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第8編 海洋の区分(6):大陸棚
■第1章 経緯
一般に、大洋の海底は、海岸から沖合い200キロ(約108カイリ)を境に急激に深度を増すが、この200キロまでの比較的浅い海を「大陸棚(continental shelf)」と呼ぶ。ここには、全世界の40%以上の鉱物資源が眠っているといわれている(※注1)。
大陸棚に対する支配権は、1945年9月のトルーマン宣言(アメリカ大統領トルーマンの「大陸棚の地下および海床の天然資源に関する合衆国の政策、大統領宣言第2667号」「公海水域における沿岸漁業に関する合衆国の政策、大統領宣言第2668号」)を契機として各国がこれに追従し、1958年の第一次国連海洋法会議では大陸棚に関する条約が締結された(※注2)。もっとも、我が国は、当時は海洋先進国の立場から沿岸国の管轄権拡張には消極的(特にエビ、カニ、貝等の生物資源=定着性魚種<sedentary species>に対する沿岸国の権利拡張に反対)で、大陸棚条約には参加しなかったが(※注3)、その後、オデコ・ニホン・S・A事件(判例国際法40事件)東京地裁・高裁判決はこれを「国際慣習法上確立された制度である」と認めた(1982年4月22日東京地裁判決)(※注4)。※注釈
1:栗林前掲書、283ページ。また、山本前掲書、394ページ。
2:栗林前掲書、283ページ。
3:松井他前掲書、172ページ。また、栗林前掲書、285ページ。
1953年のアラフラ海真珠貝漁業事件では、オーストラリアが大陸棚に真珠貝漁業法の適用を宣言したため、真珠貝をボタン製造業に採取していた我が国がこれを「国際法違反」として国際司法裁判所に提訴(オーストラリアも応訴)した。もっとも、その後、日豪友好関係の強化のため、及び、プラスチックの普及に伴う需要の減退のために、訴訟は1957年に自然消滅した。
4:パナマ法人の日米合弁企業である同社が日本の大陸棚(島根、山口、福島県沖)で試掘井13本を掘削し対価を得たところ、この所得が法人税法第138条1号にいう「国内において行う事業から・・・生ずる所得」であるとして法人税を課税されたため、「大陸棚に関して法律が無い日本は大陸棚に関して主権的権利を持たない」として争った行政処分取消訴訟。東京地裁は、留保を認めない大陸棚条約第1条〜第3条は、遅くとも北海大陸棚事件国際司法裁判決(1969年)のときまでに国際慣習法となったのであり、特別の宣言なしに法人税法を適用される、とした。
(栗林前掲書、283ページ。また、『判例国際法』、173ページ。)■第2章 定義
●第1節 旧海洋法秩序での定義
1994年11月の 国連海洋法条約 発効以前は、大陸棚については、大陸棚に関する条約 が大陸棚を定義していた。
それによると、大陸棚は、(1)水深200メートルまで、又は(2)天然資源が開発可能な深度まで、とされ(大陸棚条約第1条)、技術的に開発可能であれば制限は無かった(※注1)。なお、同条約第1条〜第3条は国際慣習法又はその結晶化過程とされたため、この部分についての留保は禁じられている。
もっとも、当初は「200メートルより深い海域で開発は不可能」と思われていたのが、1960年代中ごろからは水深実に5000メートルのマンガン団塊(ニッケル、コバルト、マンガン、銅を含有)が発見され、管轄権が拡大される傾向が出てきた。その為、 国連海洋法条約 では、後述するように大陸棚を厳密に定義する一方、それ以遠の海底は「人類の共同遺産」たる「深海底」として国際海底機構が管理することとした(※注2)。※図1 旧海洋法秩序(大陸棚条約の定義)
●第2節 新海洋法秩序での定義
国連海洋法条約 では、大陸棚を以下のように区分している(※注3)。※表1 大陸棚の範囲(海洋法条約の定義)
大 区 分 制限(76条5項6項) 大陸棚の範囲 (A)
自然延長
基準
(76条4項)大陸縁辺部(Continental
Margin)が基線から200
カイリ以上あるとき海底海嶺上は基線から
350カイリ以内(1)大陸棚脚部からの最短距離の
1%以上の厚さの堆積岩が存在
する最も沖合いの地点
(2)大陸棚脚部から60カイリ以内基線から
350カイリ以内2500m等深線から
100カイリ以内(B)
距離
基準
(76条1項)大陸縁辺部(Continental
Margin)が基線から200
カイリに満たないとき(3)基線から200カイリ以内 大陸縁辺部(Continental Margin)は、沿岸国の陸塊の海面下まで延びている部分から成るものとし、棚、斜面及びコンチネンタル・ライズの海底及びその下で構成される(大洋底及びその海洋海嶺又はその下を含まない)( 海洋法条約第76条③ )。なお、表1で言う「大陸斜面の脚部」は、「反証のない限り、当該大陸斜面の基部における勾配が最も変化する点」である( 海洋法条約第76条④c )。
沿岸国は、基線から200カイリを超える大陸棚の限界を設定するときは、附属書IIに定める「大陸棚限界に関する委員会」に情報を提出し、その勧告に基づく決定には拘束力が与えられる( 海洋法条約第76条⑧ )(※注4)。※図2 新海洋法秩序(海洋法条約の定義)
●第3節 境界画定
一方、隣国との境界画定については、(1)等距離原則と(2)衡平原則の2つの立場が対立していたが、 国連海洋法条約 はどちらとも明記しなかった(※注5)。海洋法条約以前の1969年2月20日の北海大陸棚事件(判例国際法37事件)国際司法裁判決でも、一義的な決定方法は無いとして、境界決定は「衡平の原則」に従い、かつ全ての関連ある状況を考慮にいれて、合意に基づいて行わなければならない、とした(※注6)。
大陸棚の境界画定に関するその他の事件としては、1977年6月30日の英仏大陸棚事件(判例国際法38事件)(仲裁裁判所判決)(※注7)、1982年2月24日のチュニジア・リビア大陸棚事件(判例国際法39事件)(国際司法裁判所判決)(※注8)、1985年6月3日のリビア・マルタ大陸棚事件(判例国際法41事件)(国際司法裁判所判決)(※注9)がある。※注釈
1:栗林前掲書、284ページ。
2:松井他前掲書、162〜164ページ。
3:栗林前掲書、286ページ。また、 海洋法条約 条文。
4:栗林前掲書、286ページ。また、 海洋法条約 条文
5:栗林前掲書、287ページ。
6:『判例国際法』、160ページ。また、波多野前掲書、194ページ。
この事件では、北海の大陸棚を巡り、隣接するオランダ・西ドイツ・デンマークが境界を争った。
なお、この判例は、大陸棚の境界確定を巡る論点の他に、慣習国際法の成立要件(①「国家の一般的慣行」と②「法的信念」)を国際司法裁判所が示した点が注目される。
7:『判例国際法』、165ページ。
8:『判例国際法』、169ページ。
9:『判例国際法』、176ページ。■第3章 法的性質
●第1節 主権的権利
大陸棚条約では、沿岸国が大陸棚に対して探査・開発のための「主権的権利(sovereign right)」を持つと明記された(大陸棚条約第2条、 海洋法条約第77条① )。これは、探査・開発に関して沿岸国の包括的権利を認めたものだが、国際判例・国家実行では、大陸棚は領土の「自然の延長(natural prolongation)」であり、領土に対する主権の効果として当然かつ始原的に存在する固有の権利(inherent rights)である(北海大陸棚事件国際司法裁判決=判例国際法37事件)と解釈している(※注1)。沿岸国は、開発について外国人の参入を認める義務を負わない(※注2)。
もっとも、その性質については、他に(1)国際的権能論(大陸棚は万民共有物であり、ただその探査・開発の執行だけを沿岸国の管理に委ねている)、(2)無主地先占論(いずれの国も他国の大陸棚に進出して開発を行える)があった(※注3)。
主権的権利が及ぶ天然資源の範囲は、(1)海底及びその下の鉱物その他の非生物資源並びに(2)定着性の種族(sedentary species)に属する生物に及ぶ( 海洋法条約第77条④ )。●第2節 収益分配(revenue sharing)
自然距離基準、自然延長論を採用すると、広大な大陸棚を持つ沿岸国のみが利益を多く上げることになる。そこで、国連海洋法条約では、200カイリを越える大陸棚の開発で沿岸国が得た利益を国際社会に還元すべく、その一部を金銭又は現物で国際海底機構に譲渡し、同機構は、それを衡平に配分するとする画期的な制度を採用している( 海洋法条約第82条①〜④ )(※注4)。※注釈
1:栗林前掲書、284ページ。また、『判例国際法』、160ページ。
エーゲ海大陸棚事件でも、国際司法裁判所は、大陸棚は法的には沿岸国の領域主権からの放射物(emanation)であり、自動的付加物(automatic adjunct)である、としている。
2:我が国鉱業法第17条は、外国人に対して鉱業権を認めていない。
(:山本前掲書、401ページ。)
3:山本前掲書、397〜398ページ。
4:栗林前掲書、286ページ。
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