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第7編 海洋の区分(5):群島水域

第1章 島

 islandとは、「自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、満潮時においても水面上にあるものをいう」( 海洋法条約第121条 )。従来、島については、(1)基線の基準となる完全な地位を有するとする説(完全効果)と、(2)領海など一部の効果しか有しないとする説(部分効果)、(3)基線の基準としては全く用いることが出来ないとする説が存在した。この点、 第121条③ は「人間の居住human habitation)又は独自の経済的生活economic life)を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚有しない。」と規定しており、この条項からすれば、東京都小笠原支庁の沖ノ鳥島(※注1)は「島」に該当しない恐れが出てくる(※注2)。もっとも、 第121条③ は「排他的経済水域又は大陸棚有しない。」と規定していることからすれば、「領海及び接続水域は有する」(部分効果)とは解釈出来よう。
 なお、当然のことながら、
人工島は島の地位を有しない( 海洋法条約第60条⑧ )。領有権が争われている島も、基線の基準からは除かれるべきであろう。

※注釈
1:
同島が日本の領土になったのは
1934年で、戦後、GHQの行政権排除の指定により一時米軍統治下に置かれたが、1969年小笠原返還に伴い返還された。満潮時にはぼぼ全面が水没し、僅かに北露岩と東露岩の2つの岩が約70センチ海面上にある程度。周辺はカツオ・マグロ等の豊かな漁場だが、1987年に実施された調査で水面上に浮かぶ岩が減っていることが判明したので、「災害復旧」の名目で建設省が補強工事を実施。285億円をかけて、1万個のテトラポットで囲み、コンクリートで固める大工事を行った。
2:
栗林前掲書、277ページ。

第2章 群島

 群島archiperagoは、多くのが近接して存在し、自然の地理的単位をなしているものを言う(※注1)。群島には、(1)多数の島が大陸の沿岸にある沿岸群島coastal archiperagoと、(2)多数の島が大洋の中にある大洋群島mid-ocean archiperagoがあるが、沿岸群島については前述した直線基線を採用することが出来る。一方、大洋群島は、歴史的・社会的に密接な単一体をなしている群島理論と考えられることから、群島諸国の中には、一方的な国内立法でその最も外側の島・礁を基点とする群島基線(後述)を設定する国が現れた(※注2) 海洋法条約第46条 によれば、「a 「群島国」とは、全体が2又は2以上の群島から成る国」をいい、「b 「群島」とは、島の集団又はその一部、相互に連結する水域その他天然の地形が極めて密接に関係しているため、これらの島、水域その他天然の地形が本質的に一の地理的、経済的及び政治的単位を構成しているか又は歴史的にそのような単位と認識されているものをいう」。よって、例えばアメリカ合衆国が領有するハワイ諸島や、エクアドルが領有するガラパゴス諸島等(「沖合群島」とも呼ばれる)はこれに含まれない(※注3)

※図1 群島の種類

群島の種類

※注釈
1:
栗林前掲書、278ページ。
2:
山本前掲書、377ページ。
3:栗林前掲書、278ページ。また、山本前掲書、379ページ。

第3章 群島水域

●第1節 群島基線
 群島国
は、群島の最も外側の島・干礁の最も外側の点を結ぶ直線の
群島基線archipelagic baselinesを設定できる。もっとも、基線の引き方については、いくつかの制限がある海洋法条約第47条 (※注1)

 (1)基線内部では水陸面積比が1:19:1になるようにしなければならない。我が国をはじめ、イギリスニュージーランドは、水陸比が1:1未満なので群島基線を引くことが出来ない海洋法条約第47条①・⑦ )。
 
(2)1本の基線の長さは100カイリ以内とされる。但し、基線の総数の3%までは、最大125カイリまで延長できる海洋法条約第47条② )。
 
(3)群島基線は、群島の全般的な輪郭から著しく離れて引いてはならない海洋法条約第47条③ )。
 
(4)低潮高地については、直線基線と同様のルールがある。即ち、<A>原則として群島基線は低潮高地との間に引いてはならないが、<B1>灯台等恒久施設が存在する場合、<B2>最も近い島の領海内(12カイリ)にある場合は、用いてもよい海洋法条約第47条④ )。
 
(5)他国の領海を公海や経済水域から切り離すように群島基線を引いてはならない海洋法条約第47条⑤ )。

 現在、「群島国家」の地位を主張しているのは、アンチグア・バーブーダ、カーボベルデ、コモロ回教共和国、フィジー、インドネシア、キリバス、マーシャル諸島、パプア・ニューギニア、フィリピン、サントメ・プリンシペ、ソロモン諸島、トリニダード・トバゴ、ツバル、バヌアツの14ヶ国である。例えば、フィリピンは、1961年6月17日共和国法律第3046号、1968年12月18日共和国法律第5446号により群島基線を設定した他、インドネシアは、1957年(第一次国連海洋法会議が開催される4ヶ月前)の省令ではじめて群島国家宣言(ジュアンダ・ドクトリン、Djuanda Dctrine)を行い、こうした国家実行が結果として「群島水域」制度創設の契機となった(※注3)

※図2 群島基線・群島水域

●第2節 群島水域
 群島基線
で囲まれた水域(内側)を
群島水域archipelagic watersと呼び、群島基線外側領海接続水域及び経済水域になる(※注2)。群島国の主権は、水域、上空(領空)、海底及びその資源に及ぶ海洋法条約第49条 )。
 群島水域の性質を巡っては、
(1)内水に準じるものとする群島諸国と(2)領海に準じるものとする海運諸国とが対立したが、 海洋法条約第50条 は、群島国は河口、湾等に内水の境界を確定する閉鎖線を引くことが出来るとしているので、群島水域は内水でも領海でもない固有の水域(内水と領海の中間、新しい領水)ということになる(※注4)。例えば、群島国は、群島水域設定以前に設定された協定や伝統的な漁業権、既存の海底電線を尊重することになっている( 海洋法条約第51条

※注釈
1:
栗林前掲書、279ページ。また、山本前掲書、377ページ。松井他前掲書、154ページ。
 なお、フィリピンは、この比が1.841:1であり、群島基線を採用することが出来る。
2:栗林前掲書、279ページ。
3:栗林前掲書、278ページ。また、波多野前掲書、166ページ。
4:栗林前掲書、279〜280ページ。また、松井他前掲書、154ページ。

第4章 群島水域における通航

●第1節 総説
 群島基線が採用されると、群島水域は領海又は内水に順じた群島国の領域となり、それまで公海自由の原則の下自由航行を享受していた海洋諸国(旗国)の利益が損なわれる。そこで、 国連海洋法条約 は、群島水域において2つの通航方法を定めた。

●第2節 無害通航権
 すべての国の船舶は、群島水域においても、領海と同様の無害通航権right of innocent passageを有する海洋法条約第52条 )。その内容は、領海の無害通航権と同様である(※注1)潜水艦浮上航行し旗を掲揚しなければならない。無害通航権が認められていることからすれば、群島水域は「領海に準じた水域」乃至「直線基線の採用で新たに内水となった水域(新内水)」に似た性格を持っていると言えよう。
 群島国は、自国の安全保護上不可欠であれば、群島水域の特定水域において、差別なく外国船舶の無害通航を一時停止できる
海洋法条約第52条② )。このような停止は、適当な方法で公表された後においてのみ、効力を有する。

●第3節 群島航路帯
 (1)群島国は、自国の群島水域・領海・及び領空における外国船舶・航空機の継続的かつ迅速な通航に適した群島航路帯(航空路)(archipelagic sea lanesを指定し( 海洋法条約第53条 )、(2)群島国自身が指定しない場合は、国際航行において通常使用される航路群島航路帯とみなされる海洋法条約第53条③ (※注2)。そして、すべての船舶・航空機は、群島航路帯において群島航路帯通航権right of archipelagic sea lanesを有する海洋法条約第53条 (※注3)。例えば、インドネシアのスンダ海峡、マカッサル海峡が群島航路帯に指定されているという。
 
群島航路帯・航空路は、航路の入口から出口までの連続する中心線によって定め、幅は50カイリである(船舶及び航空機は、中心線から25カイリ以上離れてはならない)海洋法条約第53条 )。「ただし、その船舶及び航空機は、航路帯を挟んで向かい合っている島と島とを結ぶ最短距離の10パーセントの距離よりも海岸に近づいて」はならない海洋法条約第53条⑤但書 )。

※図3 群島航路帯

群島航路帯

第4節 旗国の権利義務
 
群島航路帯通航とは、群島航路帯において、(1)通常の形態で、(2)継続的な、迅速なかつ妨げられることなく通過すること、をいう海洋法条約第53条③・② )。潜水艦潜没航行してもよい(※注4)
 船舶・航空機の義務調査測量活動については、
国際海峡 に関する規定が準用される。

第5節 群島国の権利義務
 群島国は、国際的な規則に従い、権限のある国際機関(現在は国際海事機関、IMOInternational Maritime Organization)の採択を経た上で、分離通航帯を設定・変更することができる海洋法条約第53条⑦〜⑩ (※注5)
  群島国の義務航路帯通航に関する群島国の法令については、
国際海峡 に関する規定が準用される。

※注釈
1:
栗林前掲書、280ページ。
2:松井他前掲書、155ページ。
3:栗林前掲書、281ページ。
栗林「海洋法の発展と日本」、15ページ、また、松井他前掲書、155ページ。
4:栗林前掲書、281ページ。
5:栗林前掲書、281〜282ページ。


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