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2000年7月
■憲法、安保無き公約は「責任政党」の公約か
衆議院の解散に併せて、民主党の選挙公約が発表される(6月2日)
報道によると、憲法第7条に基づき衆議院が2日解散されたのを受けて、民主党は、「民主党の『15の挑戦』」と題した選挙公約を発表したという(下記参照)。
野党第一党として、森首相の「神の国」発言で霞んでいた政策論争に火をつけるべく発表された今回の公約は、しかし、これを到底「責任政党の公約」ということは出来ない。確かに、報道されているように、この公約には「課税最低限の引き下げ」といった負担を求める公約も掲げられてはいるが、しかしその数は少なく、他の公約についても疑問符がつくものが多い。例えば、道州制の導入についても、通例、連邦国家は複数の国家や州をまとめて成立したといった歴史的事情があって成立しているのであり、そうした背景が無い我が国において単純に制度を輸入するのは難しかろう。国と地方合わせて630兆円、財政投融資で170兆円、合計で800兆円もの赤字(借金)を抱える現在、「あなたの年金は減らしません」と言われても、(次の選挙までの4年間だけならともかく)長期的にはそれはほとんど実現可能性が無いといわなければなるまい。「仕事と家庭の両立を支援」するといっても、その前提として、そうしたあり方が子供の精神的発育に悪影響が及ばないかどうかの検討が必要であろう。諫早湾干拓の中止も、建設目的となっていた周辺地域の防災という視点を最大限に尊重すべきであるし、「天下りの禁止」も、退職した国家公務員の「職業の自由」に関わる問題である以上、公務員の給与大幅引き上げを前提としなければ単なる「官僚バッシング」に過ぎないと評価されよう(無論、最近公務員に対する評価が大きく下がっていることは否めないが、しかしそうした一時の風潮や情熱で国家行政の根幹を担う公務員の勤務条件を左右すべきでない)。
しかし、「15の挑戦」の最大の問題点は、それが憲法問題と安全保障問題に一言も触れていないことにある。昨年の法改正で国会に「憲法調査会」が設置され、今まさに憲法改正論議が高まりつつあるなかで、国家体制の根幹に関わる憲法問題について、その態度を表明しないというのでは、政権担当能力を疑問視されても仕方があるまい。これについて民主党は、常々「論憲」を掲げてきたわけだが、「論憲」は国政を担う国会議員にとって当然の義務であって、単に論じる姿勢を示しただけでは憲法問題について態度を表明したことにはならない。安全保障問題にしてもそうで、公約第15条では一応外交問題について言及し、「国連平和維持軍本体業務(PKF)への参加解禁」「国内緊急事態法制の検討」といった踏みこんだものもあるが、いずれも各論のみであり、総論としての安全保障政策は見えてこないのである(一口に「日米安保体制の堅持」といっても、その中で我が国が果たすべき役割は様々に想定され得るはずである)。例えば、現在、朝鮮半島情勢はある程度落ち着きをみせているが、これが長期的な安定につながる保障はどこにもなく、中国の対台湾政策と併せて、我が国にとってはなお安全保障上の重大問題になっている。内政を誤っても国民が苦しむだけだが、安保を誤れば自国民だけでなく他国民の生死にも影響する。その安保問題について言及が無い公約を提示した民主党を、「責任政党」と認知することは出来ないのである。
恐らく、こうした問題点は、党内が野党版「自社さ連立」政権の野合的状態にあり、国家観に大きな隔たりがあるために確固たる憲法観・安保政策を打ち出せないからであろうが、まさにその点に、90年代後半の日本に不幸をもたらした「自社さ」という奇妙な組み合わせの弊害があるのである。※民主党の「15の挑戦」−無責任政治と決別し、安心の未来を創ります−
(1)道州制を導入し、国のかたちを分権連邦型国家に変えます。
(2)中央集権=政官業癒着による膨大な無駄をなくし、財政を健全化します。
(3)長期連続休暇制度の導入などにより、豊かな生活時間を創り出すサービス経済を拡大します。
(4)インターネット料金を水道料金並に引き下げ、IT革命を加速します。
(5)再就職支援ビジネスの自由化と採用募集などにおける年齢差別禁止法を実現します。
(6)課税最低限を引き下げ、児童手当の拡充や住宅ローン利子の所得控除などに充てます。
(7)あなたの年金は減らしません。社会保障制度を再構築します。
(8)ゼロ歳児保育・24時間保育の確立で、仕事と家庭の両立を支援し、男女共同参画を促進します。
(9)学校に実践体験学習期間を導入し、社会性を培う教育を確立します。
(10)環境税を導入し、「水素」や「風」「太陽」など新エネルギー利用を促進します。
(11)吉野川可動堰、川辺川ダム、中海・諫早干拓については、中止を含めて見直します。
(12)天下りを禁止し、議員に対するあっせん利得収賄罪を法制化します。
(13)国家公安委員会の独立性を高め、監視機能を整備するなど警察法の改正を行います。
(14)議院内閣制における首相権限の強化とあわせ、首相公選制の導入を検討します。
(15)歴史の争いや過ちを克服し、「和解と共生」の積極外交を進めて、平和な国際社会を創ります。■共産党単独政権ではもちろん「国体」は変革される
森首相、自民党奈良県連の演説会で「国体を守ることができるのか」と発言(6月5日)
報道によると、森喜朗首相は3日午後、自由民主党奈良県連主催の演説会で「(共産党との連立政権で)日本の国体を守ることができるのか」等と発言し、野党や報道からの批判を招いているという。その後、森首相は4日になって「奈良で失言があって怒られた」と述べ、軽率な発言だったことを認めている。
そもそも「国体」は事実上多義語になっていて、①単に「国家体制」(例えば、国民主権、君主主権、プロレタリアート独裁)を意味する場合(国体=政体)、②戦前の「天皇主権の国家体制」のみを指す場合、③「天皇主権」に加えて、その主権の正当性の契機を古代日本神話に求める体制を意味する場合、④政治的実権の行使の主体である「政体」と区別して「国政の象徴として皇室(天皇制)を有する国家体制を指す場合(「君主国体、民主政体」)など様々である(ちなみに、この概念を知らない戦後世代の若者などは、⑤「国民体育大会」の略称と混同している)。敗戦後、新憲法下の象徴天皇制をめぐって、皇室が存続している点から「国体は護持された」とする説と、統治権や国家神道を失い主権が国民に付与されたことを以って「国体は変革された」とする説の2説が唱えられたことがあったが、これはそもそも「国体」の定義自体が異なっているためにおきた論争である。恐らく、森首相の発言では①ないし④の意味で使っているものと思われるが、しかし②、③の意味で理解される危険性も否定できない。「神の国」と同じく、首相の「言葉遣い」が問われる問題である。
もっとも、上記の①〜④のいずれの立場を採用するにしても、階級政党である日本共産党が政権を完全に掌握すれば、主権は国民全員から労働者階級に委譲されるであろうから「国体は変革」されることになろう。実際、森首相の発言も、全文を通して読めば①の意味で使っていることが明かである(「共産党では守られない国体」の例として安保自衛隊問題が挙げられているが、従来の皇室云々に関わる「国体」概念であれば自衛隊の是非は直接には関係しないものだからである)。そうした意味において、森首相や野中広務自民党幹事長の発言は、誤ったものとは言えないだろう。仮に、野党側がこれを大々的に扱うことがあれば、「言葉尻を捉えた詭弁」と批判されても仕方があるまい。■共謀共同「正犯」なのに「無期懲役」なのか
オウム真理教元幹部井上嘉活被告に無期懲役刑(6月6日)
報道によると、死者12人、重軽傷者5000人以上を出した1995年3月の地下鉄サリン事件で現場指揮役を務め、仮谷清志さん拉致事件等10の事件で殺人等の罪に問われたオウム真理教「諜報省大臣」井上嘉浩被告人(30)に対し、東京地方裁判所(井上弘通裁判長)は無期懲役の判決を言い渡した。判決の中で裁判長は、「現場指揮役ではなく、後方支援、連絡調整役にとどまる」「犯行当時の心理的状況、現在までの反省・謝罪の態度、公判での供述態度などを考えると、地下鉄事件の首謀者や実行行為者と同視しうるような責任を負わせることはできない」と述べて、検察側の死刑の求刑を退けた。
だが、この判決には、納得が出来ない部分が多い。
例えば、1995年3月の「地下鉄サリン事件」について、実行の2日前、井上被告が教団教祖・松本智津夫被告らと自動車車内で謀議したと検察側が主張した点について、「被告自身、その段階では事件を実行しようとする意思を形成していなかった」「果たした役割も後方支援ないし連絡調整的な役割にとどまる」としている。しかしながら、判決は同時に、「犯行を手助けした幇助犯に過ぎない」との弁護側主張を退け、「車の調達や伝達役を依頼されるなどし、積極的な関与やその意味、影響などからすると、共謀共同正犯の責任を負う」と認定している。共謀共同正犯の理論からすれば後方支援役であろうとも実行犯と同一の責任を負うはずであり、前段の理由を以って死刑を回避するのは、いささかこじつけの感がある。更に、「目黒公証人役場事務長仮谷清志さん拉致殺害事件」については、「被告人の逮捕監禁行為と仮谷さんの死には因果関係があるとは認められない」として逮捕監禁罪のみ認定。「新宿駅青酸ガス事件」についても、被告人の殺意は認めたものの、「井上被告の殺意は公衆トイレ内の人を対象にしたもので、大量無差別殺人の故意があったとまでは認められない」等と指摘した。無論、公衆トイレは同時に数名の人間しか立ち入らない以上、これを「大量」殺人と呼ぶには裁判所としても躊躇があったのだろう。しかし、公衆トイレは不特定多数の人間が使用する場所であり、青酸ガス発生装置はその不特定多数を狙って設置されたものであり、不特定多数を危険に落とし入れたことは明かであるばかりか、「殺意」を認定している以上それが無差別殺人を企図していたこともまた明らかだろう。「大量無差別殺人の故意は無かった」等という「青酸ガス事件」の部分の判決論旨は詭弁であり、矛盾に満ちているという他あるまい。
無論、判決が言うように、井上被告人に「真摯な」「反省、悔悟、謝罪の気持ち」があったことを否定するつもりは無い。しかし、他の1事件だけならともかく、「地下鉄サリン事件」で共同正犯として行動し、仮屋さん拉致に関わり、青酸ガス事件を引き起こし、その他7つもの刑事事件を起こしている被告人に「社会復帰の可能性」を見出すのは理解に苦しむ。判決について「オウム真理教被害対策弁護団」の滝本太郎弁護士は「井上被告を死刑にしても、殺された人が戻るわけではない。」とコメントしているが、しかし「井上被告を死刑から救っても、殺された人や被害を受けた人が回復するわけではない」のもまた事実であって、説得力を欠くと言わなければなるまい。それに、井上被告を死刑にすれば、「殺された人の生命」は戻らないにしても、「殺された人の形式的正義」は回復されるのである。■本格的な関係改善に向かえばよいが・・・
ロシアのプーチン大統領が北朝鮮訪問の予定(6月9日)
報道によると、ロシア大統領府は9日、プーチン大統領が近く、北朝鮮(自称「朝鮮民主主義人民共和国」)の金正日総書記の招きで同地を訪問する、と発表した。旧ソ連時代を含めて、ロシアの国家元首が北朝鮮を訪れるのは初めてで、具体的な日程は未定だが、今年7月21日からの主要国首脳会議(九州・沖縄サミット)の直前が有力とされているという。
それにしても、最近の北朝鮮の外交的攻勢には、目を見張るものがある。最近では、イタリア、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランドと国交を正常化させ、12日には金大中韓国大統領とのはじめての南北首脳会談に臨むことになっている。
ただ、これが、北朝鮮の態度軟化と見るのは早計に過ぎよう。北朝鮮当局の第一の目的が政権の維持である以上、今後の北朝鮮側の外交姿勢も、あくまでその目的を達成するための手段であり、かの国が依然として大量の軍事力と特殊戦部隊を抱えた軍事国家であるという事実に変わりはないことを忘れてはなるまい。
ところで、現在、アメリカは大統領選挙中であり、クリントン現大統領には外交に関してそれほど大きな権限は残されていない。一方我が国は、6月25日に総選挙を控えて、文字通り「権力の空白期間」である。そして、今年6月25日は、朝鮮戦争開戦からちょうど50周年にあたる。となると、穿った見方をすれば、この「チャンス」に、北朝鮮側が何らかの「行動」(軍事的行動)を起こすという確率も、この国の行動パターンからは完全には否定できまい。この50周年が、朝鮮半島情勢の劇的な改善を以って祝われるのか、それとも劇的な悪化に伴って危機が訪れるのかは、予断を許さないと言うべきであろう。■カリスマに惑わされる前に
金大中韓国大統領、平壌を訪問し金正日労働党総書記と会談(6月15日)
報道によると、大韓民国の金大中大統領は、13日から15日まで、北朝鮮(自称「朝鮮民主主義人民共和国」)の首都・平壌市を訪れ、最高指導者・金正日労働党総書記(国防委員長)、憲法上の元首・金永南最高人民会議常任委員長らと南北首脳会談を行い、14日午後11時、大統領宿舎の「百花園招待所」で「南北間の和解と統一」「金総書記の訪韓」等5項目からなる「南北共同宣言」に署名した。これを受けて韓国政府は、15日午前、板門店にある南北連絡事務所の機能復活や軍事直通電話(ホットライン)の開設、南北間の鉄道連結など、相互信頼醸成と協力強化に向けた分野別の対応策を発表したという。特に、経済協力の分野では、「実践可能な事業から段階的に推進」するとして、相互主義、漸進主義の原則の下、鉄道(京義線)連結や軍事境界線付近の臨津江の水害対策、「南北共同の利益となる事業や北側が提起する事業」を協議、推進するとした。他に、スポーツの分野で、シドニー五輪開会式での南北共同入場や2002年日韓共催ワールドカップ・サッカー大会の南北分散開催と南北統一チーム結成等も提起された。
今回の南北首脳会談は、明らかに北朝鮮側の「外交的勝利」であっただろう。大統領訪朝中金総書記は、空港に直接金大統領を出迎え、平壌市内までの移動中金大統領と同じ自動車に乗りこみ、夕食会や昼食会でざっくばらんに話しかける等、「独裁者」としてのマイナスイメージを払拭することに努めており、その目的は(韓国側マスコミの論調からしても)かなりの程度達成された。帰国間際、金大統領と空港で抱擁する金総書記の姿は正に「親愛なる指導者」であった。一般に、指導者のカリスマ性は、その存在を秘密にすることによって高められると言われるが、今回の金総書記の行動は、正に自身の「秘密性」を最大限に利用したものであった。
しかしながら、金総書記が本当に「親愛なる指導者」であるかどうかは、正に今後の北朝鮮側の態度にかかっている。如何に金総書記が笑顔で振舞おうとも、軍事境界線(DMZ)周辺では南北の巨大な軍事力が直接対峙を続けており、北朝鮮側が軍事的威圧を放棄したわけでは決して無い。分断以来の55年間の歴史は、「南北の和解」という一片の言葉ではなかなか精算され得ないものであろう。今回合意された事項も、「離散家族再会」「金総書記訪韓」の他は「南北間の和解と統一」「緊張緩和と平和定着」「経済、社会、文化など多方面の交流・協力」といった極めて抽象的なものであったし、更に、新聞報道によれば、金総書記は当初は両首脳による共同宣言署名には消極的だったと伝えられている。合意の誠実な履行があるかどうかが、今後の北朝鮮の「態度」を占う上で重要になってくるのである。■時代の変化を感じるとき
皇太后陛下、崩御(6月16日)
皇太后陛下・良子(ながこ)さまが、老衰のため皇居・吹上大宮御所で崩御された(午後4時46分)。歴代皇后・皇太后としては最長寿の97歳で、明治36(1903)年3月6日、久邇宮邦彦(くにのみや・くによし)王・俔子(ちかこ)妃の長女としてお生まれになった。大正13(1924)年1月26日に昭和天皇と結婚され、大正15(1926)年12月、昭和天皇の即位に伴い皇后となられた。その後は、12年前に崩御された先帝陛下と共に、第2次世界大戦と戦災からの復興、経済発展を遂げた我が国の激動の昭和時代を歩まれた。皇太后陛下の崩御に伴い、政府・宮内庁はご葬儀の日程や形式などについて検討を始め、本葬「斂葬の儀」を豊島が岡墓地(東京都文京区)で営むことなどが決まったという。
ところで、皇族ではないが、最近では、55年体制最終期の政治を動かしていた重鎮政治家の引退・訃報が次々ともたらされている。自民党では原健三郎元衆議院議長、桜内義雄元衆議院議長など長老政治家の引退の他、小渕恵三前首相、梶山静六元官房長官、そして竹下派・経世会領袖の竹下 登元首相が次々に死去しており、野党でも、小沢辰男改革クラブ代表(引退)、山花貞夫元社会党書記長(死去)、村山富市元首相(引退)、伊藤 茂前社民党幹事長(引退)等、死去・引退が相次いでいる。皇太后陛下崩御とまさに機を一にするかのようなこうした動きは、正に12年目に入った平成新時代の進展を物語っていると言えよう。
もっとも、こうした時代の変化を強く意識するのは、与野党ともに、これらにかわる新時代の指導的政治家が育っていないことも又意味しているのではないだろうか。
ところで、現在、衆議院は解散総選挙中であり、選挙後の政権の枠組みは不透明である。しかしながら、もし、仮に民主党を中心とする「民由社連立」の「拡大版野党自社さ連立」政権に共産党が閣外協力をするということになると、昭和天皇の「大喪の礼」の際機関誌「赤旗」で儀式自体を批判していた共産党が皇太后陛下のご葬儀を主催する立場にまわることになる。共産党の動きに注目したい。■「活気ある議論」は相手と同じ土俵でこそ出来る
TBS「ニュース23」で与野党幹事長が討論(6月23日)
23日午後11時から放送されたTBSテレビの「ニュース23」で、与野党の幹事長が討論を行っていた。出席者は野中広務・自民党幹事長、冬柴鉄三・公明党幹事長、野田 毅・保守党幹事長、菅 直人・民主党政調会長、志位和夫・共産党書記局長、平野貞夫・自由党副幹事長、清水澄子・社民党副党首で(改革クラブ、自由連合、無所属の会は不参加)、森内閣の成立課程、「神の国」発言とリーダーの素質の問題から財政再建・景気回復まで、幅広く議論が為された。
一般的に、各党の党首や候補者は、自党の支持者の前での集会や街頭演説では、単に一方的な言論空間の中で放談しているだけなので、聴衆の人数こそ気になるものの、基本的にその言動に反論されることが無いため、割りと美しいことしか言わない。しかし、これが各党揃っての討論会となると、いいかげんなことを言えばただちに反論されるので気が抜けず、その分活気ある議論が期待でできる。「党首討論」はその常設化を狙ったものだが、こうした討論が選挙前だけでなく、もっと恒常的に行われれば、国民の政治に対する意識も相当高揚されるのではないだろうか。
もっとも、上述したTBSの討論番組では、選挙戦も終盤に近づいていたためか、各党幹事長、特に与党3党と民主、共産両党のボルテージはかなり上がっており、「討論」よりは「口論」に近い応酬もあった。例えば、リーダー論の中で、民主党の菅政調会長が森首相の「神の国」発言について公明党の対応を問いただすと、公明党の冬柴幹事長は「全文を取り寄せて読んだら特定の宗教を応援するというようなものではなかったから、注意の上森首相の釈明を了とした」と、これは冷静にスジの通った答えを答えていたが、菅政調会長が「無党派層は寝てしまってくれ」発言について追及すると、冬柴幹事長は「幹事長時代からの付き合いがあるが、森首相はまじめな方だ」と回答。これに不満だった菅政調会長が「何でそんなに自民党のことを一生懸命、擁護するのか。自民党の番犬にでもなったのか」と畳み掛けると、「番犬とは何ですか」と冬柴幹事長側もいきり立つ場面があった。「番犬」呼わばりされたとあれば、冬柴幹事長の怒りももっともであろう。これ以外にも、菅政調会長は「イラ菅」のあだ名を証明するようなナンセンスな発言が目立ったが、冬柴公明党幹事長のほうも、実は終盤になって「口論」に走った場面があった。それは、共産党の志位書記局長が発言している途中に「共産党は破防法によって公安調査庁による指定団体になっている」云々と野次った場面で、これには志位書記局長も、「あなた、今聞き捨てならないことを言いましたね」といきり立っていた。共産党にとっては最高の嫌味であり、最近の「公共」対立を反映してのことだろうが、日本共産党がコミンフォルムからの批判を受けて50年代の「極左冒険主義」と呼ばれる暴力革命路線に走り、「中核自衛隊」による火炎瓶闘争を戦って支持を失ったのは歴史的事実であり、破防法上の監視団体に指定されたのはその経緯があったからである。もっとも、志位書記局長も、冬柴公明党幹事長の野次にいきりたつのではなく、むしろそこで冷静に、「いや、確かに我々は過去過ちを犯したが、その反省の上にたって、議会制民主主義を堅持していく」と応対すれば、共産党のイメージも余程改善したと思われるのだが・・・(もっとも、それは綱領と党名の改定も必要だろう)。
しかし本当に問題だったのは自由党の連立離脱について言及した自民党の野中幹事長で、志位書記局長が「朝鮮半島では和平が進展しているのに、この政権はずっと戦争準備ばかりやってきた」と批判したのに対し、「そんなことは無い。むしろ、我々自由党とは一緒にやってきたが、安保等について自由党が危ないことを言うので、我々としては連立を解消した」との趣旨の発言をしていた。90年代の改革論議の中で放置されてきたのがこの安全保障の分野における改革であり、国際情勢が流動的な中で、有事法制から安保問題に関する外交政策まで、我が国は戦後のいわゆる「平和外交」を問いなおすべきときを迎えている。それを断行せよと主張しているのが自由党(及び自民党の一部)であり、一見「票」に結びつかないこうした改革を主張していることは注目に値する。それを、「自由党が危ない戦争準備をしようとしている」かの如く表現する野中幹事長のこの言動は、見識を疑うものである(もともと野中幹事長は、自身の戦争体験や北朝鮮との国交回復に傾斜しすぎるあまり、安保・防衛問題について良識を欠く発言が多かったのだが・・・・)。
ところで、その自由党は、小沢一郎党首の腹心・平野貞夫副幹事長(参議院議員)が出席していたのだが、全般的に、森内閣の成立経緯等について、平野副幹事長の発言には「野党」的なものが多かった。なるほど野党の一員となった上は民・社と連動して与党批判をせねばならないのかもしれないが、前にも述べたように、先の首相交代は小渕前首相の入院に伴って突然行われたものである以上密室による決定もやむを得なかったのであり、ただその結果与党側が蒙る損失(あるいは利益)については擁立した「5人組」が政治責任をかぶればよいのである。はっきり言って、この問題はそれ以上でもそれ以下でもなく、国政全体からすれば瑣末な問題である。自由党には、そうした瑣末な問題に口出しをする従来型野党とは一線を画して欲しかったのだが・・・それにしても、自由党が現自由党(野党派自由党)と保守党(与党派自由党)に分裂してしまったのは、返す返すも残念なことである。■ロシア製駆逐艦は中国を救うか
中国、ソブレメンヌイ級ミサイル駆逐艦を2隻追加発注(6月30日)
報道によれると、ロシアのプーチン大統領は、7月中旬の中国(中間人民共和国)訪問にあたって、中国側が求めていたゾブレメンヌイ(ロシア語で「新しい」の意)級ミサイル駆逐艦2隻の売却について合意するという。
現在、中国海軍は、1950年代の技術によって建造された「旅大」級駆逐艦を主力としており、西側レベルでの新造艦艇数は極めて限られていたが、今回、ソブレメンヌイ級2隻の追加購入で、同海軍は合計4隻のロシア製防空艦を保有することになる(中国独自の防空駆逐艦の建造は、ミサイルの性能が芳しくなく1隻で終了した)。ソブレメンヌイ級はマッハ3の超音速で飛翔する対艦ミサイル「モスキート」(NATOコードネームSS-N-22)4連装発射筒2基の他、エリア・ディフェンス(艦隊防空)用の艦対空ミサイル(SAM)SA-N-7単装発射機2基、130ミリ連装速射砲2基等を装備している。満載排水量7940トン。
もっとも、本級駆逐艦の性能については、過小評価は無論禁物であるが、さりとて過大評価もまた出来ない。一応、中国海軍で最も強力な戦闘能力をもつ水上艦であることは確かだが、本級が登場したのは1980年12月であり、しかも現在ロシアでは財政難から早期に就役した7隻が退役している。防空ミサイル艦の「価値」はその搭載する対空ミサイル及びレーダー、コンピューター等の射撃指揮装置に大きく左右されるが、その点、本艦は決して最新型とは言えない。無論、今回の3番艦・4番艦配備が軍拡である以上、例えば台湾海峡において中国海軍と台湾海軍の軍事バランスを変化させ得るものではある。しかし、対する台湾(中華民国)側も、アメリカ製スタンダード対空ミサイルと対潜ヘリ2機を装備した「成功」級ミサイル・フリゲイトやステレス設計を取り入れたフランス製「康定」級フリゲイト等を積極的に導入しており、中台の均衡が決定的に崩れることはないのではないだろか。
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