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■有効な国際貢献へ見直し急げ
PKO5原則見直しへ、与党三党合意(1月3日)
報道によると、自民・自由・公明の与党三党は、我が国が国連平和維持活動(PKO)に参加する上で憲法との整合性をはかるために導入された「参加五原則」を見直してゆく方針を固めたという。現行のPKO協力法上、我が国がPKO活動に自衛隊を派遣するには(1)紛争当事者の停戦合意、(2)日本の参加への紛争当事者の同意、(3)中立性の維持、(4)以上三原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合、日本独自の判断で撤収する、(5)武器使用は生命または身体を防護するため、やむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合にできる、との5原則が掲げられており、現実に我が国が求められている平和維持活動に参加するための障害となっていた。今回、従来慎重だった公明党内で柔軟論が出てきたため、合意に至った。
従来、政府は、例えば東ティモール問題に関して、五原則のため国連東ティモール暫定統治機構(UNTAET)に参加できないとの態度をとり、PKO協力法上の「人道的な国際救援活動」条項を適用して、インドネシア領西ティモールの難民輸送活動にのみ参加してきただけに、この方針決定は極めて有益なものであろう。問題は、元々こうした安保自衛隊問題に慎重な公明党が果たして本気で見直しに取り組んでくるのかということと、経済再生その他の重要課題の影にかくれてしまいがちなこの手の「隠れた重要課題」がきちんと処理されるか、ということである。■正しい世論の後ろ盾が外交にカードを与える
中国、日本からのODA20周年を記念して式典開催(1月5日)
報道によると、我が国からの政府開発援助(ODA, Official Development Assistance)が開始されてから今年で20周年になるのを記念して、中国(中華人民共和国)政府が近く、北京で「感謝の式典」を開くという。中国側が我が国の経済援助に関して「感謝の意」を示す行事を行うのは、初めてのことになる。これは、最近の我が国で、核開発や有人宇宙飛行計画等を推進する中国に対して「対中ODA無用論」が生まれ、それを受けて、我が国外交当局が、対中ODAを日中関係の温度がただちに反映する単年度方式に改めることになったからであるという(今までは、5年方式)。
97年の江沢民国家主席来日時の「歴史問題」批判が我が国世論で広く反発を受け、外交カードとして役立たなくなって以来、中国の対日姿勢には変化が見られたが、今回のような明確な変化は、結局中国の「歴史カード」なるものは、我が国世論の良識が確保されればある程度効果を減じ、逆に我が国外交当局に一つの大きな武器(盾)を与えることになろう(中国の核実験の際、我が国外交当局は、結局国民世論の後ろ盾を欠いたがために、対印、対パ、対仏のような強硬措置に出ることが出来なかった)。そしてその結果、中国の無理な要求には常識的に判断して「NO」と言える、「大人の日中関係」を構築することも可能となろう。■在外公館警備でも「世界の常識」に一歩
在外公館警備官、制服・階級呼称可能に(1月6日)
報道によると、在外公館警備対策として自衛隊(及び警察)から赴任している警備官に、今年から、従来認められていなかった制服着用と階級呼称が認められることになったという。これは、現地政府との警備情報交換等に制服・階級が有用だと認められたためで、それまでは一旦自衛官を退職した後出向していたため「自衛官」の身分を持てなかった。
誠に結構なことであり、むしろ今までそれが認められなかったことに、政府当局や外務省の危機管理意識の不徹底さが見えるぐらいである。しかし、それでは、これらの警備官は、実際にはどこまで「警備」を担当するのであろうか。警備官の職務権限の詳細を知らないので論評し難いが、少なくとも日本側の警備責任者としてある程度の予算と人員(現在は、1国1〜2人ずつに過ぎない)を持ち、武器を携行することを認められなければ、真の意味での危機管理は達成されまい。
アメリカは、自国の大使館の警備に、少数だが武装した海兵隊部隊を配備している。■指揮すべき戦略、対象の整備を忘れるな
次期防で指揮艦導入の検討(1月9日)
報道によると、訪米中の瓦力防衛庁長官は、記者団との懇談の中で、次期中期防衛力整備計画においては自衛隊の情報通信分野の強化を目指し、海上自衛隊に、アメリカ海軍の「指揮艦」のような自衛艦を導入したい、との意欲を示したという。
現在、アメリカ海軍は、第2(大西洋)・第3(東太平洋)・第5(中東)・第6(地中海)・第7(西太平洋)の各艦隊の旗艦に、1万トン以上の大型の指揮艦を当てており、第7艦隊と第2艦隊に専用設計の「ブルー・リッジ」級揚陸戦指揮艦(LCC。満載排水量18732トン)を(第7=「ブルー・リッジ」、第2=「マウント・ホイットニー」)、第3艦隊と第6艦隊にドック型輸送揚陸艦を改造した指揮艦「コロナド」(AGF。16912トン)と「ラ・サール」(14650トン)を配備している。一方、海上自衛隊では、自衛艦隊・護衛艦隊旗艦には旧式の護衛艦を改造したものを配備しているに過ぎない(護衛艦隊の各護衛隊群旗艦は、6000トン級のヘリコプター護衛艦が担当している)。
この計画は、実現されれば海上自衛隊の総合指揮能力を高め、また陸上の施設にかわって、有事・災害の際、政府を安全な洋上指揮所へと移すことも出来よう。
もっとも、アメリカ海軍がこうした艦艇を保有しているのは、その全世界的な戦力投射力のためであり、換言すればアメリカの安全保障戦略に基づいて建造されたものである。我が国の安全保障の(真剣な)関心範囲を、アメリカとの協調の下、全世界、あるいは全アジア地域にまで広げるならともかく、そうでない場合には、長官も指摘するような「政府専用艦」として企画したほうが有用であろう。少なくとも、強力な指揮艦が指揮すべき洋上機動部隊、あるいはそれを支えるだけの法制度が出来ない限り、単なる「お買い物」になってしまう危険性はあるだろう。■新幹線の危険を過度に煽るな
新幹線の窓ガラスにひび(1月9日)
報道によると、東海道・山陽新幹線の500系車両(JR西日本所属)の窓ガラスに、ヒビが入ったものが発見されたという。
もっとも、最近の新幹線にまつわる報道は、昨年のトンネル事故以来、正確性を欠いているといわなければなるまい。何故ならば、今回報道されたような窓ガラスの損傷は、列車が走行中にバラスト(砂利)を跳ね飛ばす等して日常的に発生しているものだからであり、最近になって突然、問題が発生したわけではないからである。
無論、トンネル等の構造物の損傷は重大な問題だが、そうした問題と、日常的に発生し、対策も施されている窓ガラスの問題を同一視するのは、衡平に欠ける報道であるといえよう。■大丈夫か、自由党
青木宏之代議士、日本人拉致問題を否定する発言(1月11日)
報道によると、99年12月、超党派の村山訪朝団に参加していた自由党の青木宏之代議士が、CSテレビの報道番組で「(北朝鮮が)拉致したという証拠知ってるの?」「(拉致疑惑は)日本が勝手に言っていること」等と発言し、これに「拉致被害者家族連絡会」等各組織から強い抗議を受けていたという。
外国人に対する地方参政権付与法案の提出といい、青木代議士の発言といい、最近の自由党は「おや?」と思うことが度々あるが、今回の青木代議士の発言は、思わず別の政党出身者かと思ってしまったほどのショックがあった。無論、拉致問題も(自衛隊を北朝鮮に派遣して日本人収用所を急襲するのでもないかぎり)外交的な決着によってしか解決できない以上、かけひきの一つとして多少の食糧支援や譲歩が必要な場合もあろう(最も善意に解釈すれば、青木代議士の発言の真意はこうしたところにあったのかもしれない)。しかしながら、譲歩は明確な目的のために為されるべきであり、単に「日朝国交正常化」だけを念頭において譲歩を繰り返せば、結局は北朝鮮側も「日本は拉致問題を重視していない」と判断してしまうであろう。少なくとも、これまでの日朝交渉における我が国の譲歩には、(「ノドン」弾道ミサイルに怯えるあまりか)そうした悪い傾向が見てとれる。そして、青木代議士の発言は少なくとも表面上は、これまでの日本側の「目的なき譲歩」を北朝鮮側に立って助長するものであり、到底適切とは言い難いのである。しかも、拉致問題に取り組む「救う会」等からの抗議に対しても当初は頑なな態度をとる等、不適切な対応を繰り返していたのは極めて問題である(その後、謝罪)。■残された最後の改革はどうなるのか
司法制度改革審議会、開会(1月18日)
報道によると、政府の司法制度改革審議会(会長・佐藤幸治京都大学教授<憲法学>)は、会合を開いて本格的な議論をはじめたという。今回の審議会では、「陪審制(事実認定に一般市民が参加する裁判)」、「参審制(事実認定及び法律審にも一般市民が参加する裁判)」の導入、裁判官の「法曹一元化」、弁護士業務の開放が主な論点となるが、法曹三者(司法行政権を持つ最高裁判所、検察を持つ法務省、弁護士で作る日本弁護士連合会)にはそれぞれに利害関係があるために、議論がどこまでまとまるかは不明と言えよう。このテーマは、立法(政治改革)、行政(行政改革)に続く重要な改革であるが、報道機関の注目度は今一つのようである。
■奇抜なアイデアを書けばよいというものではない
「21世紀日本の構想」懇談会、報告書提出(1月19日)
報道によると、総理大臣の私的諮問機関である「21世紀日本の構想」懇談会は、18日、小渕首相に報告書を提出したという。
しかしながら、報道された内容を見る限り、この報告書をそのまま実現するのはとても不可能であるといわなければなるまい。
この報告書が出した最も奇抜なアイデアは、「義務教育の週3日制導入」と「英語の第二公用語」であった。これは、インターネットの普及に伴う国際対話能力(グローバル・リテラシー)の必要性、及び教育内容の自主選択幅の大幅拡大を企図しているとされるが、果たして、これらの政策が我が国の繁栄と発展に、本当に寄与するのであろうか。そもそも、義務教育を縮小するのと同時に英語教育の充実をはかるのは不可能であり、必ずや国語、算数といった科目が犠牲にされるであろうことは火を見るより明かである。現在、ただでさせ「ゆとり教育」による大学生の学力低下が問題視され、「心の教育」の充実が叫ばれているというのに、である。また、義務教育の削減は即ち公共福祉サービス水準の切り下げであり、一方では学習指導要領の枠組みを大幅に越えた激烈な受験競争を生むと同時に、ほとんど学力の無い子供達を大量生産することになりかねない(第一、週3日の義務教育では、憲法に定める「教育を受ける権利」を阻害することになろう)。
その一方で、こと話が国家安全保障の分野になると、こうした「思い切った」アイデアはほとんど見られず(教育分野と同等の「思い切った」アイデアを出そうという意欲があれば、例えば空母機動部隊4個の整備であるとか、米国に依存したままの核抑止政策の見直しといった事項も当然含まれるであろう)、当たり前の議論しかなされていない。また、「総合安全保障」的観念を強調しすぎたがために、我が国が真っ先に取り組むべき軍事的安全保障の重要性がぼやけてしまった。
結局、この報告書は、今我が国が抱える問題の所在をほとんど把握し得ないままに策定されてしまったというべきではないだろうか。
■経済や解散に惑わされず憲法論議を
憲法調査会、国会に設置(1月20日)
報道によると、20日召集された第147通常国会に、先の国会法改正によって成立した両院の憲法調査会が設置されその活動を開始したという。会長には、衆議院側は超党派議員連盟の会長だった中山太郎代議士(元外相)が、参議院側は村上正邦自民党参院議員会長が互選された。また、調査会設置に反対していた日本共産党、社会民主党もそれぞれ参加することにしたという。
正に、戦後半世紀以上が経過してようやくの議論のスタートを切ることが出来る瞬間であろう。
もっとも、最近の政局の混迷を背景に、現在、調査会は専ら議案の決定など手続的な事項を処理しており、本格的な論議はまだまだ先(おそらく、腰を落ち着けて議論できるのは衆議院解散後であろう)のことである。また、かつて「論憲」がタブーだったころは、9条改正の環境整備のために唱えられた「新しい人権」等の創設が提唱されたが、今や、かえってそうした「傍論」が、現行憲法の最大の問題点である第9条(及び危機管理)に関する議論の重要性を薄めてしまう危険性すらあるといえる。両院の憲法調査会がしっかりとした視野で議論を進めることを期待したい。■時代遅れの党の時代遅れの党首選
社会民主党党首に土井たか子氏三選(1月21日)
任期満了に伴う社会民主党の党首選挙が行われ、現職の土井たか子党首以外に立候補者が無かったことから、土井氏の無投票再選(三選)が決まった。
今回、党首選挙当日土井氏は社会主義インター正副議長会議に副議長の一人として参加するためにリスボン市(ポルトガル)に出張していたというが、党首選挙に候補者が不在でも当選できてしまうこの構造に、現在の社民党の沈滞が象徴されていると言えよう。自民党、民主党の総裁選、代表選は、候補者が各3名出馬し報道各社の扱いも公職選挙なみであったが、社民党の場合は単純なニュース扱いであった。
そもそも土井党首は、村山富市前党首の後をついで党首に復活し「自社さ」連立政権を経験した後、衆議院総選挙、参議院選挙で軒並み敗北を重ねており、本来であれば責任をとってとっくの昔に辞職していてしかるべきである。自らも「自社さ」連立政権を経験している以上、現在の「自自公」政権を「数合わせ」などと批判できる立場にははなく、55年体制ばりの旧態然とした政治手法(護憲、反政府)は既に国民から見放されている。しかも、そうした自らの姿は一切免罪しつつ、自民党批判に汲々としているのでは、党勢が弱まらないわけがない。労働組合や農村部票に依存し、むしろ自民党と同質的体質をもったこの政党は、もはや歴史的役割を終えたといえるのではないだろうか。■吉野川北岸の自治体の意思は?
吉野川可動堰住民投票で反対派が圧勝(1月23日)
報道によると、建設省が建設を計画している吉野川可動堰の建設の是非を巡る徳島市の住民投票で、建設反対派が投票総数の90.14%、有権者数の49.57%を獲得して圧勝したという。今回の住民投票は、条例に基づいて、投票率が50%を越えないときは投票用紙を焼却処分することとなっていたため、建設推進派は住民投票のボイコットを、反対派は投票を呼びかけていた。
もっとも、このようにして推進派がボイコット運動をしたため、投票総数の9割が建設反対票だったというのもある意味で当然の結果であり、徳島市の民意はむしろ全有権者に占める反対派の割合である49.57%を基礎として考えるべきであろう。加えて、この可動堰は現在の「第十堰」より下流にある吉野川沿岸の自治体にも関係するものであって、南岸の徳島市の投票のみを持ってただちに建設中止を決定することは出来ないはずである(北岸には藍住町、更に旧吉野側下流には北島町、松茂町がある。また、第十堰自体は徳島市ではなく南岸隣の石井町内にある)。逆に、徳島市とはいっても、吉野側流域ではない同市南部の住民の民意までも反映させる必要があったのかどうかもまた疑問である(無論、財政的負担があるという点では南部の住民も無関係ではないが)。
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