成年に達しないときは、総理大臣は、皇室典範の定めるところにより、摂政を置く。
2 摂政は、天皇の名において、国事を遂行する。
3 摂政は、就任に先立ち天皇に対して、次に掲げる言辞でもって宣誓を行わなければならない。
「私(宣誓者氏名)は、国家及び天皇に対し忠誠であり、国家及び全国民の利益のため、誠実に自らの職務を遂行し、あらゆる点について日本国国家憲章を擁護し、かつ遵守することをここに厳粛に宣誓する。」
4 摂政の地位にある者は、その地位にある間、総理大臣の同意がなければ、訴追されない。ただし、これがため、訴追の権利は消滅しない。摂政に関する規定の改正。天皇の未成年者後見人(法定代理人)であるが、一般人のそれと異なり、親権者になるわけではない。
第8条(関白)
天皇が海外渡航、疾患その他の事由により国事を遂行できないときは、総理大臣は、皇室典範の定めるところにより、関白を置くことができる。
2 関白は、天皇の名において、国事を遂行する。
3 関白は、就任に先立ち天皇に対して、次に掲げる言辞でもって宣誓を行わなければならない。
「私(宣誓者氏名)は、国家及び天皇に対し忠誠であり、国家及び全国民の利益のため、誠実に自らの職務を遂行し、あらゆる点について日本国国家憲章を擁護し、かつ遵守することをここに厳粛に宣誓する。」
4 関白の地位にある者は、その地位にある間、総理大臣の同意がなければ、訴追されない。ただし、これがため、訴追の権利は消滅しない。現在「国事行為の臨時代行に関する法律」で規定していることを、歴史的用語にそった「関白」とした。
第9条(叙勲)
天皇は、法律の定めるところにより、総理大臣の助言と同意を得て、称号、位階、勲章その他の栄典を授与する。現行憲法と特にかわるところは無い。但し、初期の改正案にあった「大統領が定める」は削除した(立法によっては、国会が叙勲の実質的決定を行うこともあり得るので)。
第10条(国事行為)
天皇は、総理大臣の助言と同意を得て、次の各号に掲げる国事に関する行為を行う。従来、日本国憲法において、内閣総理大臣の「助言と承認」となっていたものを、「助言と同意」と改めた。「承認」は上位機関が下位機関に与えるものであり、代表権を持つ国家元首の行動を「承認」するのはおかしいからである。もっとも、だからといって天皇に自由裁量権を与えたわけではなく、総理大臣は宮内庁に対する上位機関として宮内庁を指揮監督するし、政治的影響等を考慮して国事行為については、予め同意を要する。また、天皇の政治的行為の一切の責任は、総理大臣が負う。
一 国家憲章の改正または廃止、臨時統治憲章、法律、政令、戒厳、非常事態宣言、条約並びに条約の批准書を認証し、公布すること
憲法廃止や臨時統治憲章に関する規定を追加した。
二 国会を召集すること
無論、現行憲法と同じく(但し、現行憲法は行政府の長が合議体の「内閣」であるのに対して、この憲法私案では独任制の「総理大臣」)、総理大臣の助言と責任により実施する。
三 衆議院を解散すること
第2項及び第3項は、当然議会召集権者、議会解散権者による召集、解散手続きがあってはじめて行われる。
四 国会議員の選挙を公示すること
五 総理大臣を指名する選挙で選出された者を、総理大臣に任命すること
六 衆議院の指名した者並びに参議院が指名した者をそれぞれ衆議院議長又は参議院議長に任命すること現行憲法では、両院の議長は「任命」にはなっていないので、これもまた「任命」とした。
七 参議院の同意に基づいて、総理大臣の指名した者を最高裁判所判事総長に任命すること
初期の改正案では、最高裁「総裁」は総理大臣の「任命」した者を「認証」することとしていたが、それでは司法府のトップのみが一段低い「認証官」扱いになってしまうので、総理大臣(行政府の長)や議長(立法府の長)と同等に、総理大臣の「指名」した者を「任命」することにした。
八 国務大臣、国軍の幹部、会計検査院総裁および法律で定めるその他の官吏の任免並びに特使、大使および公使の信任状を認証すること
九 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除および復権を認証すること
十 外交文書を認証すること
十一 外国の特使、大使および公使を接受すること
十二 外国の特使、大使および公使の信任状を受理すること
十三 皇室の伝統に則り、儀式を行うこと現行憲法では明記されておらず、ために皇室の伝統行事の一部が「政教分離原則に反する」といった主張が為されているので、儀式についてはこれを「皇室の伝統に則」るものとし、「政教分離原則」(一般法)に対する例外(特別法)を定めた。これによって、現行憲法で皇室の私的行事(よくよく考えてみれば、「皇室の私的行事」というのは、例えば御一家の内輪の演奏会だとか食事会といったものが該当するのであって、皇位継承の儀式は全く公的な行事だと思うのだが)とされてきたものも「公的行事」として実施できるようになった(現行憲法でも可能とする学説もあるにはあるが)。
十四 外国の元首および要人と会談すること
十五 国内外を視察し、式典に出席すること現行憲法では明記されておらず「公的行為」とされていた国内視察や式典出席を明記した(そうでないと、学説によっては式典出席すら「国事行為ではなく、憲法違反である」とするものが出てきてしまうので)。
なお、初期の改正案にあった「国軍を親閲すること」は、改正私案第2版では第15号に統合した。十六 法律の定めるところにより、総理大臣の副署を得て、元号を制定する詔勅を発すること
元号を明記する。なお、初期の改正案にあった「総理大臣の副署を得て、第81条の13に定める国民投票を実施する詔勅を発すること。」は、改正私案第2版では第1号に統合した。
第11条(総理大臣の責任)
天皇の公務に関する行為には、総理大臣の助言と同意を必要とし、その責任は全て総理大臣が負う。現行制度と同じ。文化的代表で「君主」である天皇は、政治的代表で「元首」である大統領の助言と同意を必要とする。
なお、現行憲法と初期の改正案では存在した「皇室財産」に関する規定については、第8章「財政」にまとめたので、ここからは削除した。
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