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健論時報
  2000年3月  


法に従った当然の決定だ

 オウム真理教に観察処分決定(2月1日)
 報道によると、法務省の公安審査委員会(委員長・藤田耕三元広島高裁長官)は、31日、「教団は再び事件を起こす危険性があり、継続して活動を観察する必要がある」等として、「無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律」(団体規制法、平成11年法律第147号)に定められた3年の観察処分を決定したという。処分の期間である3年は規制法上最長期間にあたり、教団は今後、出家信徒、在家信徒の別と出家信徒の位階、教団作成のホームページにかかわる接続業者名等を報告しなければならず、公安調査庁と警察は立入検査の権限が与えられる。
 一連の規制問題を巡ってオウム側は、これまで松本智津夫被告を教祖から開祖に変更する、教団名を「アレフ」に変更する、殺人を肯定する教義「タントラ・ヴァジラヤーナ」を破棄する、地下鉄サリン事件の責任を認めて賠償を行うと発表する等、処分を回避するためにあらゆる欺瞞行動をとってきたが、今回、公安審査委員会がそうしたオウム側の表層的な対応を無視して、あくまで教団の本質から処分を決定したことは真に妥当であったといえるだろう。
 もっとも、オウムの転入を巡って各地の自治体が違法な拒否行為(住民票拒否、児童就学拒否)に出ていることは問題で、凡そ法治主義の観点からして問題である。今回、団体規制法(もっとも、この法律も、対象をオウムのみに限定していることは処分的立法としてその限りで違憲性の疑いがあるが、適用対象をカルト宗教団体一般に拡大すれば解決することである)に基づく処分が決定された以上は、各地の自治体にとっても、改めて法に基づいた行政活動を再開すべきときではないだろうか。

■極右のレッテルを貼っていないか
 オーストリア右派政権にEUが制裁発動(2月4日)
 報道によると、オーストリアでナチスに肯定的な右派政党・自由党が連立政権入りしたことに対して、欧州連合(EU)は外交関係を制限する等の制裁措置を発動したという。元々、オーストリアでは、戦後社会民主党と国民党が長期にわたって政権を維持(ここ13年間は両党の「大連立」政権)した結果国政の様々な局面で制度疲労が明らかになっており、今回、総選挙で右派の自由党が多数の議席を獲得した背景には、こうした既存政党に対する批判があったことは明かである。自由・国民両党は1月下旬から連立政権樹立にむけて協議に入っており、クレスティル大統領も最終的には政権樹立を認めるものと思われるという。
 なるほど、確かに「既存政党に対する批判」として自由党のような右派政党が支持を伸ばすというのは、かつてナチス党がワイマール体制下で支持を拡大した事例と酷似しており、ハイダー自由党党首(ケルンテン州首相も兼務)が外国人労働者に対する排斥やナチス政権に好意的な発言をしたというのは、近隣諸国にとって不愉快なことなのかもしれない。しかし、ハイダー党首を巡る報道の中には、(朝日新聞で紹介された例として)「ナチス体制下の労働制度は整備されていた」との発言が「ナチス体制は整備されていた」と捻じ曲げられて報道されるといった例もあり、明かな過剰反応も見て取れる。ナチズムの問題点が大衆を煽動して多数の専制を生み出すことにあるとすれば、こうした報道の姿勢は、「ナチズムに対抗する」といいながらその手法において実はナチズムと大差無いのではないだろうか。EUの制裁が、そうした事態を冷静に見極めた上でとられた、真に「民主制を擁護する」ものであることを願いたい。

■石原都知事と行動力を競え
 太田房江氏が大阪府知事に当選(2月6日)
 報道によると、横山ノック前知事の辞職に伴う大阪府知事選挙は6日に投票が行われ、即日開票された結果、無所属で新人の元通産省審議官・太田房江氏(自民、民主、公明、自由、改革ク推薦)が、関西大名誉教授・鯵坂真氏(共産推薦)、学校法人専務理事・平岡龍人氏(自連、自民党大阪府連推薦)、羽柴誠三秀吉氏の3人を退けて初当選したという。太田氏は、連立与党ばかりか民主党の推薦もとりつけ、また大阪の労働団体、経済団体双方からの支持も受けて、最終的には他候補を破った。
 太田氏は近畿通産局部長や岡山県副知事などを歴任して行政経験も豊富とされ、その点からは大阪府政の今後に期待したいが、女性とは言え官僚出身の落下傘候補であるのもまた事実であり、今後東京都の石原都知事のような革新性が見られるかどうかはわからない。また、横山ノック前知事がセクハラ問題で辞職しただけに、今回は相乗りの候補者を女性として選挙民にアピールした(性別が争点となった)というのであれば、それはむしろ究極的には男女平等の原則に反するものと言えよう。

■海上警備も「世界標準」へ
 海上自衛隊に特別警備隊新設へ(2月15日)
 報道によると、昨年の北朝鮮不審船事件を受けて防衛庁は、同様の不審船事件が発生した際立入検査を行うための特別警備隊を、来年3月から広島県江田島町に新設・配備することにした。この部隊は約60人の規模(部隊長は二等海佐を充てる)で自衛艦隊司令部直轄とし、警察(特殊急襲隊)・海上保安庁(特殊警備隊)の特殊部隊同様、自動小銃や機関銃を装備し専門的な訓練を受けて、海上警備行動が発令されたときは警察官職務執行法に基づき船舶に立入検査をするという。
 昨年の不審船事件では海上自衛隊は立入検査を実施することはなかったが、いざというときは現行体制のままでは護衛艦の乗員を臨時に武装させて突入させる他なく、小火器による戦闘の専門的な訓練もされていなかったことから、却って不審船側の反撃で多数の犠牲者が出る危険性があった。今回、一連の不審船対策の一環として、こうした検査専門の部隊が創設されることは、こうした被害を未然に防ぎ、また海上自衛隊独自の責任で検査を行うことができるようになるという意味でも画期的である。

■覚悟を決めて自己改革せよ
 女性監禁事件で虚偽発表・職務怠慢(2月17日)
 報道によると、新潟県三条市で小学校4年生当時拉致された女性の監禁事件の捜査を巡って、新潟県警察本部が、捜査のミス等を隠蔽するために、虚偽内容の記者会見を行っていたことが明かになったという。この事件では、犯人の無職佐藤宣行容疑者(37)(新潟県柏崎市)が逮捕されているが、県警は佐藤容疑者の犯罪前歴の照合をしなかったり保健所からの出動要請を拒絶する等していたという。更に、その後の発表によれば、女性が保護された当日、県警トップの小林幸二本部長(虚偽発表を承認)は、神奈川県警の不祥事後各地に派遣されていた警察庁の特別観察の責任者である関東管区警察局長と飲酒・遊興していたことも発覚している。
 今回の新潟県警の一件は、昨今の警察に対する信頼を一層大きく傷つけたものといえるだろう。それは、(神奈川県警の如く)単に「身内の不正を庇う」という不祥事であれば、まだ「呆れた」といって関係者を処分すれば済む問題であるが、今回の一件は、それに加えて警察の捜査に対する熱意が必ずしも高くないことが明かになってしまったからである。無論、そういった職務怠慢は極めてまれなケースと思いたいが、いずれにせよ信頼回復は今後の警察側の動きにかかっている。

■時代錯誤の台湾脅迫は許されない
 中国、統一白書で武力行使に新条件(2月22日)
 報道によると、21日に発表された中国(中華人民共和国)の台湾問題に関する白書で、従来「武力行使の条件」として示していた「独立宣言」「外国軍隊の介入」に加えて「交渉の無期限拒絶」を加え、これに対して台湾(中華民国)側が反発しているという。台湾の総統選挙やアメリカの「台湾強化法案」を控えて、統一に有利な候補者が当選するようにとの圧力と見られる。もっとも、この問題については、台湾独立派が支持する野党・民主進歩党(民進党)の陳水扁候補や、「特殊な国と国との関係」を打ち出した李登輝現総統の後継者である与党・中国国民党の連戦候補は勿論、中国側が最も期待しているとされる無所属の宋楚瑜候補でさえも、白書に反発して台湾の民主主義を尊重するよう呼びかけたという。

■健全な言論空間を期待する
 党首討論、正式にスタート(2月23日)
 報道によると、衆参両議院の国家基本政策委員会は、先の国会で2度実験された「党首討論」(クエスチョンタイム)を正式に行った。この日の討論では、小渕恵三首相側も「反論権」を行使して野党側に反撃し、民主党の鳩山由紀夫代表に対して「それでは民主党の財政政策とは何だ」と聞き返したり、逆に鳩山代表が首相元秘書官のNTTドコモ株不正取得問題を取り上げたりしたという。
 「党首討論」の最大の眼目は、やはり政府(首相)側の「反論権」の存在である。従来、野党側は、専ら政府側の議案や予算に反対意見をぶつけてさえいればよく、マスコミの討論番組で逆質問を受けて追及されることはあっても、国会の場では基本的には「責めたい放題」であった。無論、反論に怯えて必要な追及が出来ないのは問題であるが、そうかといって、反論されないのをいいことに、「批判のための批判」のような無責任な批判があったことも否めないだろう。「健全な言論」活動は、攻守それぞれが対等な立場で議論が出来る場があってはじめて維持されると言えよう。

■実際は無理だろうが・・・
 越智金融相、「手心」発言で辞職(2月26日)
 報道によると、越智通雄金融再生担当大臣(金融再生委員会委員長)が今月19日に、栃木県の地元金融機関幹部らとの会合の席で、「金融監督庁の検査がきつければ、わたしのところにどんどん持ってくるように」等と、「検査に手心を加える」とも受け取れるような発言をしていたことが24日明かになり、越智金融相は責任をとって辞職したという。
 金融再生委員会は金融監督庁の上位にある独立行政委員会で、国家行政組織法(昭和23年法律第120号)3条2項に規定する合議体の行政機関であり(金融再生委員会設置法<平成10年法律第130号>2条)、委員は国会の承認を得て内閣総理大臣が任命している。そして、設置法第16条によれば、金融監督庁は「国家行政組織法第三条第三項ただし書の規定に基づいて、金融再生委員会に、金融監督庁を置く。」というかたちで規定されており、ちょうど警察庁が、警察法上「国家公安委員会に、警察庁を置く。」(第15条)、「警察庁は、国家公安委員会の管理の下に、第五条第二項各号に掲げる事務をつかさどり、及び同条第三項の事務について国家公安委員会を補佐する。」(第17条)と規定されているのと同じである。従って、(ちょうど国家公安委員長が警察庁に対して具体的な処分に関して単独で警察庁長官を指揮監督できないのと同様に)金融再生委員長といえども金融監督庁長官に対して「手心を加えろ」とは命令できないのであるが、そうした発言によって国の内外に政治的な悪印象を与えてしまったのはたしかであろう。 

■情報防衛戦線、異常あり
 省庁、企業のパソコンソフトにオウム製品(2月29日)
 報道によると、警視庁公安部の調査によって、防衛庁、文部省、建設省、郵政省、足立区役所といった行政庁や有名企業約80社が使用していたコンピューターソフトウェアの中にオウム真理教関係企業「ソルシステムズ」社製のものと思われるものが発見され、データがオウム側に流出していたという。これによってオウム側は、防衛庁等が発注したネットワーク用ソフトでセキュリティーをくぐりぬける「抜け道」を用意していた他、人事等企業の管理職数千人分の個人情報を持ち出していたとされる。
 それにしても、今回の事件では、中央省庁の「情報防衛戦」に対する、軍事防衛に匹敵する「平和ボケ」度が改めてうき掘りになったといえよう。なにしろ、例えば防衛庁では、陸上自衛隊の駐屯地20カ所を結ぶネットワークの通信システム開発を間接的に依頼していたというが、オウム真理教のような(世界の情報テロリストの平均からすれば)アマチュアレベルの集団ですら国防のかなり重要な部分に浸透することができたのであるから、米国や北朝鮮、中国といった国家の秘密情報機関は我が国政府の情報通信網内部に既に侵入したと思わねばなるまい。こんな体たらくでは、来るべき21世紀の国防は極めて不安で、むしろ無闇に情報化していない発展途上国のほうが情報管理上は安全ということになりかねないだろう。 


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