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■「給与詐欺」より「二重基準」のほうが問題ではないか
山本譲司民主党代議士、詐欺容疑で逮捕される(9月4日)
報道によると、東京地方検察庁特捜部は4日、民主党代議士で東京21区選出の山本譲司容疑者(37歳)を政策秘書の詐欺容疑で逮捕した。これまでに判明したところによれば、山本代議士は、総選挙選に旧民主党から初当選した後の1996年(平成8年)11月、別の議員の公設秘書をしていた51歳の女性を、実際には秘書業務につかない「名義借り」だけの政策秘書として雇用(女性は日本労働組合総連合会=連合の事務所で働く)。97年1月から99年9月までの間に、国から政策秘書の給与として40数回支給された約2360万円を詐取したという。また、この疑惑が今年5月に発覚した際、山本代議士は「(元秘書と)合意の上での寄付で、本人の了承も得ていた」と釈明し、東京都選挙管理委員会に政治資金規正法(昭和23年法律第194号)に基づく政治資金収支報告書の修正報告を行っていたが、実際には女性の同意を得ておらず、共犯で逮捕された第一公設秘書の今井昭徳容疑者(35歳)が会計責任者の印鑑を無断で持ち出したうえ、署名していたという。この為、東京地検は政治資金規正法違反(第25条①3号、虚偽記載。5年以下の禁固または100万円以下の罰金)での立件も視野に入れて、捜査を進めているとされる。
今回の事件に関して民主党は、「結党以来の危機」(鳩山由紀夫代表)等とのコメントを出し、与野党各党からの批判も浴びて、山本代議士の除名処分(但し、羽田 孜幹事長は既に離党届を受理)や議員辞職勧告を検討しているという。また、各社の報道も、「クリーンなイメージで国民の信頼を得ていた民主党に打撃」といった論調で報道を繰り返している。なるほど、この事件は民主党の「クリーンさ」が所詮単なるイメージでしか無かったことを証明したには違いないが、それでは、果たして山本代議士は、報道されているほど「汚れて」いたのであろうか。彼の行動は、そこまで糾弾されるべきものだったのであろうか。
確かに、今回の事件で山本代議士は、政策秘書のために支払われるべき給与2360万円を入手しており、流用が事実であることは疑い無い。そして、政策秘書の制度が、議員の政策立案、立法調査能力を支援し、一定の資格を持つ者に高い給与を支払ってインセンティブとすることで有識者の就任を促すことにあった以上、少なくとも山本代議士のした行為が褒められたものでは無いことだけは確かである。
しかし、よく言われるように、これだけ社会や価値観が多様化した現代にあって、それらをまとめ上げて国政に反映させねばならない政治家は金が掛かる商売であり、これは、買収や収賄といった犯罪に手を染めていない政治家も又同じである。自らの所信を多くの人に訴え、また多くの人の所信を聞くことはそれだけで大変な仕事であり、特に選挙では多数の運動員を臨時に雇用せねばならず、多くの資金を必要とするのもやむを得ない面がある。であるならば、議員本人と共に政治活動を行っている秘書達が、(あくまで本人が同意している場合であるが)その政治活動のために自腹を切って運動費に宛てることも又、必ずしも悪いことでは無いはずである(無論、それを私的に流用することは論外だが)。むしろ、ヘンに業界団体や企業から政治献金を受け、こうした圧力団体に対する利益誘導に走るよりは、余程健全な体質を維持出来るのではないだろうか。第一、もし給与の一身専属性(差押や流用をしてはならない、という性質)を理由に天引きを「違法」と評価するのであれば(過去の判例では、地方議会議員の歳費には一身専属性は無いと判示されている)、秘書はおろか全議員から「上納金」を集めている日本共産党は、巨大な「詐欺集団」になってしまうであろう。私は決して(というより全然)民主党支持者ではないし、その点この事件を「敵失」と考えれば「それみたことか」とも言いたくなるが、さりとて報道されているほど山本代議士が「悪いこと」をしたとは思えないのである。政策秘書になった当の51歳の女性も、被害者というよりは給与支給に一役買ったと見るべきだが、さりとて強い批判に値するとも思えない。
もっとも、山本代議士は、1998年の中島洋次郎代議士(当時、自由民主党所属)の政策秘書給与詐取事件の際、同代議士の議員辞職勧告決議案を民主党として提出しており、国会の場で他者の「詐欺」を批判しておきながら、同様の「詐取」行為を繰り返していたことになる。こうした「二重基準」(二枚舌)に基づく身勝手なウソの発言や行動は、議員としては無論、1人の人間として厳しく譴責されるべきである。報道では、この他にも、政治資金規正法違反、文書通信交通滞在費の流用(本人は、周囲に「国会議員っていうのは金がたまるよ。8000万円ぐらいたまったよ」等と語っていたという。事実とすれば、極めて不謹慎な発言である)等7700万円以上の流用疑惑も浮上しており、これらの点からも議員辞職は避け難いであろう。■自ら「ならず者」であることを証明してしまった北朝鮮
北朝鮮代表団、身体検査を拒否して国連ミレニアムサミット参加中止(9月6日)
報道によると、アメリカ合衆国・ニューヨークで開催される国連ミレニアムサミットに出席するため、中継地としてドイツを訪れていた金永南・最高人民会議常任委員長ら北朝鮮(自称「朝鮮民主主義人民共和国」)代表団は5日、フランクフルト国際空港でニューヨーク行きアメリカン航空機に搭乗する際求められた身体検査に反発して、サミット参加中止を決定・帰国したという。アメリカン航空の話によると、北朝鮮代表団は、同社職員が手荷物等の検査を行おうとしたところ数人が拒否。最終的には検査に応じたものの、その時点では出発の時間が迫っていたため別便への変更を提案したが、態度を硬化させた北朝鮮側は急遽北京へ向けて出発することを決めたという。これについて北朝鮮の李衡哲国連大使は、「警備当局者から、金常任委員長を含む代表団全員が質問に答え、すべての手荷物を開けて検査を受け、局部に至るまでボディーチェックを受けなければならないと言われた」「米国の行為はフーリガンのみがやれることだ」「わが国の主権に対する耐えがたい侮辱」等と述べ、アメリカ側を厳しく非難した。
今回、アメリカン航空側がこのような厳重な検査をした(当初、代表団はルフトハンザ・ドイツ航空機で渡航する予定だったが、急遽アメリカン航空に切り替えたため、アメリカン航空側は北朝鮮代表団の搭乗を事前には知らなかったという)のは、テロ支援国家リストに載っている国の国民のアメリカ国籍航空機搭乗の際警備を強化すべきことを定めたアメリカ連邦航空局の規則(FAA Regulation)があったからだが(アメリカや国連が信任する外交官はこの手続きを免除される)、アメリカ側にそれ以上の「悪意」は無く、また着衣を脱がせるといったことは無かったという。無論、日頃朝鮮労働党の大幹部として行動している代表団一行にとって、テロ容疑者の如き検査を受けるのは不愉快なのかもしれないが、さりとてサミット出席(しかも、これはアメリカが主催しているのではなく、たまたま国連本部がアメリカにあるため同地で開催されているに過ぎない)を取り止めるほどの大問題ではあるまい。恐らく、今回の事件は、アメリカに言い掛かりをつけて米朝関係を冷却化させ、対北朝鮮関係で温度差のある米韓両国の離反を狙ったものであろう。第一、こんな瑣末な問題にケチをつけて国際会議を欠席するというのは言い掛かりに他ならず、却って自分達が礼節と寛容を知らぬ「ならず者国家」「フーリガン」であることを喧伝しまったのではないだろうか。■完全に矛盾するロシアの態度
海上自衛隊三佐、スパイ容疑で逮捕(9月8日)
報道によると、警視庁公安部と神奈川県警の合同捜査本部は8日、防衛庁防衛研究所の研究員で海上自衛隊三等海佐の萩崎繁博容疑者(38歳)を自衛隊法第59条(守秘義務)違反で逮捕した。萩崎三佐は在日ロシア連邦大使館の駐在武官ビクトル・ユーリー・ボガチョンコフ海軍大佐から数回に渡って飲食の接待や現金数十万円の賄賂を受け、代りに自衛隊から不正に持ち出した書類等の情報をボガチェンコフ大佐(44歳、ロシア軍参謀本部情報総局=GRU出身)に提供していたものと見られている。萩崎三佐とボガチェンコフ大佐は7日午後7時頃、密会中の港区内の飲食店で警視庁公安部の捜査官らに囲まれ、任意同行を求められたが、ボガチェンコフ大佐は外交特権を理由に拒否。その後、事情聴取応諾の要請も拒否し、9日午後0時、成田空港からモスクワ行きアエロフロート航空機で出国したという。外交官の特権・免除を定めた「外交関係に関するウィーン条約」第29条は、外交官の身体を不可侵(如何なる方法によっても抑留し又は拘禁することは出来ない)とし、接受国は「相応な敬意を以って外交官を待遇」すべきことを定めている。
ところで、今回の事件に関してロシア外務省は8日、「今回の事件は日露間の前向きな傾向に不満な勢力が日本におり、この勢力が挑発的な手段を使って両国間にパートナーシップを建設するという仕事に影を落とそうとしている」と非難した。また、「ロシアの影響力ある筋」はインタファクス通信に「事件に対するロシア側の否定的な態度を表明するため、八日中にも適当な外交的措置を取ることもありうる」と、報復措置の可能性を示唆したという。事実とすれば、極めて不当という他無い。もし、ロシア側が今回の事件を「不満な勢力」による「挑発」だと強弁するのであれば、ボガチェンコフ大佐の事情聴取に応じるべきであるところ、大佐は萩崎三佐逮捕の翌日にそそくさと出国しており、言行不一致も甚だしい。11月に訪日予定のセルゲーエフ国防相も「事件には何の根拠もない。これは戦術的なものかもしれないが日本側の戦略的な誤りではない。日露の軍事協力には何の影響も与えず時間が解決するだろう」と意味不明のコメントを述べており、いずれも共産主義ソ連時代を彷彿とさせる不誠実さを顕わにしている。さすがに、国連ミレニアムサミットに参加中のイワノフ外相は8日夜、「われわれは事件が両国関係の発展に影響を与えないことを望んでいる。日露関係は軍事の領域を含めて進展していくと確信している」と述べ、穏便な姿勢を見せたが、日本側は、中川官房長官の記者会見で、既に「防衛交流の見直し」を発表しており、関係改善のバトンはロシア側に手渡された格好だ。■少年法改正案に賛同する
連立与党、少年法改正案を決定(9月12日)
報道によると、自民、公明、保守の連立与党3党は12日、少年法改正に関するプロジェクトチームの会合で、次期国会に提出する少年法改正案の議員立法案を決定した。それによると、(1)検察官送致(逆送)の対象年齢を、従来の「16歳以上」から刑法上の可罰年齢である「14歳以上」に引き下げる、(2)殺人や傷害致死など故意に生命を奪う犯罪(交通事件等における過失致死は除く)を犯した16歳以上の少年については、原則として家庭裁判所から検察官に逆送致し刑事裁判を受けさせる(「原則逆送」)、(3)検察官の関与などとなっている。
昨今の一連の少年犯罪報道からも既に明らかにされているように、現行少年法は非行少年に対してあまりにも寛大な法制度となっており、少年のあり方が多様化した現代我が国社会にはそぐわないものとなっているのは明らかであって、改正案には全面的に賛同したい。一部報道では、この改正案を「厳罰化」等とし、「少年に愛と希望を与える」という少年法の理念に反する、福祉的な行政処分である審判に訴追官たる検察官を関与させるのはおかしい(もっとも、非行事実が明らかでなければ更正もなにも無いので、まずはその事実認定から行わなければならないときに、検察官を関与させることには意義がある。「訴追官だから」云々というのは形式論であって、それならば付添人として関与している弁護士も問題になろう)、刑務所では少年を処遇する設備が不十分(刑務所の設備・処遇体系を教育刑の視点に立って改善すればよいのであって、刑事罰を課さない理由には全くならないのである)、といった論調が依然として見られるが、議論の地平を誤ったものと言わなければならない。何故ならば、現在問題とされているのは、少年法の理念そのものではなくて、その理念の適用対象(無論、適用対象も理念の一部という考え方にたてば、理念そのものが問題視されているとも言えるが)だからである。例えば、もし私が、少年の万引き(窃盗罪)の被害者になったとしても、財産的損害は補填し得る上、被害も軽微であれば、蒙った損害に目をつぶって犯人の少年を「赦し」、その少年の更正と将来のため少年法の理念に従った保護処分を受けさせることも出来よう。しかし、もし私が(あるいは私の家族が)、少年の殺人の被害者になったとしたらどうだろうか。「殺人」という損害を蒙ってもなお、犯人の少年を「赦し」て彼の将来のために保護処分を甘受しなければならないのか。それとも、「殺人」は「窃盗」と違って取り返しがつかない犯罪であり、斯くの如き重大な損害を受忍してまで少年法の理念を受け入れるべき道理は無いとして、少年を刑事裁判に送致するのか。つまり、我々が少年犯罪被害者の当事者となったときに、どこまで自分自身を犠牲にして非行少年を「赦す」ことが出来るのか。これこそが現在問い直されている少年法の「問題」なのである。
この点、現在の与党改正案は、故意の殺人に関しては原則逆送を認めている。つまり、与党案には「国民の皆さん、非行少年を赦してあげることは大切だが、自分の命を犠牲にしてまで赦すことはないですよ」とのメッセージが込められているのであり、そしてこの考え方は極めて妥当である。その他に改正案に不満が残る点があるとすれば、被害者の少年審判出席(更正のためにはむしろ必要であろう)、少年法適用年齢の引き下げぐらいのものであろう。
ちなみに、少年法適用年齢引き下げ問題(保守党は、現行法の適用を20歳から18歳に引き下げるよう要求している)については、一部に「ならば選挙権も18歳から与えるべきだ」といった反論が聞かれるが、全くナンセンスな議論である。適用年齢は各々の法律の意義に基づいて決められるべきであって、政治的判断が可能かどうかを意味する選挙権付与年齢と、少年法の保護の対象とすべきかどうかの境目となる少年法適用年齢は、同じ水準で考えられるようなものではない。例えば、現在でも、民法では未成年で結婚した者は成年に達したものと看做す(成年擬制)ことになっているが、だからといって少年法が適用されないわけではない。また、皇室典範によれば、皇太子は18歳で成年に達するとされている。■自衛隊のエチオピアPKO派遣を躊躇すべきでない
国連安保理、エチオピアPKO増員を決議(9月12日)
報道によると、国連安全保障理事会は15日、「国連エチオピア・エリトリア派遣団」(UNMEE)の定員を4200人に増員する決議を全会一致で採択した。これは、今年6月に国境紛争の停戦に調印したエチオピア、エリトリア両国の監視のために派遣されるもので、①幅員25キロの「臨時安全地帯」を国境沿いのエリトリア側に設置、②UNMEE要員の安全、移動の自由、任務遂行に必要な支援の確保、③人道支援活動に従事する者への安全確保、④早急な地雷の除去を併せて決定したという。
ところで、UNMEEについては、この決議とは別に、国連側が我が国に対し陸上自衛隊の派遣を要請しており、政府の対応が注目されている。今のところ、国内報道では専らあっせん利得罪法や少年法改正などが議論の中心となっていて、PKOについての議論はほとんど聞かれないが、常任理事国入りを目指している我が国としては、UNMEE派遣を躊躇すべきではない。■裁判官の気迫を感じた判決
横浜地裁、強盗強姦殺人犯に無期懲役判決(9月18日)
報道によると、1998年6月と8月に、神奈川県横浜市で強姦目的で少女2人を襲い、うち1人を殺害するなどして強盗殺人罪、殺人未遂罪、強姦致傷罪等の罪に問われた住所不定の運送会社アルバイト、板垣 学被告(30歳)に対する判決公判が18日、横浜地裁であった。判決の中で岩垂正起裁判長は、「人命軽視の態度が甚だしく、欲望のおもむくままに行った、人間の所業と見るには耐え難い犯行」等として板垣被告人を厳しく批判。「犯行は極めて重大で償いがたい」としたうえで、死刑判決の際の慣例と同様に判決主文の言い渡しを後回しにした。そして、検察側の求刑通り無期懲役の実刑判決を言い渡し、「限りなく死刑に近い領域に属する。現在、死刑に代わる刑罰として仮出獄の認められない無期懲役刑の制度化が論議されているが、仮にその制度が実現したならば、その無期懲役刑に処するのが相当」と付け加え、事実上の「終身刑」を言い渡した。 また、未決勾留期間を刑期に算入しなかったという。
判決等によれば、板垣被告人は、1998(平成10)年6月29日午前3時頃、神奈川県横浜市鶴見区内の公園で、携帯電話をかけていた無職の少女(当時19歳)を背後から襲い、首をゴムひもで締め上げ気絶させた上、強姦した。また、同年8月14日午後9時15分頃には、横浜市保土ケ谷区の路上で、帰宅途中の関東学院女子短期大学1年生、宮川監子さん(当時18歳)を背後から襲い、植木畑に連れこみ、タオルで首を絞めて暴行・強姦した上殺害し、現金約9000円が入ったハンドバッグ1個を奪ったという。これは、類型としては極めて悪質な犯罪であり、それだけに、裁判長としても、実質約15年で仮釈放が認められてしまう(もっとも、無期懲役なので保護観察は終身続くが)現在の制度をそのまま適用されては困ると思ったのであろう。裁判官の気迫を感じた判決であった。■人権擁護局こそ役割を終えるべき
公安調査庁、「憲法保護庁」に改組する計画があったことが判明(9月20日)
「日本経済新聞」20日付け朝刊報道によると、2001年からの中央省庁再編に際して、法務省公安調査庁を憲法の遵守を目的とする「憲法保護庁」に衣替えする計画があったという。これは、「公安調査庁は役割を終えた」とする法務省幹部の指摘を受けて、公安調査庁側が提案したもので、組織防衛をはかったものとされている。
しかし、本当に公安調査庁は「役割を終えた」のであろうか。カルト教団の跳梁を指摘するまでもなく、今日の我が国現代社会においては、戦後半世紀にわたる「自由の拡大」の結果、反社会的な団体が生まれる土壌は拡大しており、従来型の極左暴力集団、過激派とは異なるタイプの団体が生まれる可能性はむしろ高くなっている(そしてまた、従来の極左集団も依然存続しており、一部は過激派環境保護団体へと衣替えしているという)。そんな中で、破壊活動防止法の必要性は全く薄れておらず、故に調査庁の役割もまた不変なはずであって、まだまだ「役割を終えた」とは言えない。少なくとも、裁判所と役割が重複するような「憲法保護庁」などという組織に改編する必要性は全く見出せない。
むしろ、役割を終えたといえるのは、法務省本省に設置されている人権擁護局ではないだろうか。そもそも、行政機関側が「人権擁護」の組織を持っているということ自体、(特別な司法警察権を持っているということでもなければ)原理的におかしなことであるし、外部の市民団体や弁護士団体、あるいは司法当局に任せたほうが効率もよいだろう。それに、戦後半世紀たって、我が国の人権環境は、(無論、市民団体の側からすれば不十分な点は見出されるのかもしれないが)昔と比べて遥かに改善されている。これこそ、「役割を終えた」組織の典型ではないだろうか。■「強制連行」は選挙権の理由になるのか
野中自民党幹事長、地方参政権付与を「強制連行で日本に来た永住外国人に限定する」案を主張(9月20日)
報道によると、自由民主党の野中広務幹事長は20日、産経新聞社等のインタビューに応じ、永住外国人に地方参政権(選挙権)を付与する法案の取り扱いに関連して、対象を、終戦までに「強制連行」によって来日した外国人とその子孫(韓国人)に限定する考えを示唆した。これは、同法案を巡って、特に自民党内に強い異論があることを考慮した打開策とみられるという。
野中幹事長は、この提案をした理由について、「(在日)一世は、日本国民として創氏改名をさせられ、兵役にも従事し、日本国民として困難な時代を乗り切ることになった。日本社会に貢献し、義務を果たした一世やその子孫にわが国の地方参政権を与えることは、日本が国際国家としてありうる道ではないか」と述べたというが、果たしてそれが参政権付与の理由になるのであろうか。強制連行の結果我が国に定住した人々に対して色々と配慮するのは当然だが、それは戦後補償という形で実現されるべきものであって(そして、それは日韓基本条約で妥結している:無論、旧軍人に対する恩給問題など残されたものもあり、それは解決されなければならないが)、だからといって国民主権原理を曲げて選挙権を付与していいことにはならない。また、既に与党内からも指摘されているように、この案では「強制連行」の定義が曖昧で、実際問題として選挙権者を認定するのが困難という問題もある。当時の「連行」は「募集」「官斡旋」「徴用」等があったが、帝国臣民として任意に移住した例も多く、一律に「戦前、戦後」と区切るわけにもいかない。
この問題については、21日、自民党内に有志国会議員でつくる「外国人参政権の慎重な取り扱いを要求する国会議員の会」が設立されており、奥野誠亮元法務大臣、葉梨信行自民党憲法調査会会長、臼井日出男前法務大臣、倉田寛之元自治大臣、平沢勝栄代議士ら32人が出席したという。与党内での動きを見守りたい。
製作著作:健論会・中島 健 無断転載禁止
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