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■「弱者」に対する甘い対応
西鉄高速バス、17歳少年に乗っ取られる(5月3日)
報道によると、3日午後1時頃、福岡県の九州自動車道大宰府インターチェンジ付近で、佐賀発福岡ゆきの西日本鉄道の高速バス(20人乗車)が、刃物で武装した17歳の少年に強奪され、山陽自動車道小谷サービスエリアまで逃走したという。その後、犯人は、4日未明の機動隊による突入作戦で逮捕され、乗客は15時間ぶりに全員開放されたが、うち女性1名は犯人に切りつけられて死亡した。
それにしても解せないのが、解決に至るのに何故ここまで時間を要したのか、ということである。刃物を持っていたとはいえ相手はたかだか17歳の少年1人であり、しかもその犯行は計画性を欠き、テロ集団による犯行とは比べ物にならないほど単純であった。無論、私自身が現場を見てきたわけではないので、さすがに同乗していた男性客に「犯人を制圧せよ」とまでは要求できないが、しかし車内に残された唯一の男性であった運転手に対しては、何がしかの対応策を取って欲しかったという思いが強い。更に、警察側も、犯人が精神科に通院歴のある少年ということもあってか、かなり長い時間を費やして説得工作を行っていたようだが、テレビ報道を見る限り少年側はスキだらけであり、遠距離から脚を狙う等して狙撃し、短時間の内に検挙することもできたように思われる。少年は明らかに「3年以上の懲役にあたる」犯罪を犯している以上、警察官職務執行法第7条によっても武器を使って危害を加えることは可能なはずであり、警察比例の原則に必ずしも反しているとは言えない(たしかに、単純に武器だけに着目すれば「刃物を持つ少年」に対して「狙撃銃」を使用するのは比例原則違反に見えるが、少年は単に刃物を振りまわしているのではなく、それによって閉鎖的なバス内部で多数の人命に脅威を与えているのであり、脅威の緊迫性の観点からすれば問題は無かろう)。結局、ここでも「人質となった側の人権」と「犯人の人権」とでは、犯人のそれが優先させられてしまったということだろうか。■問題が多い落選運動
森総理大臣、市民団体の落選運動を批判(5月12日)
報道によると、森総理大臣は11日午前、市民団体「主権者・市民連帯・波21」が国政選挙で落選させたい候補者名リストを公表する等の「落選運動」を展開していることについて、官邸で質問に答え、「選挙妨害じゃないか。いろいろ相談してみる」等と述べて、自民党として対応を検討する考えを示したという。なお、この市民団体は、10日に22名の「落選議員リスト」を発表している。
お隣韓国で実施されたこの「落選運動」は、その選定基準等が公開され、衡平なものでなければ、単なる選挙妨害行為あるいは政治活動の一環、ネガティブキャンペーンに過ぎないということになってしまう。また、「落選運動」はその性格上、積極的な政策を提示することなく、「あの議員はダメ」とばかりに消極的な選択をするだけの運動なのであって、国民の政治意識改革の手段としても疑問が残るものである(なお、この問題については、 6月号本文記事 にて詳説する予定です)。■中国への要望は当然だ
河野外相、中国外相に対してODAの使途等を巡り会談(5月12日)
報道によると、河野洋平外務大臣は10日夜、来日した中国(中華人民共和国)の唐カセン外相と会談し、中国の軍事費の大幅な伸びに対する日本政府の懸念を伝えた上で、最近の中国の経済成長と併せて、同国に対する政府開発援助(ODA)を見直していく考えを正式に表明し、両国間で協議することを提案した。これに対して唐外相は、「国民にODAの効果が分かるように努力する」と述べたという。また、この席上唐外相は、尖閣諸島に「日本青年社」が神社を建立したことについて「中国人民の感情を損ねた」と批判したが、河野外相は「尖閣諸島は日本固有の領土であるという立場は繰り返し申し上げている」と答えたという。
戦略核戦力や海軍力の増強を続け、宇宙開発にまで乗り出している中国に対するODAの供与は、我が国の「ODA大綱」の4原則との兼ね合いもあって、かねてから問題視されてきたが、これまでのところ政府は、中国に対する建設的関与を行って孤立化を防ぐという観点から、軍事力増強問題についてはほとんど黙認して来た(中国の核実験や台湾海峡での軍事演習に対する抗議も腰が引けていた)。それが、今回、河野外相がこのような形で我が国のODA大綱を踏まえた毅然たる態度をとるに至ったことは、「ODA大綱」制定以来の日本のODA外交の成長を示すものであり、歓迎すべきことであろう。加えて、河野外相がこうした対応に出ることが出来た背景には、政府与党の間でこの問題が認識され、国民世論を代弁するかたちで中国に対する懸念が伝えられて、外交当局に一つの政治的支持が与えられたからに他ならないことも注目すべきことである。つまり、他の諸問題と同様、外交問題においても、結局は国民世論の支援が果断な政策実行にとっては不可欠な要素なのである。■環境保護のためだろうと不法行為は許されない
警視庁、グリーンピース・ジャパン事務所など家宅捜索(5月12日)
報道によると、今月9日に、東京都豊島区の区立施設に侵入してビル外壁にゴミ焼却場反対の横断幕を掲げたとして、過激派環境保護団体「 グリーンピース 」の活動家ら4人が建造物侵入容疑で逮捕された事件で、警視庁池袋署は11日、渋谷区代々木にある「グリーンピース・ジャパン」事務所や、中央区晴海の晴海ふ頭に停泊中の同団体保有船「虹の戦士(レインボーウォーリアー)号」(オランダ船籍)等を家宅捜索したという。
グリーンピースといえば、昨年も、火災事故でニューカレドニアに緊急寄港(事故の影響で、乗組員1人が自殺)していた我が国の調査捕鯨船団の出港を実力で阻止する事件を起こしており( 「健論時報」2000年1月 参照)、健全な環境保護団体であるとは到底認められないものである。市民的な主張を繰り返すのも結構だが、その前に自らが襟を正して市民法秩序を守らなければ、結局のところ広汎な支持は得られまい。■自分が殺されたらどうするのか
16歳少年、同学年の少年を暴行殺害する(5月13日)
報道によると、埼玉県入間市の大山智之さん(16歳、県立越生高校2年生)が今月6日外出したまま行方不明になった事件で、埼玉県警狭山署は13日、出頭してきた同市内の水晶研磨業アルバイトの少年(16歳)を死体遺棄容疑で逮捕した。出頭した少年は「(大山さんを)殺して捨てた」「むかつくやつだからみんなでボコって(暴行して)やった」等と供述し、狭山市内の雑木林に遺体を埋めたと供述しているという。
またしても、あまりにも軽薄な動機による殺人事件である。しかもこの事件の場合、暴行の結果死亡したものとして(当初から殺意が無かったことから)、逮捕容疑は殺人ではなく傷害致死となり、少年審判を受けるにしろ刑事裁判相当として検察官に逆送致されるにしろ、無期懲役(18歳未満の少年に対しては、少年法及び「子供の権利条約」上死刑を課すことが出来ない)等の極刑に処されることはまずないのである。犯行に加わった少年には、「自分が殺されたらどうするのか、どう感じるのか」ということ、被害者少年が罪なく「死刑」にされたことを改めて強く認識してもらいたい。■十分な成果と不十分な展望と
小渕恵三前内閣総理大臣、順天堂医院で死去(5月14日)
報道によると、脳梗塞のため昏睡状態に陥っていた小渕恵三前内閣総理大臣(元総理府総務長官、官房長官、自民党幹事長、副総裁、外相 )は、14日午後4時、入院先の順天堂大学付属順天堂医院(東京都文京区)で死去したという(享年62歳)。密葬は今日と明日行われ、更に6月には内閣・自民党合同葬が計画されている。「自自公」党首会談を終えた直後の4月2日未明に、首相公邸で体調を崩して緊急入院して以来の闘病生活だった。
小渕恵三前内閣総理大臣に対して、衷心から哀悼の意を表したい。
小渕内閣を振り返ってみると、組織犯罪対策法(通信傍受、証人保護)、ガイドライン関連法(周辺事態法、自衛隊法改正)、国旗・国歌法、住民基本台帳法改正法、 憲法調査会 設置・党首討論導入(国会法改正法)、閣僚数の削減、各省庁政務次官の強化・政府委員制度廃止(政府参考人制度導入)、戦後初の海上警備行動発令、衆議院比例代表定数の20削減、そして景気の回復等、その政権前半期には特に多くの成果が挙がっており、これだけの法改正・制度導入を一度に成し遂げたことは自自公連立政権そして小渕首相の際立った成果である(なお、このうちいくつかは、自由党の貢献が大きい)。これは、前の橋本龍太郎政権にも増して大きなものであり、上述した河野外相のODA見直し発言も、小渕首相の残した成果と言ってよかろう。但し、その一方で、政権後半からは、相次ぐ警察・自衛隊不祥事や自由党の連立離脱などでイメージダウンは避けられなかったが、これも、前半期にあまりにも華々しい成果が挙がりすぎたことの反作用という面もあり、全体としての小渕政権はかなりの仕事をしたということが出来る。もっとも、自由党の離脱で政権は事実上自公連立政権となってからば、「九州沖縄サミット」以外にはその後の展望も開けず、これといった成果も挙がっていないばかりか、公明党の影響力増大が一層批判されるに至っている。更に、首相が外務大臣時代に署名した「 対人地雷全面禁止条約 」の批准も、政権の大きな汚点の一つであろう。その意味では、小渕政権が残した枠組みの最終的な評価をするのは、まだ時期尚早なのかもしれない。■瑣末に過ぎる「正統性」論議
青木官房長官と医師団の会見の食い違いで野党が追及(5月15日)
報道によると、14日の小渕前首相の死去を受けて行われた順天堂医院医師団の記者会見で、小渕前首相と青木幹雄官房長官が4月2日に病院内で会談した際「有珠山噴火もあり、よろしく頼む」と青木長官に首相臨時代理への就任を求めたとされる件に関連して、治療にあたった水野美邦同大教授は「長い文章を明瞭に話すのは難しいと推定している」「(青木長官の説明を聞いて)多少びっくりした」等と話していることから、野党・民主党(鳩山由紀夫代表)は、「青木長官の発言には信憑性が無く、小渕内閣の総辞職の無効確認を求める行政訴訟を提起する」という(実際、18日には青木長官を官名詐称と公文書偽造・同行使の容疑で東京地検に告発した)。
しかし、果たしてこの問題を重大視することにいかほどの意味があるというのだろうか。なるほど、確かに前内閣の総辞職は青木首相臨時代理の主催する閣議で決定された事項であるが、憲法第70条の定めに従っても結果は同じであり、仮に臨時代理指名にあたって瑕疵があったとしてもその時点で治癒される。これは、無論法理論上の問題や危機管理上の問題としてはかなり重要であるが、さりとて内閣総辞職の無効確認訴訟が必要なほど重大な問題とは到底思われない。青木長官と小渕前首相との会談も、他に同席者が居ない以上立証のしようが無く、水掛け論に終わるだけであろう。前述の水野教授も、「前首相の意識状態は極めて清明な意識状態というほどではなかったが、十分質問に対して答えられた」とし、意思能力まで喪失していたわけではないことを明らかにしている以上、小渕首相が(青木官房長官が発言したその通りの文言でしたかどうかはともかく)代理指名の意思表示をすることは可能だったのであり、青木長官に「発言の脚色」という多少の政治的責任があったとしても、代理指名自体は不適法とは言えまい。はっきり言って、小渕前首相がどのような表現を使ったのかということはどうでもよいことなのである。野党側も、青木長官の発言が二言、三言食い違っていることに目くじらを立てて瑣末な議論をしている暇があったら、総選挙の政策づくり(例えば、憲法改正論や安保政策)へ向けて精力を集中したほうが遥かに建設的ではないだろうか。■説得するなら言葉は選ぶべき
森喜朗総理大臣、神道政治連盟の会合で「日本は神の国」と発言(5月16日)
報道によると、5月15日に開かれた「神道政治連盟国会議員懇談会」の席上で森首相は、「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるということを国民にしっかりと承知していただく」等と演説し、与野党の反発を招いている。既に民主・共産・自由・社民の野党4党は揃って森首相の退陣を要求しており、17日の参議院本会議では、野党側の質問に一旦回答を拒否したものの結局「誤解を生じた」と陳謝した。また、戦前政府による弾圧を経験した創価学会を支持母体とする公明党も、連立与党の一員として釈明を求めたという。
恐らく、森首相は、「日本の国は、全国に八百万の神がいるという伝統的宗教感覚を有する国であり、更に皇室は、それらの神々を最終的に束ねてお祭りして来た、そんな国である」「現在の教育において足りないのは、そうした伝統的感覚も含めた宗教心を持たせる教育ではないだろうか」といったことを述べたかったのであろう。事実、発言の後段では、「神様であれ、仏様であれ、それこそ天照大神であれ、神武天皇であれ、親鸞聖人であれ、日蓮さんであれ」、「心に宿る文化」としての「宗教心」を「学校でも社会でも家庭でもいうことが日本の精神論からいえば一番大切」ではないか、と提言しており、一つの妥当な見解ということが出来よう(もっとも、公立学校における宗教教育については、疑問もあるが)。「日本は神の国」云々の部分についても、少なくとも私がしたような表現を使っていれば、これほど大きな政治問題になることも無かったに違いない。
しかし、不幸なことに、首相はこれを「日本はまさに天皇を中心としている神の国である」と極めて短く言い切ってしまったがために、逆に様々な「別解釈」を生み、混乱を招いてしまった。野党側が指摘するように、これを「国家神道による祭政一致の天皇主権国家」を意図したように解釈することは十分可能であるばかりか、むしろそう解釈され、厳しく批判されるのが自然であろう。当然のことだが、何かの主張を説得したいのであれば、まずは余計な誤解を生みそうな場合は説明を尽くし、又は言い方を変えるべきだし、そのほうが最終的な説得には成功するものである。その点、今回の一件では、発言が自民党そのものに与えた影響も含めて、森首相が内閣総理大臣あるいは自由民主党総裁としての資格を厳しく問われてしまうのも止むを得まい。
なお、今回の森首相の発言は又、単に戦前の国家神道云々という問題だけでなく、我が国における宗教と政治の関わりについて幅広い議論を呼ぶ可能性があるが、これは連立与党にとって不利な状況であろう。例えば、本来であればもっと反発してもよさそうな公明党が18日になって追及を一先ず終えたのは、連立与党の一員という立場もさることながら、自身が事実上、創価学会という宗教団体の政治部門であり(形式的には「政教分離」を明言しているが)、「神道政治連盟」や「同国会議員懇談会」への過度な批判は自身への批判となって戻ってくる可能性があるからであろう(「公明党」も、結党当初は「創価学会政治連盟」、のちに「公明政治連盟」と称していた)。■自らの市民法違反を棚に上げていないか
「グリーンピース」、強制捜査を違法として東京地裁に準抗告(5月19日)
報道によると、11日に警視庁公安部と池袋署が国際的な過激派環境団体「グリーンピース」の所有船「虹の戦士(レインボー・ウォーリアー)」号を家宅捜索したことに関連して、「グリーンピース・ジャパン」は19日、東京地裁に対して準抗告を行った。これは、9日に同団体の活動家ら4人が東京・上池袋のごみ焼却施設に不法侵入し、ダイオキシン問題に関する横断幕を張り出す行動に出たためで、4人は建造物侵入罪で現行犯逮捕されている(その後、略式起訴され罰金7万円を宣告。19日に釈放された)。
今回の事件における活動家らの行動は、明白な住居侵入罪・不退去罪(刑法第130条:正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。)であり、更には威力業務妨害罪(刑法第234条:威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による=3年以下の懲役又は50万円以下の罰金。)や公務執行妨害罪(刑法第95条①:公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役又は禁錮に処する。ごみ焼却場は豊島区の施設であり、職員が精神的労働にも従事する公務員であれば該当する)にも該当する可能性もある。なお、住居(建造物)侵入罪は、人の住居及び人の看守する建造物・艦船の平和・安全(平穏)に対する侵害・脅威を罰する罪であって、実際に「建物」の内部に入らなくても、周囲の敷地や屋根に立ち入っただけで成立するのであって、「建造物に侵入してはいないが、建造物侵入として略式起訴とな」ったという「グリーンピース」側の主張は誤ったた知見に基づくものと言う他ない。「グリーンピース」側は「良き環境政策は、市民の自由な意見なくしては有り得ない」等と主張しているが、自らが「非暴力」であることを理由として市民的法秩序に反する行動に出ているのに、専ら市民的自由だけを享受すべく警視庁の行動を不当逮捕呼わばりするのは、如何にも手前勝手な矛盾する態度ではないだろうか。
なお、準抗告の中で「グリーンピース」側は、①日本語を解さない「虹の戦士」号船長に対して、捜索令状の呈示が実質的に行われなかったこと(通訳はいた)、②事務所捜索時も捜査令状の提示が短時間であったこと、③不当捜査を避けるためオランダ大使館員や弁護士の立会いを求めたが、警察官によって拒否されたこと(「領事関係に関するウィーン条約」、「国際人権規約」によりすべての人に保障されている「十分な弁護活動を受ける権利」違反)、④嫌疑とは無関係の資料押収があったこと(MO、会員名簿、航海日誌その他。憲法19条・20条違反)を挙げている。
しかし、「グリーンピース」側が「(警察側の通訳は)オランダ(ネザーランド)とニュージーランドを訳し間違えるなど、その質は不十分だった」等と証言しているのは、即ち現場に日本語を解する人間が居たことの証左であり、通訳上の問題は無かったというべきであろう。また、「領事関係に関するウィーン条約」(昭和58年条約第14号)によれば、「接受国(日本)の権限ある当局は、〜(中略)〜派遣国の国民が逮捕された〜(中略)〜場合において、当該国民の要請があるときは、その旨を遅滞なく当該領事機関に通報する。逮捕され〜(中略)〜ている者から領事機関にあてたいかなる通信も、接受国の権限ある当局により、遅滞なく送付される。」(第36条①b号)と定め、更に「領事官は、留置され〜(中略)〜ている派遣国の国民を訪問し、〜(中略)〜弁護人をあっせんする権利を有する。」(第36条①c号)と定めているが、これは強制捜査における領事館員の立会いまでも認める趣旨のものではなく、また同条②は「①に定める権利は、接受国の法令に反しないように行使する」と定めている。「国際人権規約」も、具体的には裁判手続に関するものであって、それが我が国刑事訴訟法上認められていない以上、強制捜査の立会いまで要求できるものではない。なお、東京湾は、旧領海法によっても(「湾の法理」)、国連海洋法条約を受けて直線基線を採用した新領海法(「領海及び接続水域に関する法律」、昭和52年法律第30号)によっても「内水」(「領海」の内側)であり、我が国の完全な管轄権下にあって、外国船舶といえども無害通航権を有しない。■選挙目的の軽薄な反日演説を厳しく批判する
ペルー大統領選挙でトレド野党候補が反日的言動で民衆を煽る(5月29日)
報道によると、28日投票の南米ペルーの大統領選挙で、三選を目指す現職のアルベルト・フジモリ大統領(61歳)が投票総数の51.07%(有効票の74.57%)(開票率94.42%)を獲得し、経済学者で野党候補のアレハンドロ・トレド氏(54歳)の17.42%(有効票の25.43%)を突き放してリードしているという。選挙の無効を主張するトレド候補は選挙のボイコット戦術を展開し、無効票は30.28%、白票は1.14%あったという。フジモリ大統領は30日には勝利宣言を行ったが、選挙の公正さについては疑問の声が出ており(投票システムの改善のため決戦投票の延期を求めていた米州機構<OAS>の選挙監視団は撤退、アメリカ政府も「有効と認めない」<クリントン大統領>との声明を発表)、今後の展開はなお流動的といえよう。
ところで、今回の大統領選挙の過程で、野党のトレド候補は、フジモリ現大統領に対する批判をエスカレートさせる中「日本野郎は日本に帰れ」等の反日的言動を繰り返していると聞くが、全く以って言語道断の行為である。そもそも、今回の選挙は人種問題を争点にしたものではなく、10年間のペルー政治の総括と今後を巡る政策論争であるべきなのであって、単なる選挙目的のアジテーションとして人種的対立を煽動するのは、学者・政治家としての知性を根源的に疑わしめるものである。無論、野党側から見れば、現職大統領は日系人であり、かつ我が国のペルーに対する多額の経済協力が現政権を味方するものであると映るだろう。だが、我が国が対ペルー経済援助を実施しているのは、「フジモリ大統領が日系人だから」といった感傷的な理由ではなく(現に、日系人以外の人間が国家元首を務める国にも同じく経済協力を実施しており、更には弾道ミサイルによって脅威を与えている北朝鮮に対してすら、コメ支援をしているのである)、フジモリ大統領の断固たる政策がテロにまみれていたペルー社会を安定・復興させ、南米の経済的安定、ひいては世界の安定につながるからである。トレド候補も、経済学者としてその程度の知識は当然持っているのであろうが、
無論、我が国は、大統領がフジモリ氏からトレド氏に代ったところで、経済援助政策を変更するつもりは無い。しかし、トレド氏が、今後も刹那的・短期的視野に立った反日的言辞を繰り返し、ペルーにおいて日系人社会との対立を深め続けるのであれば、「なぜそんな国に血税を提供しなければならないのだ」という日本国民の疑問は益々高まるだけであろう。
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製作著作:健論会・中島 健 無断転載禁止
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