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「昇格」した防衛庁
〜総理府の外局から内閣府の外局へ〜

中島 健

 1月6日からの中央省庁再編で、我が国の行政機構は1府12省庁の新しい体制に移行する。省庁再編論議を巡っては、巨大な公共事業官庁「国土交通省」の誕生や省名を巡る対立に加えて「各省庁をくっつけただけで改革になっていない」といった批判もあり、1995年の行政改革会議設置以来5年を要したが、それが遂に実施されるわけである。
 ところで、今回の省庁再編に伴って、自民党その他の保守系政党・議員の中から、これを期に防衛庁を「国防省」ないし「防衛省」に昇格すべきである、という主張が登場した。従来、防衛庁防衛庁設置法 )は、 国家行政組織法3条 の定める「3条機関」ではあったものの、警察予備隊時代にその本部が総理府に置かれたため、現在(2000年末)でも総理府の外局に位置付けられ、長官に国務大臣を以って充てる「大臣庁」ではあるものの、位置付けとしては中小企業庁特許庁気象庁等と同格である(総理府と他省とは、長が内閣総理大臣か国務大臣かの違いに過ぎない)(もっとも、気象庁等の内部部局が「部」で編成されているのに対して、「大臣庁」である防衛庁のそれは省なみの「局」で編成されている)。従って、防衛庁は、独自の行政立法(省令)を制定することも出来ず、予算折衝では総理府枠で扱われることになる(内閣総理大臣の直接の指揮監督下に置かれる。これに対して、他の省は「内閣総理大臣」ではなく「内閣」の下に置かれる)。しかし、防衛庁・自衛隊が国民に認知され、その重要性が認識された今日、「国防」という国家にとって最も重要な任務を扱っている防衛庁が、「総理府の外局」に位置付けられているのはおかしい、というのである。
 私もまた、防衛庁の「省」昇格には賛成である。特に、今回の省庁再編で環境庁が「環境省」に昇格していることと比較しても、防衛庁だけなお「庁」として残されている(それも、経済企画庁や科学技術庁といった従来の「大臣庁」が悉く統廃合されてしまったため、防衛庁は再編後残る唯一の「大臣庁」であり、「副大臣」「大臣政務官」の代りに「副長官」「長官政務官」が置かれる)のはバランスを欠いているように思われる。

 

▲防衛庁(左、東京都新宿区市ヶ谷)と環境省(右、東京都千代田区霞ヶ関)

 ただ、実は、再編後の防衛庁は、見方によっては「昇格」しているとも言えなくもないのである。下図を御覧頂きたい。これは、省庁再編後の中央省庁の姿であるが、これを再編前と比較してみると(図にマウスポインターで触れると、旧省庁の図が現れます)、防衛庁の立場は「3条機関の外局」から「内閣府の外局」へと「昇格」していることが見て取れる。

図1 我が国の中央省庁(国務大臣を長とするもの)
:マウスのポインターで触れると、平成13年1月6日以前の中央省庁の図(但し金融再生委員会は省略)になります。

我が国の中央省庁

 即ち、従来防衛庁は、国家行政組織法第3条に定める「府」の外局たる「3条機関」として、前述したように(大臣庁であるとはいえ)中小企業庁や特許庁と同等の地位にあった。しかし、再編後の防衛庁はいわゆる「3条機関」ではなくなり、その法的根拠は内閣府設置法第49条となった(なお、内閣府の下には他に金融庁宮内庁が置かれているが、金融庁は「49条機関」ではあるものの「大臣庁」ではない。また、宮内庁は「49条機関」ではなく、内閣府設置法第48条の定める特別の機関である。そのため、内部部局も「部」ではなく「職」になっている)。また、従来の総理府が各省と同格の「3条機関」であったのに対して、内閣機能の強化を目指して設置された内閣府は、独自の法的根拠(内閣府設置法)を持った機関ということになり、各省の一段上にあって、政治主導の調整機能を果たすことになっている(総理府と内閣府は、だから、名前は似ていても機能は全く異なるものである)。つまり、新省庁体制において防衛庁は、国内の治安を守る国家公安委員会と共に、「各省の一段上」である内閣府の一員となったわけであり、「各省の一段下」であった従来の位置付けから「二階級特進」したといえるのである(環境庁は「一階級進級」)。
 とはいえ、国家の防衛を担う重要な官庁の名前が「庁」というのは、他の省庁と比較して軽い扱いとの印象を拭えない。現在の「内閣府の外局」という位置付けを変更するかどうかは別として、今後その名称を見直して行くとすれば、やはり「国防省」が相応しいのではないだろうか。

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


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