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■外交・安全保障改革を止めてはならない
自公保三党連立の森内閣発足(4月5日)
報道によると、首相の急病(4月2日入院)を受けて小渕恵三内閣が総辞職(憲法第70条に基づく)したのを受けて、5日、国会は衆参両院で首班指名選挙を行い、自由民主党の森喜朗前幹事長が新たな内閣総理大臣に指名された。一方、2日に小沢一郎党首率いる自由党が連立政権から離脱したことを受けて、新たな内閣は自由民主党、公明党・改革クラブ、及び自由党から分裂して結成された保守党(扇 千景党首、野田 毅幹事長。二階俊博運輸大臣を含む)による三党連立内閣として発足した。分裂した自由党は衆議院19議席、参議院5議席の勢力に転落し、参議院では「参議院の会」と統一会派「参議院クラブ」を結成したという。
元々、今回の連立政権解消劇は、自自政策合意に盛り込まれた外交・安全保障分野での改革(有事法制整備、PKF参加凍結解除、等)が進展しないこと(加えて、最大の理由として、自自公三党による選挙協力協議が進展しないこと)に小沢一郎党首側が苛立ったことが発端となっており、更に、その背景には、政権運営における公明党の発言権増大がある。以前の自自公政権は、まずは自自両党の連立のあとに公明党が参加した形であり、連立にあたっての政策協議も行われているが、新しく発足した自公保三党連立政権は事実上自公政権であり、保守党は数の上で政権を支えるブリッジ政党に過ぎない。これまで、国旗国歌法、ガイドライン関連法、憲法調査会設置、党首討論、比例代表定数削減といった成果を挙げて来た現政権の魅力は、大きく減少してしまったというべきであろう。
しかも、我が国にとって必須の外交・安全保障改革を推進してきた自由党がここへきて大きく2つに分裂してしまったことは、これらの改革が今後停滞し兼ねないことを意味している(自民党は、公明党に対する配慮をより強めるであろうから)。例えば、防衛庁を国家行政組織法3条に定める「省」に格上げする「国防省設置法」案も、もはや総選挙前の成立は困難であろう。しかし、90年代の「改革論議」が終息し、わずかに教育改革や司法改革が叫ばれる中で、外交・安全保障政策に長期的理念を与えるという外交・安保改革は未だ完成しておらず、21世紀の我が国の繁栄を考えるにあたりこの分野を避けて通ることは出来ない。
当面、新しい森内閣は衆議院の解散総選挙(6月ごろとされる)までの政権運営を担当することになろうが、一旦選挙を経て政権基盤を安定化させた後は、この外交・安保改革を停滞させることなく続けてもらいたい。■緊張緩和は本物か
日朝国交正常化交渉、平壌で開催(4月10日)
報道によると、韓国(大韓民国)と北朝鮮(自称「朝鮮民主主義人民共和国」)の両政府は、韓国の金大中大統領が今年6月12日に北朝鮮を訪問し、平壌で金正日総書記との南北首脳会談を行うことを同時に発表した。これは、1994年7月に開催される予定だった南北首脳会談(北朝鮮・金日成主席の急死で中止)以来のもので、開催されれば分断以来初のこととなる。
最近、北朝鮮は各国との関係改善に向かって動いており、イタリアと外交関係を樹立したり、カナダとの樹立を模索したりしている。我が国との関係でも、ちょうど4日から7日まで日朝国交正常化交渉が平壌で開催されており、朝鮮半島情勢は、表面的には緊張緩和に向かっているように思われる。仮に、このまま南北間の対話が拡大すれば、両国の将来的な統一も視野に入り、東アジアにおける我が国の安全保障環境は大きく変化するであろう。
しかし、果たしてこの緊張緩和は本物なのであろうか。たしかに、最近の北朝鮮外交の動向は、孤立を回避すべく各国との交渉拡大に努めており、本格的な政策転換があったとも受けとめることが出来る。だが、依然として朝鮮半島のDMZ(非武装地帯)には膨大な軍事力が維持されており、また北朝鮮の外交の場での態度は依然として非妥協的である。防衛当局は、一時的な「平和攻勢」に油断して、緊張緩和が本物かどうかを慎重に判断することを怠ってはなるまい。■発言にはスマートさを求めたい
石原慎太郎都知事、自衛隊式典で「三国人」発言(4月11日)
報道によると、東京都の石原慎太郎都知事は9日、陸上自衛隊練馬駐屯地で開催された創隊記念式典に参列し、災害時の治安対策として自衛隊の治安出動を要請する等発言したが、その中で、かつて在日韓国人を差別して呼んだ言葉を使い、問題になっているという。
挨拶の中で石原都知事は、「不法入国した多くの三国人、外国人が非常に凶悪な犯罪を繰り返している」とし、「大きな災害が起きたら、もっと大きな騒擾も予想される。警察の力を以っても限りとし、災害だけでなく、治安の維持も大きな目的として遂行していただきたい」と発言して、大震災の際は自衛隊に治安出動を要請することを明言。また、国家と軍事力について、「今日の政治を眺めると、北朝鮮に拉致されたいたいけな少女一人を救うこともできない。政府の責任であるとともに国民一人一人の責任というものが、結束していない証左であるのではないか」「大きな三(陸、海、空)軍を使う日本で初めての市民のための、都民のための、国民のための演習」を9月3日に行うことで「国家にとっての軍隊の意味というものを、国民に、都民に、しっかり示していただきたい」と語り、自衛隊の意義を強調している。(後述する「三国人」の部分は別として)発言は全く妥当であり、我が国の改革すべき問題点を明確にした点で画期的である(阪神大震災のときは、危機管理体制の確立に無関心だった当時の村山富市首相の出遅れにより、自衛隊出動が大幅に遅延し多くの人命が失われた)。一部報道の論調の中にはこれらの部分を問題視するものがあるが、例えば自衛隊を「軍」と表現しているといっても、自衛隊が「軍であるかどうか」という議論は法的議論であって、都知事の発言が全て法律用語でなければならないというきまりはどこにも無い。自衛隊が軍事力である以上、普通の用語法としてこれを「軍」と呼ぶことのほうがむしろ当然であろう。また、「治安出動を求める」との発言を問題視するむきもあるが、治安出動した自衛隊は警察官職務執行法に則って治安維持にあたるのであって、ちょうど自衛官を臨時に警察官として動員するのと同義である。かつての関東大震災当時の戒厳令(緊急勅令による行政戒厳)の如く、軍事指揮官が行政・警察の全権を掌握するのではなく、特段問題視すべきことではない(警察官職務執行法が問題だというのであれば、「平時」でも同じく問題である)。第一、警察官職務執行法は、3年以上の懲役にあたる凶悪な犯罪を犯したと疑うに足る相当の事由が無ければ武器を使用して危害を加えてはならない、と定めており、関東大震災当時とは全く異なるのである。
問題は「三国人」発言であるが、もし在日韓国人の方々の中で、この言葉に不快感を覚えた方がいたとすれば、知事の発言はやはりスマートさを欠いたものと指摘されてもやむを得まい(もっとも、私自身は、「三国人」あるいは「第三国人」という言葉にそのような意味合いがあるとは知らなかったが)。少なくとも、こうした用語を使うことで、在日韓国人の中に(関東大震災当時の)朝鮮人虐殺事件との関連から「日本人にはまだそんな差別意識があるのか」といった誤解を生じやすくさせてしまったことは問題である(仮に、問題の部分を単に「不法入国の外国人」とだけ言っておれば、朝鮮人虐殺事件等は連想されなかったであろう)。但し、そうだからといって、例えば「他民族に対する偏見に満ちた意図的な言辞であり、排外主義による扇動行為にほかならない」といった市民団体の過剰な反発は当らない。他人に対して差別的発言をするのはよくないが、他人の発言を、真意も考えずに差別発言だと過激に決め付けるのは同じくらいスマートさを欠くものである。
自衛隊の意義や外国人犯罪の急増等、今回の石原都知事の発言も又極めて的確な話題ばかりであった。実際、外国人犯罪を抑止するということは、単に日本国民の利益となるだけでなく、合法的に暮らしている多くの在日外国人の安全にもまた貢献することであろう。その内容を生かすためにも、以前の西村真悟防衛次官「核武装検討」発言と同様、言葉には不要な摩擦を避けるスマートさを求めたい。■やっとのことで、第一歩を踏み出した
森首相、首相臨時代理を予め指定(4月14日)
報道によると、森喜朗総理大臣は14日、危機管理の徹底を図るため、内閣法9条に基づいて、首相臨時代理に青木幹雄官房長官、河野洋平外務大臣、中山正暉建設大臣(国土庁長官兼務)、深谷隆司通商産業大臣、瓦力防衛庁長官を順に指定した。これは、2日に小渕前首相が脳梗塞で倒れてから13時間の間首相不在となったことの反省からで、更に今後の内閣法改正も示唆したという。
首相の臨時代理の指定は、東西冷戦時代からその必要性が叫ばれていた危機管理の初歩の初歩であり、冷戦終結後10年以上が経過して、やっと今日に至ったとの感がある。小渕政権の「最後の成果」とも言えるが、あまりにも遅かった改革であると言わなければなるまい(首相が倒れたのではじめて実施された、というのも悲しい話である)。これまで臨時代理の指定が行われなかったのは、首相臨時代理は政治的には「副総理」とされ、場合によっては強い政治的指導力を持ちかねないからであったが、これは即ち、永田町の権力抗争のために国家の危機管理を蔑ろにしてきたということである。加えて、一部報道機関が「戦争につながる」等として国民的関心を抑えてきたこともこうした危機管理体制の整備を遅らせてきたのであって、例えば朝日新聞などが「危機管理不足」を紙面で指摘する等というのは「何をいまさら」といった気がする。■他に選択肢はあったのか
衆参予算委員会で「政権の正統性」追及(4月26日)
報道によると、25・26日に開催された衆参両院の予算委員会で、野党各党から青木前首相臨時代理、森現首相の就任の経緯について問いただす質問が続出し、政府与党側が対応に追われているという。
森内閣誕生の経緯については、一部新聞報道などでも「密室の中で決定された」等として批判されているが、いずれも説得力に欠ける批判と言わなければなるまい。
そもそも、今回の森内閣誕生は、小渕前首相の急病という緊急事態を受けてのことであり、後継の森喜朗首相も、とりあえずのリリーフ登板として就任したというのが事実である。国家の最高責任者を長時間に渡って欠く(あるいは、臨時代理のままでいる)ことは問題である以上、早急な新首相選定が必要であったのであり、その意味で政権与党幹部が緊急の会談で後継を決定したのはやむを得なかった。そして、他に有力な首相候補があったわけでもない以上、臨時登板の首相に政権与党の幹事長が昇格するというのは、民意と大幅にズレるわけでもなく至極妥当な選択であろう(むしろ、他に選択肢は無かったというべきであろう)。このように、他に妥当な選択肢も存在しない中で、単に「密室の中で決定された」という事実を以って「けしからん」等というのは、組閣事情を全く考慮しない「批判のための批判」に過ぎないのではないだろうか。
野党側は、このような瑣末な議論で予算委員会の質問時間を使うよりも、もっと重要な国政上の懸案について議論すべきであった。
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